22.魔術を学ぼう 黒鳥とキノコ2
「‥‥‥」
「‥‥‥」
今思えば黒鳥の前半戦はキツいがある意味楽だったのである。
特級王宮魔術師でありながら、冒険者としても活動中の火魔術師のラナと水魔術師のロン。ロズウェル隊長の命で国の垣根を飛び越えて特級魔獣と呼ばれる魔獣討伐にも挑む。
ラナの刹那の極大爆炎に巻き込まれたり、ロンの予想を超える大津波で魔獣と共に押し流されたり、その他に多々あった反面、学ぶ事も多かった。特に身を守るための炎壁や水壁などの防御魔術である‥‥。
喧嘩っ早いがさっぱりした性格で人情家でもある二人との会話は笑いの絶えないものだった。
同じく特級王宮魔術師で風魔術師のヴィもだ。知識人で研究者気質のヴィとの研究はとても興味深かった。研究手順の厳密な管理や微細な調整、正確な記録なども示唆に富んだものだった。
煮詰まった時には風魔術で空飛ぶ絨毯や格好いい飛行ポーズを真剣に考えもした。因みに今の所はスッと空気を切り裂く流線型、ツバメスタイルが一番格好いいで一致している。
そして問題の後半戦である‥‥‥。
土魔術師のポール。陽気で元気一杯の十代後半。トレードマークは麦わら帽子に肩にかけた手拭いである。
畑を作ったり、野菜の収穫までは良かった。その後、ロズウェルの命で様々な調査に向かうのだが、うっかりで山腹崩壊やら地割れ、大陥没穴やらを引き起こす。うっかり特級魔術師さんでもあったのだ。
しかも元の状態に戻すのは得意ではないらしい。後を追いつつ、ひたすらフォローと後始末の日々で、とても大変だったのである。
次が闇と光魔術師のルーク。黙っていたら歳下の美少年だ。闇魔術を使った黒鳥の連絡方法、黒ひよこ。影を繋げた転移などは面白かった。
しかし諜報員や凶悪犯罪者の捕縛。そして、その後のお話? を聞くところから怪しくなり、精神をゴリゴリに削られて色々な意味で疲労困憊。特にうっそりとした表情で攻撃魔術と回復魔術の掛け合わせにはドン引きである。
そして最後の無と空間術師のナシ。フードを深く被り、顔も性別も分からない。そして無言が続く‥‥‥。
◇◇◇
季節は真夏。そして、秋を感じさせる涼しい風が通り抜ける。
そう、意味不明なのは夏本番なのに、キノコ狩りのために秋っぽい環境を魔術で整えたからだ。
とにかく、キノコの森に限っては秋真っ盛り。
初物のキノコ狩りが行われ、キノコの炙り焼きで送別会が始まった。
「リリーが来てもう二月か、あっという間だったな。
おっ、ヴィ、もっと満遍なく炙れ」
「ちょっ、先端が焦げたじゃない。炙り過ぎよっ!」
「なら、ロンラナコンビがやればいいだろう」
「僕、トマト持ってきたー」
「ふっ、ポールは相変わらず、マイペースだよね」
「‥‥‥」
ふわっと広がるキノコの良い香り。毒キノコが混じってないか密かに心配である。
「おっ、すでにやってるな」
銀色の髪をサラサラと風に靡かせてやってきた黒鳥隊長のロズウェルだ。いつものように着崩したシャツでも、顔の造形と相なって麗しい。
早速、ロズウェルがグラスを高く掲げて乾杯の音頭をとった。
「今日はリリーの送別会だ。リリーの前途を祝して、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
注目を一身に浴びての乾杯に、嬉しいやら恥ずかしいやら。顔が段々と赤くなっていくのが自分でも分かる。
「うっ、ありがとうございます。皆さんにビシバシと扱かれて死にそうな思いを何度もしましたが‥‥皆さんのもとで学べたことは幸甚の至りです」
「幸甚の至りって何だよーわはははっ!」
「えっ? 工事?」
「工事はないわよっ。去年したばかりじゃない〜」
すでに何人かは隠れてお酒を飲んでいたようである。
片手に飲み物、もう片手の指の間それぞれに4本の串肉を挟んで現れたのは冒険者然のロンで、飲み食いに適した最適化だそうだ。相棒のラナが呆れた顔をしてロンを見ている。
「この料理、みんなが現地調達したのっ。私達は北部で魔獣討伐だったから、辛い香辛料が効いた郷土料理の串肉よぉ」
「僕は一日中、尋問で王宮の地下にいたからね。王宮の調理場から盗んできた」
そこ、とルークが何でもない風に指し示した先には見た目華やかに並べられたパンとチーズ。それと立派な鳥の丸焼きの香草添えの皿がある。
皆が気にしてないので、気にしないことにした。
他にも土魔術で育てたポールお勧めの艶やかなトマトがテーブルの上に無造作に転がっていたり、ヴィはワインと飲み物を持ってきてくれた。そして隅てはナシが見守るように佇んでいる。
ワインが並べられた頃から本格的に送別会が始まり、キノコはふっくらジューシーで芳醇な香りに独特の旨味。クセになりそうな美味しさだ。
「リリアナ、隊長として報告は受けているけど、面白いから皆にもどんなことを学んだか話してあげてよ」
「ええ、もちろんです。ラナさんとロンさんからは、火の鳥や水の鳥を魔術で造形して、誰が一番早く飛ばせるか、魔獣討伐のコツ、それとお酒の良し悪しを——」
ロズウェルのギロリとした視線がラナへと向き、ラナの焦った声が上がった。
「はいはいっ! そこまでよおー」
そういえばお酒の話はロズウェルに伝えていなかった。
「え、えっと、ヴィさん。風魔術を使って声を拾ったり、逆に拡散したり、連絡の取り方。それと違う属性の魔術陣に風魔術陣を重ね掛けて、効果的に威力を上げる研究に携わりました」
『おおー、流石ヴィだ』の皆の声にヴィは満更でもない風に眼鏡をクイっと上にあげた。
「ねえ、二人で干し芋作ってなかった?」
隠れて風魔術で干し芋や干し果実を作っていたのがバレていたようである。皆から干しキノコも作れとヴィにやじが入った。
「あ、え、えっと、次は————」
ここには型にハマらない自由がある。
焚き火を囲んで炙りキノコを片手に喋り、笑い、頷きあう。
送別会は遅くまで続き、黒鳥との思い出をいっぱい心に溜めた。
ふとロズウェルが居ないことに気付き、周囲を見回すと
片隅の木にもたれるように背を預け、目を細めて楽しそうな部員を眺めていた。
まるでこの時を慈しむかのように。




