18.魔術を学ぼう 祝福
翌朝、父オーランドから呼び出しを受けた。
「お父様、おはようございます。お呼びでしょうか?」
「ああ、昨夜国王陛下からの御言伝を承った」
「『許可し、ロズウェルを五人目とする』」
(ロズウェルお兄様の祝福開示の申し入れに許諾されたと云う事かしら。秘密を共有している人はお祖母様、大伯父様、伯父様、私、そしてロズウェルお兄様を合わせると丁度五人になるわね)
大枠を理解したので、承知した旨を伝えた。
「その、なんだ‥‥。何か問題があったらいつでも来なさい‥‥」
いつもより、何だか歯切れが悪い。眉がやや下がっている様子を見ると心配しているのが分かる。
(あら、すっかり忘れていたけど、学院のことかしら?)
「はい、お父様。いつも優しく見守ってくださり、ありがとうございます」
「あ、ああ‥‥」
感謝を込めて礼を言うとオーランドは決まりが悪そうに顔を赤らめた。
そんな不器用な優しさに気持ちがほっこりした朝だった。
◇◇◇
ロズウェルの執務室のドアを叩く。
「おお、来たな。リリアナ、朝っぱらから君の兄さんに絡まれて大変だったよ」
参ったね、と言いながら笑みを浮かべて面白がっている。
(ブライアンお兄様かしら?)
座るように促されると同時にロズウェルが好奇心に目を輝かせて切り出した。
「リリアナ、祝福の件。父上から許可を得たから、話してくれるよね」
「ええ、ロズウェルお従兄様。いままで、三回の祝福を受けました。一回目と二回目の人生で指輪に外套、そして今回は賢者の本。祝福は何故か死に戻っ、いえ、『芋って』も無くならずに手元に残ります」
それからも祝福については参考となる書物もなく手探り状態だと断りを入れてから、今のところ把握した情報を一つ一つ丁寧に伝えていく。
「まずは一回目の祝福、古代文字の羅列が目を引く、この鈍色の指輪です。
この文字は古代文字学者によって解読されました。
意味は ”時の力を汝へ授け、世に祝福を”
ですので、この指輪こそが『芋』に深く関係があると思われます。
わたくしの意志でどうこうできるものでなく、指輪の意志ででしょうか。
付け加えで、指輪は外そうにも指に吸い付くように外れません」
「そうか。ちょっとよく見せて‥‥凄く興味深いよ」
そう言うと、手を取り、指輪を眺めながら感嘆の吐息を漏らした。
「次は二回目の祝福、外套です。外套には隠密隠蔽、認識阻害、防御、そして速度強化の付与もされているようです」
あの飛行魔術、改め飛行魔法のシューっと弓で射った矢のような高速飛行を思い出して、背筋がブルっとした。
空間収納から取り出した外套を見せながら、つい先日知った念じると色と形態が変わることも説明する。
「そして三回目、今回は賢者の本です」
「うん、これは父上から聞いたよ。この腕輪だよね。賢王サリエルが秘密裏に所持していたそうだね」
そう言ってから、思い出したように声を上げた。
「あっ! 父上の話によると君以外は手に触れることもできないって、ホント?」
ニヤリと悪戯っ子のような笑みで目配するところを見ると、早速試してみたいようだ。
「ロズウェルお従兄様、まずは外套」
外套をほいっと手渡すと、ロズウェルの手を通り抜けて床に落ちた。
「おお!」
次は腕輪の魔法を解除して、一旦賢者の本に戻してから、目の前のテーブルにどすっと置く。
金箔押しの繊細で豪華な装飾装丁に十二種類の宝石。ほぅ、と息を漏らして賢者の本を見定めるようにまじまじと上から下まで眺めてから、手を伸ばすも空を切った。
「おお、これもか! こりゃ、盗まれなくて良いね」と目をぱちくりさせて楽しそうに笑う。
「あっ! 誰も触れられないなら、『賢王サリエルが身罷られた時に腕輪が消え去った』の一節が書物にあったんだけど、それは腕輪自ら王宮の祈りの間、祝福の間に戻ったってこと?!」
世紀の大発見だと、拳を握りしめて情熱的に感動している。そう言えば、魔術師団長は鬼才で魔術馬鹿とも聞いたような?
「そ、それで、賢者の本の中身は?」
表紙の消えかけた古代文字を指し示しながら、昨日の話を聞くまでは魔術と思っていたが、『魔法陣叢書』である事。
本の留金がカシャリと外れ、白紙のページがひとりでにパラパラと捲られて、見たこともない魔法陣が浮かび上がる事を伝える。
他言無用だった事もあり、この大発見を分かち合える人がいなく、寂しく思っていた。堰が切れるようについ熱く語ってしまう。
「こ、これは驚きだ! 賢王サリエルは古代魔法の魔法師でもあったということだよね」
ロズウェルが本当に驚いたという声を上げた。
すぐにでもその魔法を見せて欲しいとのことで、ロズウェルの案内で地下へと足を運ぶ。
二人の厳つい近衛騎士によって厳重に警備されている扉の先は、古い石造りのとても小さな部屋だった。無理すれば三人は入れるだろうか。
「私が転移で使っている部屋だよ。王宮には転移を無効化する結界魔術陣が張られているので、特別仕立てなんだ」
言わば王宮結界のへそ、弱点でもあるので、万が一の侵入者に備えて転移できる人数を絞った結果がこの部屋の大きさだと言う。
部屋にむぎゅうっと無理やり二人で入り込み、ロズウェルの魔術で転移した。
「あっ、ごめん。ご婦人のドレスの事まで考えてなかった」
ドレスのスカート部分をふんわりと膨らませる丸いパニエが、ほぼ四角になってしまったのである。
「‥‥‥‥」
軽く頭を振ってパニエのことは頭の端に追いやる。改めて周りを見ると、風が爽やかに吹き抜ける見渡す限りの草原だった。青空の青色と草原の若草色。目に優しくいつまでも眺めていられる。
「はいはい、ぼけっとしない。賢者の本の魔法を見せてよー」
急かされて魔法を見せていく。
「うっ、魔法陣は目にすることができない? 無駄を極限までに削ぎ落とした究極の完成度、究極の美は目に見えないとかか‥‥くぅ‥‥」
時々ため息が混じりながらも深く考察している。途中で鬼気迫る様子で走ってきた。
「———?!」
「右眼、右眼に魔法陣が一瞬輝いて見えたよ!」
ロズウェルは恍惚と、そしてうっとりと熱を帯びた顔で語る怪しい人になってしまった。
「賢者の本の魔法は神級の古代魔法かもね。古代魔法は神の魔法とも言われているんだ。学者達の間では深淵魔法とか森羅万象魔法とも呼ばれているしね。
そんな古代魔法を最古の魔術師が一部取り込んでできたのが古代魔術。古代魔術を参考に改良したのを現代魔術と言うんだ。
とにかく、古代魔法の力は途轍もないんだよ。リリアナは自身の力の影響力を考える事。それと繊細な調整に実践と経験を積むことが大事になるね」
この後は、何度も「ねぇ、もう一度見せてよー」の催促に振り回されたのである。




