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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第一章 武者修行

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17.魔術を学ぼう 理解者

春も終わり、初夏の爽やかな風が心地よいこの日、王立高等学院の魔術科に入学する。


姿見に映る白のブラウスに腰からふんわりと流れるような紺色のワンピース。濃い赤紫色のリボンと紋章が品よく胸元を飾っている。


そして、さっと学院伝統のローブを羽織り、仕上げに父オーランドからもらった防御付与の指輪をはめた。


王都に屋敷が買えるほど高価な品だが、娘の安全には代えられないとの親心が詰まったもので心がほっこりする。


さて、学院の初日はクラス分け試験からだ。




◇◇◇




「はい、君が魔王だね。報告が上がっているよ」


着崩した白シャツで、執務椅子の背もたれに背中を預けているのは、

この国の筆頭王宮魔術師団長のロズウェルである。


ほら、と手にしている紙をひらひらさせた。


「試験で無詠唱の極大爆炎。ニタリと笑いながら上空に浮遊っと」

「ニ、ニタリとは笑ってませんわ」


火事になるのが怖くて、そうは使えない火魔術を丁度いい機会だから試したのだ。ついでに浮遊したのは火魔術の出来をただ上から見たかったからである。



ロズウェルが少し考えるように俯くと、後ろで軽く一つに纏めている銀髪がさらさらと肩から流れる。薄水色の瞳を持つロズウェルは従妹の欲目でなくとも美丈夫だ。


そして、筆頭王宮魔術師団長であると共にこの国の第二王子、私の従兄でもある。


「高等学院ではクラスによって違いはあるけど、初級魔術から始めるんだよね。君さ、特級魔術を突然披露したから魔王とか呼ばれているんだよ」


揶揄うような笑みを口元に浮かべて、「等級が良くわかってないようだからね」とロズウェルが指を折りながら説明する。


「初級魔術、中級魔術、上級魔術、準特級魔術、そして特級魔術だ。極め付けに全属性で魔力量も最大ときた。


そこでさあ、学院も君の扱いに困っているし、学院の単位はあげるから、特級王宮魔術師達の下で勉強するのはどう? 君の兄、ローレンにもよろしくって、———-えっ?!!」


そこまで言うと突然執務椅子から弾かれたように立ち上がり、信じれないとばかりに目を大きく見張っている。まるで大竜でも見たかのような驚き方だ。


先程までとは違い、顔色も真っ青である。今にも倒れそうな様子の従兄を心配して立ち上がって一歩進むと、ロズウェルが一歩下がるで、とうとう窓際まで追い込んでしまった。


(ど、どうしたのかしら?!)


何度か魚のように口を開けたり閉じたりとぱくぱくしながら、何か話そうとしているようにも見える。


(あら? まさか、魔王と自分で言ってて怖くなったのかしら?)


「ロズウェルお従兄様、軽く息を止めて、息をゆっくり吐き出してー。はい、吸ってー」


「くっ、ふっ——、ふぅ。リ、リリアナ、君、ひょっとして?」


「はい?」


ロズウェルはどう切り出そうか、と少し考え込んだ様子の後に絞り出すように声を出した。


「二度だ。二度死に戻った‥‥」


「———っ!!」


頭の中にその言葉が渦巻き、しばらく時が止まったように動けなかった。

「えっ、ど、どうして‥‥?!」


「死に戻る際に体を包むような眩しい光の粒子が見えたんだ。その指輪からその光の粒子、魔法の残滓を感じ取った‥‥‥」


二人とも暫し呆然とした時を過ごした。孤独な戦いに理解者の存在がゆっくりと心に沁み入る。



「リリアナ、提案なんだけど『死に戻り』うぷぅ、の言葉は言わないってどうかな? 鮮明な記憶が蘇って、ぶふぅ‥‥」


この世にある酸っぱいものを一度に口にしたような顔で胸を押さえている。


「わたくしも、くうっ、あの感覚が生々しく‥‥」

あの辛い出来事と体験が突然蘇り、精神をゴリゴリと削る。


言霊という言葉があるくらいなので、心の中でただ思っているのと、口にするのには大きな違いがあるようだ。


「私は、思っていたよりも‥‥繊細なようだ」


「いえ‥‥うっ、耳にするだけでも、結構来るものが‥‥」


耳にするのも思っていた以上の破壊力である。二人とも暫くの間、ぷるぷると身悶えてしまった。


しかし、言葉がないのは不便ということで色々考えた末に『死に戻り』の代わりに『芋』を使う事になった。芋なら転がっているだけで、無害で怖くないかも、との理由からである。



それからは、怒涛の体験談の言い合いになった。ロズウェルも同じくで、他の人に『芋』の話を伝えようとすると、まるで頭の中に霧がかかったような状態になると言う。


結局、思考や記憶に問題はないが、伝える事を念頭にすると声に出せないし、文字に残すこともできない。本の単語を指差して伝えようとしてもダメだったことを話すと、ロズウェルは絵で試したそうだ。


「『芋』に関して一切伝える事ができなかった。何かの制約かな? とにかく伝えられないもどかしさは結構堪えたよ」


「お従兄様とお話ができるのは『芋』の当事者同士だからでしょうか」


二人とも矢継ぎ早に話し続けて、喉がすっかりカラカラだ。紅茶で一息入れようとのロズウェルの提案に言うまでもなく大賛成である。


静かな執務室にロズウェルの紅茶を淹れる音だけが響く。

白い湯気が立ち上り、柑橘系の香りが心を穏やかにしてくれる。


爽やかな香りの紅茶でゆっくりと喉を潤した。



「それで‥‥その指輪のことを話してくれるかい?」


「ええ、この指輪は一度目の人生で祝福とし得た指輪よ。王宮の祝福に関しては国王陛下から口外しないように厳命を受けているので、ロズウェルお従兄様にお伝えできないのが心苦しいわ」


「王宮の祝福については知っているけど、すごーく気になるな。こちらから、父上に掛け合ってみるよ」



それからは今までの事を遡って、話したり、聞いたり、相槌を打ったりと会話が止まらない。


「ええっ?! 冒険者言葉? リリアナが?!」


「そうよ。貴族的な言い回しは独特だし、周りくどいでしょう。時節や流行を知らないと意味も分からないこともあるし。その点、冒険者の真っ直ぐな感情の言葉はスッキリするし、胸にくるの。


しかも便利なのよ。『失敗したんじゃないかしら』を『クソがっ』で、10文字以上の言葉をたったの3文字に省略することもできるし」


「あはははっ! そりゃ、いい! 最高っ!」

膝をバンバン叩きながら、涙をこぼして大笑いのロズウェルだ。


「それにしても、すごく頑張ったんだな。二度目の人生で文官の勉強に馬術に体術、剣術もだっけ?」


「そうよ、強くなくては生き残れないもの。今は魔術を学んでいるわ」


「ぶふっ、そう、得意げに鼻を膨らませなくてもいいから。あはははっ!」

少し自慢げに言い切ったからだろうか、ロズウェルの笑いが止まらない。


「でも納得だな、時折見せる射抜くような目つきとでも言おうか、ただの令嬢とは思えないよ」


慌てるように「いい意味で言ってるんだからね」と付け加えた。



『芋った者』は通じなかったので言い換える。『死に戻った者』が他にもいるかを尋ねてみた。


「うーん、どうだろうね。君はその祝福の指輪で当事者でしょ‥‥うん、そうかも。推測の域を出ないけど、私たちの共通点から見るに王族の血筋で魔力が莫大な者じゃないかな。もしかしたら先祖返りとも言われる銀色の髪の者かも。そうしたら今代は私達だけだよね」


なるほど。魔力が多いと髪が銀色となり、輝くばかりの純銀色はこの国で私と、ロズウェエル、次兄ブライアンだけだ。


「あら、それだとブライアンお兄様の髪も銀色で当てはまるわよ」


「昨日もブライアンに会ったんだけど、そんな様子は微塵も感じられないよ。髪の量も重要なんだよ、きっと」


「さらり酷いことを言ったわね。ブライアンお兄様、とても気にしているのよ」


「あはははっ!」


近衛騎士の訓練で暑い中を全身鎧、特に鉄兜のフル装備に問題があったようで、現時点で確かにブライアンは髪が薄い。まだ十八歳だ。今後の回復に期待したい。



「一つ気になったのだけど、指輪の魔法の残滓、残滓とは一体どんなものなのかしら?」


「それはね、リリアナも魔眼や感知魔術で分かるようになるよ。私の目には魔術の残滓が床や壁に飛び散った血飛沫のように不規則で決して綺麗ではないのに対して、魔法の残滓は水面が陽の光を受けてキラリと輝くような自然の美しさを感じる。とても小さいんだけどね」


付け加えるようにロズウェルは説明を続ける。


「そうそう、間違えやすいんだけど『古代魔法』『古代魔術』『現代魔術』の順に新しく、王宮の祝福は恐らく全て古代魔法と呼ばれるものだよ。古代魔法陣も含めて詳しくは今度説明するよ」


どうやら、祝福の賢者の本は古代魔法の本で、陣は古代魔法陣だったようだ。


「まあ、今日はさっきの祝福について父上の許可も必要だし、調べたいこともある。これからのことは改めて場を設けるから、その時でいいかな?」


「ええ、ロズウェルお従兄様にお任せします」


「よし、なら明日のこの時間、学院ではなく、ここに来てくれるかい?」


一も二もなく快諾した。

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