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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第一章 武者修行

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16.魔術を学ぼう その前に 

腰に手を当て、部屋の中央に立つ。

見回すと優美な装飾の寝台、上質な調度品にお気に入りの本棚。


「ふふ、森を駆け回り、草むらで寝っ転がる生活だったから、とても不思議な気分だわ」


今しがた国境から転移で王都の屋敷に戻ってきた。あの森で苦心を重ねて練習した『転移』は一度行ったことのある場所なら思い浮かべるだけで転移することができる。


ここまでの長距離は初めてだったが、無事に戻れた事にほっとする。

安心感からか途端にまぶたが重く、眠気がやってきた。


「そう言えば、今朝は丑三つ時に起きたのよね」


さっと冒険者服から夜着に着替えて、寝台にもそもそ入る。

強い眠気に逆らうことなく、ぐっすりと眠りについた。



「ーー、ーーーーすかっ?!」

「‥‥‥っ?」


「お嬢さま、いつお戻りになられたのですかっ?!」

「テリー‥‥もう少し寝かせて‥‥」


次に目覚めると既に翌日の昼過ぎだった。テリーによると父と兄が予定より早く戻り、屋敷はてんてこ舞いの大忙しだったそうだ。


お陰でテリー以外は転移で戻ったことを見事うやむやにすることができた。


「もう、驚きましたっ。お嬢さまがここにいらっしゃるだけでもビックリなのに、そのお姿! 例えると何でしょうか、こう、お顔もお身体もシュッと引き締まって、野生的というか‥‥?」


「‥‥‥」

野生的に返す言葉が思い浮かばない。


それからも続くテリーの取り止めのない話に耳を傾けながら、日常に戻ってきた心地よさに自然と笑みが溢れた。




◇◇◇




父と兄が無事に長期の領地視察から戻ってきた。三月ぶりの再会である。


「うっかり寝入ってしまって、初動が遅れてしまったわ。まずはお父様にあの事を認めて頂かないと」


鼻息荒く大股で食堂へと向かう。


しかし、他から見ると令嬢が優雅に歩いているようにしか見えないのが、厳しい教育をやり遂げた末に辿り着く令嬢七不思議である。



ディフラン公爵邸では、夕餉は家族と共にすることが習慣になっている。食堂に入った時には既に二人とも席についていた。


王宮に仕出する宰相でディフラン公爵家当主オーランドと嫡男で文官のローレンだ。因みに次男の兄ブライアンは近衛騎士なので寄宿舎住まいである。


端正な顔立ちでこちらを睨むように見つめているのが父オーランド。


愛情深いが鉄仮面のように無表情なので誤解されやすい。感情は眉で読み取るのが公爵家の暗黙の了解となっている。


そして、柔らかく微笑んでいるのが兄ローレン。父に似て、蜂蜜色に輝く金髪と琥珀色の瞳。


陽光を後ろにすると輝くばかりの姿に、父の若い頃の二つ名『蜂蜜貴公子』に対して、兄は『光の貴公子』と呼ばれている。本人曰く、非常に不本意だそうだ。


二人の顔を見ると突然胸が熱くなり涙が目に溢れた。忘れていたと言うか、考えないでいたというか、前回の人生で花嫁として旅立つ時に涙で見送られて以来の再会となる。


ものすごく遠い昔の話のようだ。

懐かしくて、悲しくて、嬉しくて、まさに胸が一杯で目がしょぼしょぼする。


「‥‥どうした?」

「一人で留守番させて悪かったね」


二人の『ああ、寂しかったのか』と、まるで小さな子に向ける慈愛に満ちた眉と表情に恥ずかしいやらで素直になれない。こっちは色々あって大変だったのだ。死んでしまったし。


涙をこらえるのに全力を注いでいると、オーランドが眉を顰めて聞いてきた。

「リリアナ、眉間に皺ができてるがどうした?」


慌てて眉間をさする。どうやら皺が寄っていたらしい。


「え、あの、夕日に照らされた魔石が眩しすぎて大変でしたの」

そう虚勢を張りたくなるお年頃である。


「ああ、あれね。婚約者のウィルソン辺境伯閣下から贈られた魔石、全部で十は超えていたよね? 父上、必ずしも飾らなくていいのでは? 箱に保管するとか」


「‥‥駄目だ。そのままにしておきなさい」


政略結婚の中に愛を見つけたディフラン公爵家当主オーランドの意向で、婚約者からの贈り物は部屋に飾る事が義務付けられているのだ。迷惑な親心である。


(うっ、なぜか話が逸れてしまったわ。あの話をしなくては)


思い出したように背筋を伸ばしてお願いすることにした。


「お父様、王立高等学院へ入学の件です。専攻を淑女科から魔術科への変更を御了承くださいませ」


「「なぜ魔術科?!」」


(まあ、ハモっているわね。ふふふ)

そう詰め寄られと思って予め考えていた受け答えをする。


「お祖母様にも太鼓判を押される程ですので、淑女科で学ぶことはございません。ご存じの通り、ウィルソン辺境伯領地はマルネス帝国と魔の森とも面していて危険な地。いざという時の為にも魔術を習い、備えたいと存じます」


「「‥‥‥」」


『危険な地』と強調したからか、オーランドは眉間に深い皺を寄せて口を開いた。


「‥‥すまない、そんな辺境へ。リリアナには公爵家からできるだけの護衛をつける予定でいる」


「いつもお気遣いありがとうございます。お父様の娘で幸せですわ」


心配で眉が下がってしまったオーランドに慌ててそう言うと、照れるようにやんわりと頬を染め、ごほっん咳払いを一つした。


「‥‥もう一度よく考えてから決めなさい。魔術科を選択するもしないも」


「それなら、筆頭王宮魔術師団長でもあるロズウェルに話を通しておくよ。色々と相談にも乗ってもらえると思うしね」


ロズウェルは兄ローレンの幼馴染でもあり、この国の第二王子、そして従兄でもある。



魔術を学ぶ事に関して、格式のある家門の令嬢は魔力はあっても魔術を使うことはない。あるのに使わない余裕が一族の経済的豊かさと社会的地位の証明でもあるのだ。


だからこそ最大限譲歩してくれる父と兄に感謝である。


(ふふっ、秘密裏に学んでいたけど、これで大手を振れるのかしら?)


その後は食事をとりながら、父と兄の話に耳を傾け、同じくらい喋って、涙が出そうなほど穏やかな時を過ごした。

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