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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第一章 武者修行

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14.そうだ冒険に行こう ウィル

もう、二、三日ゆっくりする予定だったが、ウィルの「体調も問題ないし、さっさと行こうぜ」で、夜明け前の闇夜にデルネス神聖国へと出発する。


ウィルは昨日買ってきた子供服の一番小さなサイズを腕まくりし、長めのパンツの裾をブーツに無理やり突っ込む。外套を颯爽と羽織って、仕上げとばかりに慣れた手つきで短剣の二振をくるりと半回転させて腰差した。


「あら、器用ね」と声を掛けたら、子供扱いするなと怒られてしまった。難しい年頃である。


短剣の一振はこの村で買った武骨な短剣。もう一振は死線を乗り越えた小さな同志への贈り物、巻きエプロンに仕込んでいた短剣の一本を贈った。


「リリーから貰ったこっちの短剣、すごくいい得物だな」

「でしょ、暗殺にも使われる短剣で切れ味抜群よ」


なんといっても、それは侍女兼護衛であるテリーのお勧めである。テリーを褒められたようでどうしても鼻高々になってしまう。


「まあ‥‥いいや」


さっさと行こうとしたウィルの外套を掴んで、『認識阻害』『隠蔽』『防御』の刻印式複合魔術陣を彫り込んだ魔石の留め具を首元につけた。


追手がかかっているらしいウィルのために昨夜用意したものだ。深い森を飛行で行くが、国境辺りで一度街道に出るはずである。


「さあ、最後の仕上げよ」


顔周りの髪を鬱陶しそうにしているので、青色のリボンを持ってにっこり笑顔を見せたら、ウィルがジリジリと後に下がる。


「おい、何だ‥‥それは」

「同じ色のリボンを付けましょう」


「それは、女物だ」

「これしかないから、仕方ないわ」


結局、頭を軽くガシガシ掻いて、「しゃーねーな。さっさとしろよ」とウィルが背を向けてくれた。


くるくるの柔かな髪をくるっと纏めてリボンを付ける。うむ、顔周りもスッキリしたし、準備万端である。



王都で買った肩掛け鞄を斜めがけにして、祝福の外套を羽織って出発だ。


たった数日、でも長く過ごした感じがする部屋を後にする。ギルドの受付には予め、日の出と共に出発すると伝えてあったので、スムーズにギルドを出ることができた。


外は漆黒の空だが、東空の裾が僅かに青付き始めている。


ウィルを抱えるか背におぶるかで少し揉めたが、抱えての飛行となった。


「ウィル、行くわよ」

「あ、ああ、落とすなよ‥‥まずは、ゆっくりで頼む」


夜明け前の冷たい風を受けながら、ゆっくりと『浮遊』で上がると、たなびく外套に紋章が浮かび上がった? 


「「ぶ、ぶぶぶへ————っ?!!」」


あら? と思っている間もなくぶっ飛んだのである。まるで弓で射られた矢のようだ。


東の空が綺麗な橙色に染まり、日が昇り始めてしばらくしてから、ウィルが私の腕をビシバシ叩いて何か言っている。


「とお、止まれ、行き過ぎだっつぅーの!!」

「えっ、行き過ぎ?!」


(そうえいば、目印の山で方向を変えるって聞いていたような?)


高速のまま半円を描くように戻るが、減速が出来ない。くるくる何度も上空を旋回しながら、徐々にスピードを落とすようにして、最後には森のふかふか地面に転がり込むように着地した。


「うっ、マジ吐きそう‥‥やべ‥‥」

「うぷっ、うぅ‥‥」


吐き気で死にそうである。


「転がったままより、少し体を起こした方がマシじゃね?」とのことで大樹の根元までほふく前進で進み、太い幹に背を預けた。


「「‥‥‥‥」」


水を飲み、ぼっーとした時を過ごしていたら、俯いていたウィルがゆっくり顔を上げた。


「お前‥‥もっと練習しろ。地面や壁に激突やら、墜落やらになったら目も当てられねーよ」


「そ、そうかも」


一度練習した時と今回の違いはなんだろうか。今回はウィルを抱っこしての飛行なので、気合を入れたのは確かではある。祝福の外套+祝福の魔術+身体強化?


チラリと外套に紋章が浮かび上がったような? 魔術は一般的な原則や法則が明確であるのに対して、祝福は何がなんだかさっぱりの摩訶不思議である。




少し落ち着いてから、朝食代わりに二人で林檎を齧る。

森の中で小鳥の囀りを耳にしながらの穏やかな時間だ。


あまりにも穏やかで、なぜか目に涙がにじむ。


色々な肩書きやら義務やらの重石を下ろして、

初めて自由に伸び伸びと肩の力を抜くことができたからか、それともまだ気持ち悪いからか。


「おい、目しょぼしょぼさせて、どうした?」


「‥‥気分転換にこうして冒険旅行に来れて良かったなって」


森を眺めながらしみじみと思う。


「‥‥そうか」


冷んやりと森からの風が通り過ぎていく。



「ねえ、ウィル。もし敵がいて、二度負けてしまったら、三度目はどうする?」


二度も死に戻って、三度目の人生を前にどうしても色々と考えてしまう。ウィルならどうするのか、ふと聞いてみたくなった。


ウィルは目を伏せて一瞬押し黙った。


「避けられねーなら、腹括るしかねーな。しっかり備えて敵と戦い、今度こそ叩きのめす。ぐうの音もでないほどにな」


「それは‥‥良い考えね。ふふっ、知り合いの冒険者の言葉を思い出したわ。『売られた喧嘩は倍返しだ。きっちり落とし前をつけさせろ』だったかしら」


前回の人生で習った冒険者格言その一である。


これからの方針は分かりやすく、備えて叩きのめすの一択。

ウィルのお陰でモヤっとした何ともすっきりしないものが消えた。


「‥‥俺も腹括んねーとな」

「え? なんて?」


不意の突風がウィルの言葉を流してしまった。

「いや、何でもねーよ」


意を決したような横顔が少し気になった。



「ところで、あの爆飛行で、予定よりかなり早くデルネス神聖国に到着しそうだ。なんなら、礼も兼ねて魔術を教えてやってもいいぞ‥‥お前、調整と制御めちゃくちゃだしな」


今は色々あって魔術が使えない。だが、教えることはできるとウィルは言う。「これでも天才って言われてた」と恥ずかしそうにそっぽを向いて話す六歳児。


(くぅ、ツンデレで可愛いわ)



「ここは迷いの森と呼ばれるほどの深い森で、人は踏み込まない。練習に丁度いいぞ。俺は俺で熱りが冷めるまで身を隠すこともできるしな」


ついでに帝国魔術も教えやる、とのウィルの提案はとても魅力的だ。


「じゃ、お願いします。ウィル先生」と言うと、ウィルは照れたように肩をすくめた。

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