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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第一章 武者修行

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13.そうだ冒険に行こう 邂逅2

「俺はデルネス神聖国へ向かう。問題は帝国の追手がかかっているかも知れないって事だな」


「えっ、帝国から脱出した上に追手までかかっているっていうこと? 親御さんは?」


「ごめん、詳しいことは言えない」


悄然としてうつむく姿に胸が痛む。事情は分からないが、ウィルは死に瀕してもここまで踏ん張って生き延びた。


決して楽ではない生き様、死に戻りの自分と重なる思いがあって、死線を乗り越えた同志のような気持ちがむくむくと湧き上がってくる。


立ち上がり、寝台で体を起こしているウィルをむぎゅっと強く抱き締めた。


「なっ、なっ、な‥‥?!」


両手をパタパタしてるウィルの顔を覗き込む。


「こんなに小さいのに、よく頑張ったわね」


もう一度抱きしめると、今度は大人しく、ただ静かに抱き締められていた。




翌日は取り敢えず、私の上着を着てもらう事にした。

ウィルが歩くとまるで上着が歩いているようで可愛いらしい。


仕上げに清浄魔術を掛けてはいても、ダゴついたままだったウィルの髪も切り揃えた。長かった髪が今ではくるくると肩に掛かるぐらいで跳ねている。


「さあ、朝食を買ってきたわよ。もりもり食べてね」


過酷な旅の様子が伺いできるほど、痩せすぎた体は痛々しく、今朝はたくさんの朝食を用意した。


「うわ、すごい量だな。あのさ、今更なんだけど、リリーはこの町に何しに来たんだ?」


「私は冒険者で冒険をしによ。期間限定の二月だけどね」


今朝も口一杯頬張り、うさぎのようにモグモグしてるウィルに今後の予定を相談する。


「今日明日はゆっくり休んで、翌々日にでも飛行魔術でデルネス神聖国まで連れていてあげるわ」


ウィルは驚いた顔でモグモグを一旦休止して、またモグモグしてパンを飲み込んだ。


「それはとても助かる。いいのか?」


「ええ、もちろん。でも数日前に覚えたばかりだから少し練習しながらだけどいい?」


「ああ、恩にきる。で、一回の飛行距離はどのくらいだ?」


正確な距離までは分からないと返したら、黙って考えこんでいる。地図はあるかと言うので肩掛け鞄から取り出して手渡した。


「飛行できる距離や速度で日数が変わるだろうけど、遠回りになって悪いがここを進みたい」


ウィルが指し示したのは深い森がある場所だった。


頷くと安心したかのように息を吐き、少ししてから船を漕ぎ始めた。ウィルは食事の時以外は常に寝ている。


なんでも病気や怪我が完全に消失する治癒魔術はかなりの体力を消費するそうで、威力の弱い回復魔術を複数回する方が体に負担が少ないらしい。


微睡んでいるウィルの小さく軽い体を寝台に運んで毛布を掛けた。



ウィルが次に目を覚ましたのは午後遅くだった。何も持っていないウィルのために、ひとっ走り買い物に行ってこようと思う。


「私は買い物に行ってくるわね。ウィルの服と日持ちのする食べ物。あっ、好きな色とかある?」


「着れりゃ、何でも良い。ただ、剣を頼みたい」

「そうね、短剣でいいかしら?」


「ああ、それか、俺の身長の半分ぐらいの長さで軽量な長剣」

「もう、子供なのに無理しないの」


くるくるの柔らかい髪を撫でたら、俺は年上だと膨れっ面だ。


「ふん、世話になりっぱなしも何だから、手伝って欲し事があれば言えよな」

照れを隠すように、そっぽを向いて話す姿が可愛らしい。


(くぅー、猫みたいにかわいい)


野良猫が無愛想でツンツンしながらも、近くに寄ってくるような、である。



日暮れ前には買い物も無事に終わり、食堂で包んで貰ったあったかシチューを持ち帰った。温かいうちにシチューを食べ終わるとウィルがキリリとした真剣な様子だ。


市井で聞いた『お仕事モード』と言うのであろうか。


「何でもいいから、お前の魔術が見たい」

「そうね‥‥何でもいいなら、これはどう?」


(『解除』)


焦茶色の髪と瞳を元の銀髪に紺碧色の瞳に戻した。ウィルは腕を組んだ姿勢のまま、食い入るように見詰め続けている。


(これが、ひょっとして『がん見』かしら?)


前回の人生で、冒険者ギルドのダンには『がん見にはがん見で返せ』と教えられたので、こちらもがん見する。


「「‥‥‥‥」」


物音ひとつしない部屋で緊張感が漂い始めた頃、ウィルが先に目を逸らせた。これはタイマンというものに勝ったのだろうか?


「お前に言う事は二つだ。一つ、お前は美人だ」

「まあ、ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」


少し頬を赤らめながら、ウィルは続ける。


「その二。なぜ魔術陣が瞳に現れる?」

「えっ、そうなの?」


「後で姿見ででも確認しろ。一瞬見えたのは見た事もないの魔術陣だった。いや、魔術の残滓がない。魔法か? いや、馬鹿な‥‥‥」


顎に手を置き、じっと考え込むように押し黙ってしまった。くいっと顔を上げた顔には物事の本質を見極めようとしている学者のような顔つきである。



しかし、ぷくぷくほっぺと差がありすぎて、噴き出してしまいそうなのをなんとか耐える。


「古代魔術よりももっと古い何かだ。一体どこで学んだ?」

「それは『よいこのまほう』と独学よ」


「何だ、その『よいこのまほう』とは?」

「子供の魔法の絵本よ」


ウィルは信じられないという顔であ然としている。

口が開きっぱなしよ、と指摘したら、思い出したように口を閉じた。


祝福の『賢者の本』魔術陣全集はノーエル王国の機密でもあるので、他の話せる事だけをかいつまんで話す。


「絵本から魔力の出し方やちょっとした魔法の使い方。コントロールの仕方を覚えたの。それから魔術初級の本から魔術陣を全て覚えて、魔術陣のサイズを大きくしたり、小さくしたりの調整。初動時間短縮の練習もしたわ。


独学なので普通がよく分からないのだけど、とにかく手に入った魔術本から魔術陣を片っ端から記憶して、考察と試行を繰り返しただけよ」



ウィルは顎に手をやり、固まったように動かない。天使の容姿をしているので、まるで天使像といったところだ。


しばらく考えに耽って、ふっと面白そうに笑った。

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