11.そうだ冒険に行こう いざ、行かん2
胸を張って一路南へと歩く。これから冒険者ギルドで冒険者登録をする予定なのだ。
愛読書『冒険者旅行記』にも必要な準備として、冒険者登録とある。身分証の代わりにもなるし、冒険者として依頼を受けるには必須となる。
早速、向かった冒険者ギルドの登録窓口にはダンがカウンターに両肘をついて暇そうにしていた。
「‥‥あの、冒険者登録をお願いします」
少年の格好で護身術と馬術の指導を受けたばかりである。バレるかとドキドキしながら受け答えをしていたが、この外套には認識阻害も付与されている事を思い出す。
「ああ、嬢ちゃん、読み書きは? できるなら必要事項を記入してくれ」
手渡された紙の記入を終わらせると、注意事項や説明の後に金属製の冒険者タグを受け取った。
「ほら、ここに嬢ちゃんの名が彫られているだろ、無くすなよ」
礼を言うと、ダンは片手をひらひらして、笑顔で送り出してくれた。
冒険者登録も無事に済み、これからは待合馬車で東に向かう予定になっている。冒険者ギルド近くの待合馬車乗り場で出発時刻を確認すると一刻後だった。
近くの市場から何やら美味しい匂いもするし、まずは腹ごしらえからである。
「美味しそうね。おじちゃん、そのサンド一つ」
「はいよ、嬢ちゃん!」
はいっとお金を手渡して、出来立てほかほかのサンドを受け取る。
予め市場での買い物を見越して、小額硬貨を用意していて正解である。
かぶり付くと肉汁溢れるサンドを買い食いしつつ市場を見て回る。
店先に鈴なりに鞄がぶら下がっている鞄屋で足を止めた。
(鞄があると便利よね。どれにしようかしら?)
「その格好、新人冒険者かい? なら、これがお勧めだよ。たっぷり入るし、肩から掛ければ、両手も使えるだろう?」
「そうね、赤色ではなくて、色違いある?」
「おおよ、黒、茶、緑、どれにする?」
「そうね、外套に合わせて緑色にするわ」
「ほいよ、毎度あり!」
何てこともないやり取りも楽しくて頬が緩む。
市場で買った甘い香りのする林檎を齧りながら待合馬車を待っていると、遠くの方からパカパカと馬の蹄の音が近づいてきた。
(これが、待合馬車かしら?)
それは帆馬車で、中を覗くと両側に簡素な板の腰掛けがある。片側に十人ほど、両側で二十人ほどが乗れるだろうか。
東行きを確認してから料金を支払い、他の乗客に倣い帆馬車に乗り込む。見たところ、乗客は王都からの買物帰りの親子や重装備の冒険者まで様々なようだ。
時刻が来て、馬車内が乗客でぎっちりとなった頃に出発だ。
あっという間に帆馬車が王都を抜けると、帆の破れた隙間から見え隠れする景色が田畑になって、どこまでも長閑に続いている。
これから東に十日から半月程進むとノーエル王国とデルネス神聖国の国境に到着する。
今日の予定はこの幌馬車の最終目的地、ラヴィ宿場町。夕刻前には着く予定になっている。
昨夜は明日の事が楽しみでよく眠れなかった。直ぐにうとうと眠気がやってくる。
春を感じさせる柔らかな風が頬をくすぐり、パカパカとリズミカルな馬の蹄の音を耳にしながら眠りに落ちた。
「‥‥‥っ?!」
ガタンと馬車が止まる急な揺れで目が覚めた。
「ラヴィに到着だ。さあさっ、降りた降りた!」
御者の威勢の良い声掛けに驚いて飛び上がり、他の乗客に続いて帆馬車から降りた。
(大変、お、おしり‥‥お尻が痛いわ)
変な姿勢で眠っていたようで体のあっちこっちが強張っている。他の乗客達も同じらしく、両手を腰に体を反らしたり、腕を上げて伸びをしている。
(お尻が痛い時はどうするのかしら?)
帆馬車は予定より遅くに到着し、既に西の空が様々な橙色に染まる夕暮れ時だった。
まずは冒険者旅行記に書いてあった『遅くに着いたら、まず宿確保』に従う。この宿場町の冒険者ギルドには宿泊施設があると予め調べてある。今夜の宿はその冒険者ギルドだ。
宿場町の入り口にあったラヴィの冒険者ギルドはこじんまりとした三階建て。換気のためか開けっぱなしの扉からは受付と食堂兼酒場が見える。
こちらには目もくれず、爪をヤスリで磨いている暇そうな受付のお姉さんに声を掛けた。
「宿泊、お願いします」
「はいはい。今日は満室で空いてる部屋は特別室だけよ」
辺りを見回すと、なるほどの混み具合。お姉さんが顔を上げてヤスリをフリフリ振りながら、毎年この季節に小型魔獣が急増するので、討伐依頼で冒険者が集まるのだと言う。
「特別室は普通の個室部屋に比べて三倍料金。でも扉の鍵もしっかりしてるし、浴場も一通り揃っているし、悪くないよ」
「分かりました。その部屋でお願いします」
身分証代わりの冒険者タグを見せて、料金を支払った。
お腹が空いたので食堂について尋ねると、ぶっきらぼうだけど、案外親切な受付のお姉さんが美味しい食堂を教えてくれた。
まずは腹ごしらえから。空きっ腹を抱えてその食堂へと向かう。ラヴィはこじんまりとした宿場町で、ギリギリ二人が並んで歩ける狭い石畳の道が続き、その石畳の両脇には二階建ての店々が寄り添うように立っている。
少しばかり歩くと目的の食堂を見つけた。暗くなり始めた外から見ると、食堂の窓からは柔らかな光が差し込み、美味しいそうな匂いが漂ってくる。
ドアを開けるとカランコロンと音がして、元気な可愛らしい女の子が出迎えてくれた。
「いらっしゃい、今日の定食はあったかシチューだよ!」
おさげにそばかす。元気な女の子がにこにこしながら窓際の席に案内してくれる。
頼むと直ぐに運ばれてきた定食はほかほかパンに野菜たっぷりのあったかシチュー。ほっこりと美味しく、食べ終わる頃には何とも言えない幸せな気分になった。
お金を支払い、美味しかった事を伝えて笑顔で食堂を後にした。




