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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第一章 武者修行

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10.そうだ冒険に行こう いざ、行かん1

胸に抱えた市井での流行本『冒険者旅行記』。一人の少年が冒険者として成長していくハラハラドキドキの旅行記だ。


この本には旅行前に必要な持ち物から始まって、冒険者ギルドでのやり取り、移動手段に街や村々での過ごし方、その中での人々との出会いや別れもあり、失敗や困難もが赤裸々に綴られている。


自由に伸び伸びと。



そう、やることリスト3.冒険に行くのである。


「一人冒険旅行の決行は三日後。根回しは終わっているし、後は行き先ね‥‥」

風の吹くまま、自由気ままにが行動方針だったのもあって決めていなかった。


「辺境伯領のある西は鬼門で絶対回避。それなら、真逆の東へ行くのもいいわね」

本棚から地図を引っ張り出して眺めてみる。



ノーエル王国の王都は国土の中央より東に位置する。街道沿いに東へ進むと隣国のデルネス神聖国があり、馬車で十日から半月程の距離だ。


指で確認しながら数えると途中に街や宿場町は十二ヶ所。余裕を持った往復の日数に宿泊を考えても移動は往復一月もあれば事足りる。


「そうね、冒険旅行期間は二月。一月は移動と宿泊。もう一月は冒険の醍醐味で、その時の縁と気分ね」


この冒険旅行は肩書きやら全てから解放されて、誰に気兼ねする必要もない一人旅。

解き放たれるような高揚感で心が躍る。



既に冒険者旅行記を参考にして事前の準備や装備の確認も終わらせている。


「持ち物よし、体術も勘が戻ってきた。剣の太刀筋が乱れなしっと。

出発まで残り三日と余裕があるから、何か役に立ちそうな魔術でも学びましょうか」


湯に入る以外、肌身離さず身に付けている鈍色の腕輪に視線を落とす。


祝福の賢者の本、魔術陣全集を腕輪に変化させたもので、なんとなく肌に馴染んできたような、体の一部になってきたような感じがする。


今では思い描くだけで、その魔術陣が頭に浮かび、詠唱もなしに発動させる事もできる。


「さてと、旅に便利な魔術は‥‥っと」

腕を組んでじっくり考えていると閃いた。


「——飛行かしら? 飛行できたらもっと遠くまで行くことができるわ」


鳥のように大空を自由に飛行する姿を想像するだけで、わくわくと胸が弾む。


早速、目を瞑り集中する。『飛行』で頭に浮かぶ精巧な複合魔術陣。複雑の属性を一つに纏めた芸術のような魔術陣に思わず驚きの声を上げてしまう。


ふむ、しょっぱなから自分に飛行魔術をかけるのは怖い。調整が上手くいかずに途中で墜落でもしたら悲劇である。


「まずは何かで練習ね」


その何かを探して部屋をぐるりと見回すと、飾り棚の隅に桃色の鳥羽根が頭部についた三体の甲冑人形が目に入った。大きさも程よく拳大だ。


あれは近衛騎士でもある次兄ブライアンから遠征の土産だと貰ったもので、妹の土産に難儀したブライアンの苦労の跡が桃色の鳥羽根に現れていると思う。


「妙な、いえ、その、個性的な贈り物で少し困っていたから丁度いいわ」

一体に集中して『飛行』と唱える。


桃色の鳥羽根がパタパタと靡き、うっすらと金色の膜で覆われた瞬間、ガンっと頭から高天井に突き刺さってしまったのだ。


「‥‥‥っ?!」


奇しくも『浮遊』魔術で失敗した本の隣である。


「うっ‥‥次ね」


次の甲冑人形を『浮遊』で穏やかにゆっくりと上昇させてから、ツバメのイメージでゆっくりと水平飛行を繰り返す。



その夜遅く、二回目の人生で手に入れた祝福の外套を羽織る。


前回ではただの時代遅れの外套であり、着ることのなかったアレである。魔力ブーっの魔力操作ができるようになって初めて、『隠蔽』『認識阻害』『防御』を発動することができるようになったのだ。



そして、夜のしじまに紛れて窓枠に足をかけると、髪がさらさらと春風に靡く。


鳥が空を飛べる事を信じて疑わないように、躊躇うことなく窓から飛び降りた。

ひゅうと風に乗って高度を上げる。


「ふふっ、詩集の一句、飛び立つような喜び、とはまさにこの事ね」


高度と速度を調整して、ツバメのように空気抵抗を減らした滑空飛行を心がける。



銀の月に、圧巻な夜空。風と共に舞い、自由を心の奥底から堪能する。


一生忘れることのできない夢のような夜だった。




◇◇◇




「いざ、行かん!」


冒険者服を着込んで、上に上質なロングコートを羽織った。


建前である旅の筋書きもバッチリである。捻りがないが、よく静養や避暑で使う祖母マリアンナの別邸で過ごす予定でいく。


因みにマリアンナは毎年春の終わりまで友人達との花のお茶会で忙しく、あちらこちらと友人の屋敷に宿泊して過ごす。別邸どころか本邸も留守にしているので偽装工作にもってこいなのだ。


しかも、マリアンナの別邸に行く時はいつもテリーに休日を取らせていたので、こちらもバッチリなのである。


「私は寂しいですっ。二月もお会いできないなんてっ」


「ふふっ、私もよ。今回はいつもより長いけど、お祖母様の別邸にはよく知る侍女達もいるし、警備も万全だから心配しないでね。それよりも、クリスとの手合わせ、よろしくね」


「はいっ、お任せください! ビシビシとしごいておきますっ」


一瞬ギラリとした目つきに何故か背筋が寒くなったのは気のせいだと思う。クリスにはぜひ頑張ってもらいたい。


玄関ホールに下りると背筋をピンと伸ばした家令のダニエルが待っていた。


長期に亘る当主と次期当主の不在で、家令のダニエルは非常に忙しくきりきり舞いなのを知っている。そう、この多忙の隙をついての計画である。


「お嬢様、馬車は王宮前のカフェテリアまででよろしいのですか?」


「ええ、ダニエル。お祖母様とそこで待ち合わせなの。珍しいお茶が頂けるそうなのよ」


「承知いたしました。先代公爵夫人様によろしくお伝えください」


(ふふ、いつもより髪型が乱れているわ。ごめんなさいね、ダニエル)


心の中で嘘ついたことを謝りつつ馬車に乗る。屋敷から歩いた方が早い場所にあるカフェテリアは味だけではなく、王宮並みの警備も売りである。貴族の待ち合わせやお忍びデートにもよく利用されている。


直ぐにカフェテリアに着き、にこやかに店内から公爵家の馬車と護衛騎士達を見送った。


高額硬貨を崩したいので、焼き菓子の詰め合わせを何箱か購入してから、手際よくカフェテリアを後にする。


前もって計画していた裏路地にさっと入って身を隠すと、焼き菓子と着ていたロングコートを覚えたての空間収納へとポイッと放り投げ、代わりに祝福の外套と革手袋をサッと取り出した。


最後の仕上げに髪と瞳の色を変えて、フードを深く被る。



表通りにある高級店のピカピカガラスには、王国でよく見かける焦茶色の髪に瞳で、満足そうに顔をほころばせている少女が映っている。


木綿の白シャツ、黒のパンツに黒のブーツ、深緑の外套。それとこだわりの逸品、ショート丈の黒い腰巻エプロンがキマっている。腰巻エプロンの裏には複数の短剣を仕込んであるのだ。



——-いざ、いかん!

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