表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/29

見えない神


ドームは、今も閉鎖されたままだった。

立ち入り禁止。


公式には「封鎖中の研究施設」。

だが――

その中で何が動いているのかを、

知っている者は誰もいない。

見える者も、いない。


「……おかしい」 


クロウリーの側近、ハミルトンは小さく呟いた。

Asterion Magia Capitalの業績は、過去最高を更新し続けている。

どの投資も的中。

どの再編も成功。

リスクは最小化され、利益は最大化されていた。

完璧すぎる。

「偶然じゃない」

資料を閉じる。

「こんなことが続くわけがない」

だが、理由がわからない。

シエラは今、休暇中。

何もしていないはずだ。

それなのに、世界は――

世界の動きを分析注視すればするほど彼女の思考が浮かんでくる。まるで彼女が何か働きかけているように見える。


「……なにをした?」


誰にも聞こえない問い。

答えは、どこにもなかった。



「この法案、通ります」

官僚が静かに言う。

「反対勢力は?」

「幹事長の尽力で…」

「……早いな」

かつてなら数ヶ月、

いや数年かかっていた調整が、数週間で終わる。

利害の対立は、なぜか“自然に”解消されていく。

企業からの要請。

業界団体の意見。

世論の流れ。

すべてが、同じ方向を向く。

デモ隊もプラカードも以前とは違う。

反対ではなく賛成の意思表示だ。

シュプレヒコールは応援する言葉が多くなった。


「これなら……やれる」

政治家は手応えを感じていた。

停滞していた改革。

進まなかった制度変更。

それらが、驚くほど滑らかに進んでいく。

「今の時代は、風がいい」

誰かがそう言った。

だがその風は、

誰かが意図的に吹かせているものだった。



ある日。

「不正献金の疑いが発覚しました」

「え?」

「内部告発です」

長年、改革に反対していた政治家が失脚する。

別の日。

「企業からの贈収賄の証拠が出ました」

「そんなはずは……!」

強硬に抵抗していた官僚が更迭される。

また別の日。

「脱税が発覚しました」

業界団体の有力者が、表舞台から消える。

偶然にしては出来すぎていた。

だが、証拠はすべて“本物”だった。

誰も否定できない。

「自業自得だ」

そう言われれば、それまでだった。

新聞記者

「……妙だな」

古びた机の前で、男はペンを止めた。

彼は、かつてシエラを取材したことがある。

あの孤児院。

あのパン屋の一件。

あの時の、少女の目。

「偶然が、重なりすぎてる」

記事を並べる。

企業再編。

法案可決。

政治家の失脚。

すべてが、一本の線に見えた。

「……まるで」

そこで、言葉が止まる。

浮かびかけた考えを、自分で否定する。

「いや、ありえない」

だが――

「もし……」

記者は、ゆっくりと呟いた。

「誰かが、全部を動かしているとしたら?」

部屋の空気が、少しだけ重くなる。



ハミルトンは、封鎖された研究所の方向を見ていた。

「……あそこか」

理由はない。

証拠もない。

ただの直感。

だが、確信に近いものがあった。

「シエラ……」

名前を口にするだけで、

言い知れぬ不安が胸に広がる。

「お前は、何を残した?」

見えない場所で

ドームの中。

無数の魔術式が、静かに脈動している。

神の形をとるラプラス。

世界中の意思を取り込み、

最適な未来へと“道”を描く存在。

政治も、経済も、社会も。

すべてが、その道の上を進んでいる。

誰も気づかないまま。

そして。


シエラは、窓の外を眺めていた。

「順調だね」

軽い口調。

だが、その一言で十分だった。

彼女は何もしていない。

それでも世界は動く。

「やっぱり、作って正解だった」

小さく笑う。

神を作った人間の、無邪気な満足。

その裏で、

疑い始める者。

違和感を抱く者。

そして、真実に近づこうとする者たちが、

少しずつ、

確実に、

集まり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ