第56話 フレデリカは施策を練る
今回は別視点
王太子夫妻となったフレデリカとレーヴェリアンのお話です。
話の中で二人はしっかりと名を呼んでいますが、別に不仲ではありません。公の会議の場なので弁えているだけです。
普段の二人は愛称で呼び合い、見ている周りが恥ずかしくなるぐらいの仲睦まじい姿を見せています。
私はレーヴェリアン殿下と数人の側近とともにある政策を考えていた。
平民の識字率をはじめとする様々な知識水準の向上と衛生環境の改善についてだ。
――『どんなに身体能力が優れていても、文字が読めないとね』
――『やっぱり衛生環境って大事だよね。戦場だとたいした傷じゃなくても悪くなるし』
ある時、戦闘教練を終えたフレイがぽろっと私に零した。
それを聞いて私は思ったのだ。国全体の質を高めるためには、平民の生活水準から上げる必要があると。
あらゆる国民が様々な職につけるようにする必要がある。それには一定以上の学が必要だ。
まずは識字率の向上を目指すことが急務となる。
それが済めば、希望する職種に見合った専門的な知識や技術の教授となる。
やはり、読み書きができなければ、それら専門分野を習得することは不可能だ。
教育面の他に国内の大都市を優先として衛生環境の改善に取り組む必要がある。
ここ最近は国内で大規模な病の流行は無いが、それはたまたまなだけだ。今後、起こらないとは限らない。
フレイの言葉にもあるように、衛生環境が悪いと健康を害することがわかっており、それによって働き手が倒れると、清潔さを保つことができなくなって更に衛生環境が悪化するという悪循環に陥る。
宮廷調査官の尽力もあり、流行病の発生は衛生環境と関連性があるとの結果が出ていた。
教育体制の整備と衛生環境の改善――今すぐにでも実行に移したいところだけど、そこにはいくつかの障害がある。
最も大きな障害は財源だ。
「フレデリカ、やはり、この計画に必要なだけの財源が足りていない」
「そうですね。殿下、教育機関の整備は既に王立学校のある王都限定とし、衛生環境の整備は人口の多い大都市に絞ってはどうですか?」
「妃殿下、そうだとしても不足しています」
大きな事業は雇用を生み、民は潤い、経済の循環を促す。
しかも、今回の事業は短期的に見れば成果は乏しいが、長期的に見れば莫大な成果を期待できる。
それとしても、現状を無視して進めるわけにはいかない。自国を発展させるためとはいえ、他国に助力を求めるのも得策ではない。長いこと返済しなければならなくなるし、下手をすると、今回の事業で得た成果物を要求される可能性もある。
――まあ、プロキオンやエデルラントなら、そんな不当要求は無いでしょうし、私たちと似た考えだから、喜んで力を貸してくれるでしょうけど。
我が国と並ぶ程の軍事大国のプロキオンと距離はあるが、アスタリオとプロキオン両国と友好関係にある『精霊に愛された国』として名高いエデルラント。
人的支援であれば、喜んで受け入れたいし、求めがあればこちらからも積極的に派遣する心づもりだけど、金銭的には考えてしまう。
というのも、国力に優れている我らを快く思っていない国があるのも事実で、仮にそれらの国が攻め込んできた時に金銭的に援助を受けていると、最悪共倒れなんてことになりかねない。
これは借りる側、貸す側、どちらに回ったとしてもあり得ることだ。だから、金銭的な支援は極力避けようという運びになっている。勿論、大規模災害などの未曽有の危機に際しては、そればかりでは無いが。
それにこれらの事業は造れば終わりではない。
今後も運営管理することを考えれば、自前の国力で実現する必要がある。
そこで私は予てより考えていた案を出すことにした。ここが押し時だと。
「殿下、財源確保のため、生活に必要な物品以外の品、所謂ところの贅沢品に税を課すことを提言いたします」
私の案に一瞬、驚きで沈黙が横たわった後、側近たちが騒めいた。
しかし、レーヴェリアン殿下は微塵も動揺することなく、私を静かに見つめてくる。正直、そのご尊顔でじっと見つめられると、心臓に悪いのですが。
「ふむ、面白い案だ。それなら平民への影響は少ないだろう。貴族であっても余裕の無い家への影響は少ないと考えられる。かつ、裕福な家からは資金を回収できる。家の力を示せとかの文句を乗せれば、彼らは“見栄”を大切にするからな」
さすがは殿下。この場で私の案を聞いただけで、そこまで考え至るとは、見事としか形容できない。本当に彼は優秀なのだ。
――フレイの前では、途端にポンコツになるのよね。
私は表情に出さないように気を張りながら、心の中で溜息を吐く。ちょっと残念仕様の主君にして、今では愛する夫に。
「職にあぶれた有能な教師や技術者の雇用先の確保に繋がる。当然、彼らを支える者たちも必要になることから、実に多くの者に働き口を用意することもできる」
「はい。国力の増強という面で多大な効果が期待できます。ただ、特定の物品に課税される関係から、不正取引に公的機関との癒着などが横行するかもしれません。取り締まりについても考えねばなりませんね」
「確かにそうだな。では、その方面でも燻っていた人材に能力を活かす場を提供できそうだな」
「あのぉ、殿下」
私とレーヴェリアン殿下の間で先々の展望が広がっていく中、同席していた側近たちは置いてけぼりを食らって目を点にしていた。
そんな中、側近の一人が勇気を振り絞って私たちに声をかける。
「白熱しているところに水を差して申し訳ありませんが、ひとまず、新しい税制度の名はどうしますか?」
側近の尤もな言葉にレーヴェリアン殿下は嫌な顔一つせず静かに頷くと、私へと顔を向ける。だから、心臓に悪いからやめてほしい。確かに考えてありますけどね。
私はレーヴェリアン殿下の視線に頷き返すと、側近たちへと顔を向けた。
殿下の意図を察した彼らの視線が、一斉に私に集まる。
「新しい税制度の名は“奢侈税”とします」
この日、アスタリオ国内に新たな制度が誕生した。そして、これによって得た財源により、様々な事業計画や制度が制定され、増々、国力が増進されることとなるのだが、それはもう少し先のお話。
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本年の暴風令嬢の投稿はこれで最後になります。
来年もまたお付き合い下さればこれほど嬉しいことはございません。
皆様のご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。
良いお年をお迎えください。




