第52話 クラウディアは皆と一緒に安堵した
今回はクラウディア視点です。
令嬢仲間が集結します。
――『私の力なんてほとんど必要無かったわ』
聖女様はそう言って私に笑いかけた。
どうやら、レオナルド殿下が手配していたらしく、王都に戻るとすぐにフレイの治療のため、聖女様が聖女見習いである私、クラウディアに声をかけて下さった。
私は聖女様の隣で聖堂を訪れたフレイの治療を見守っていたが、それは信じられない程すぐに終わり、先の言葉へと繋がる。
さすがに病み上がりのフレイに無理させるわけにはいかず、帰宅を促して今は彼女を除いたかつての王太子妃候補仲間とテーブルを囲んでいる。
本人は全く問題無さそうな素振りをしていたけど、彼女はいつでも無理をしがちだ。それが私たちに心配をさせないように振る舞っているのか、それとも本当に自分の体調に気付いていないのか……いや、リーシュベルト家は軍事に優れた家柄で、フレイもそっち方面の才能豊かだから前者なのだろう。
「それにしても良かったわ。フレイが無事で」
目の前にいるエリーたちではなく、フレイに傾いていた私の思考がフレディの言葉で引き戻される。
彼女の言葉にエリーは無言で頷き、ピアは安堵の息を漏らす。かくいう私も彼女たちと同じ気持ちだ。
「ええ。聖女様のおかげで痕も残りませんでしたし」
「本当に良かったぁ」
「まったくあの子は……いつもいつも無茶ばかりして」
心底呆れたような言葉を口にするエリーだが、その表情は柔らかく彼女の無事を喜んでいることが一目でわかる。天邪鬼な所は変わらない。
それにしても本当に良かった。フレイは傷を気にしてレオナルド殿下に婚約破棄を促したから、あの時は空気が凍りついたわ。
「フレイとレオナルド殿下の仲が、おかげでいつもどおりに戻ったわけだけど、皆はどうなのかしら?」
フレディが唐突にそんなことを口にした。彼女のにんまりとした表情は珍しい。それだけに決して逃がさないという意思を感じさせる。
「初めに言い出したのだから、私から教えようかしら。私とレーヴェリアン殿下も平常運転よ。更に国を発展させるため、視察と議論を重ねているところね。おかげで結婚が先延ばしになっているのが悩みの種かしら。さて、次は……エリーがいいわね」
「わ、私!?」
「そうよ。どうなの? 従兄のデュークフリード様とは?」
「……先日、婚約を結んだわ。だから、結婚するのはもっと先になるはずなのだけど、何故か周到に準備が終わっていて、三ヶ月後には式を挙げる予定……なの」
そこまで言って顔を真っ赤にしたエリーは俯いてしまった。まあ、恥ずかしいよね。わかるわ。気付いたら外堀が埋まっているのだものね。でも、何もそこまで詳らかに言わなくても良かったのでは、と思わなくもない。
「ふぅ~ん、幸せそうで何よりだわ。デュークフリード様は殿下の側近の一人だけど、私事は欠片も素振りを見せないから、ちょっと心配していたのよね」
正直、今のフレディからは『心配していた』というよりは、『面白がっている』という印象を強く受けるけど、常に表面上からは心の内を悟らせないようにしているから、言葉どおりなのだろう。そうだと思いたい。
「次はピアね。まあ、あなたはオーギュスト殿下とだから、筒抜けなのだけどね」
「だよね。実際、私たち顔を合わせること多いもんね」
ピアはレーヴェリアン殿下の弟君にあたるオーギュスト殿下と婚約している。
王族であるオーギュスト殿下は大公家の一つ、ダグストン家に臣籍降下する予定だ。当然、ピアもフレイと同じく大公婦人となるわけで。
「でも、不安なの。私でオーグを支えられるかどうか……」
「だからこそ、私たちの視察に同行したり、政務を一緒に熟したりしているのでしょ? 自信をもって。それにピアが支えるだけじゃないの。貴方も支えてもらうのよ」
「私も?」
「そうよ。辛い時や大変な時は分け合って軽くし、嬉しい時や楽しい時は共有して増やすの。お互い支え合って生きていく。それが夫婦になるってことよ」
「そう……そうだよね。うん、フレディ、ありがとう。私、頑張る!」
フレディはとても良い事を言った。
ピアは能力はあるけど、イマイチ自信が足りないところがある。だから、フレディの言葉はきっと彼女に大きな力を与えたはずだ。
私がフレディの言葉に感銘を受けていると、彼女はこちらに目を向けた。
はいはい。わかっていますよ。私の番だと言いたいのでしょ? ここまできて逃げるような真似は致しません。
「私もテオと良い関係を築いていますよ。聖地巡礼が終わったら、正式に婚約する予定でしたし」
私は「ちょっと忙しくてまだ婚約できていないんですけどね」と付け加えて一旦、会話を区切った。
さて、私はと言うと、フレイの弟であるテオドールと懇意にしている。
彼女の八歳の誕生日に彼を初めて見た時から、ずっと気になっていたのだ。彼は私より一つ下だったこともあり、後輩の世話を焼く形で距離を縮めていった。
だからこそ、フレイに傷が残らなくて良かったし、レオナルド殿下との関係が壊れなくて本気で安堵した。
例え私に瑕疵が無いとしても、聖地巡礼の主な対象は私であり、その中でフレイに消えない傷を負ったのでは、何のしこりも残さないということはできなかっただろう。
フレイが完全回復できるかは、私の未来も左右する。それだけに聖女様のお言葉を聞いた時の安堵感は一入だった。
結局は自分のことばかり。辛い思いをしたのはフレイなのに。
私の中で罪悪感が厚く暗い雲のように広がっていく。
「別にそんなに気にする必要無いわ。フレイだったら笑い飛ばしてくれるわよ」
不意にフレディから励ますような言葉をかけられた。
どうやら自分でも気付かない内に表情が曇っていたようだ。何とも情けない。
「それに勝手に付いていったあの子に責任があるわ。加えて気付いてはずのレオナルド殿下が、見過ごしたのも頂けない。だからね、ディア。貴方が責任を感じる必要はどこにも無いのよ」
彼女は本当に変わらない。人の機微に聡く、時に厳しい言葉をぶつけたかと思えば、こうして寄り添うように優しい言葉をくれる。
私が見回せば、エリーもピアも優しく微笑んでくれていた。
ああ、本当に私はなんて良い友人に恵まれたのだろう。
王太子妃候補と聖女候補に選ばれた時は、暗澹たる思いでいっぱいだったし、辛く大変なこともあったけど、この掛け替えの無い友人たちと出会えたことは、それに見合う以上の価値があった。
「フレディ、エリー、ピア……皆、ありがとう」
ここにはいないけど、フレイもありがとう。
私は今日一番のとびきりの笑顔をしていたと思う。
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誠にありがとうございます。
「しかし、フレイってば小さい頃から全然変わらないわね」
「本当にそうね」
「天真爛漫というか純真無垢というか……」
「自由――そんな印象ね」
「「「それ!」」」




