第37話 私は久しぶりに殿下の護衛をします
レオナルドとの休日デートから明けて翌日、いつも通り、早めに登校して演習場で汗をかかない程度に、軽く体の状態を確認する。
これは入学する前からもやっていた日課のようなもので、ほぼ欠かすことは無い。
入学する前はもっとハードな内容だったが、この後は学科が待っているので、量を格段に落としている。
そのため、フレイスリアにとってはかなり物足りない。幼少期から鍛えに鍛えてきた彼女のスペックからすると、3割にも満たない程度の運動量なためだ。
不満は不満だが、両親だけでなく、リザやフレデリカ、ピアローゼに、何故かレオナルドからも釘を刺されているので仕方無く受け入れている。
一通り体術の型を行って状態の確認を終えたフレイスリアは教室へと向かう。
室内には既にフレデリカとピアローゼの二人がいて、彼女に向かって手を振っている。
フレイスリアも親友に手を振り返すと、自分の席へと着いた。
「今日はその髪型にしたんだ?」
フレイスリアが席に座ると、フレデリカが彼女の髪型を見て問いかける。
幼少期から普段のフレイスリアはハーフアップスタイルを好んでいたが、ここ最近は教練の妨げにならないよう、ポニーテールスタイルにしているため、軍事科の教練の度に髪型を変えるのが面倒になったので、今日からは基本的にこの髪型で過ごすことにした。
「うん。これからはこれにしようかなって。教練の時に動きやすいから」
「そうね。その方が軍事科の学科は適しているわね」
「フレイはどんな髪型でも可愛いね」
「ありがとう、ピア」
ピアローゼの『可愛い』という言葉に薄く頬を染める。
色々な人からかけられる言葉ではあるが、やはり、自分が大切に思う人から言われると嬉しいものがある。
照れてはにかみながら、お礼の言葉を返すフレイスリアに二人は思わず口元に手を当て、感情が爆発するのを抑えた。
――尊い!
フレデリカとピアローゼは同じことを思っていた。
二人ともフレイスリアの事が好き過ぎである。
心を落ち着かせたフレデリカが、少し意味深な笑顔でフレイスリアに向ける。
「フレイ、デートはどうだったの?」
「えっ……な、なんのことかな?」
フレデリカの予想していなかった質問にフレイスリアの口元が引き攣る。
そもそも、何で彼女が自分とレオナルドが一緒に外出したのを知っているのかわからない。
変装はしていたし、街中でも知り合いは見かけていない。まあ、変そうとは言っても、見る人が見れば誰だかわかる程度のものだったけど。
何とか誤魔化せないものかと、それとなく疑問形で返すが、逃がさないとばかりにフレデリカの笑みが深まる。
「誤魔化せると思っているの? 浅い付き合いじゃないのだから、わかるでしょ」
「うぅ……」
目を細めるフレデリカからは逃がさないと、言わんばかりの圧が発せられ、その横ではピアローゼが両手を口元に当て、目を輝かせながらフレイスリアのことを凝視している。
これはもう観念するしかない。
「色んな所に連れて行ってもらって珍しい物も見られたよ」
「……それだけ?」
「……最後に指輪を嵌められて、こ、婚約指輪とか言われたけど」
そこまででフレイスリアは言葉が続かなくなってしまった。
その時の場面を思い出して胸が一杯になってしまったからだ。
顔を伏せながら耳まで真っ赤にするフレイスリアに、フレデリカとピアローゼは祝福の言葉を交互にかけたのだった。
その週の休日、フレイスリアはこの日、腰回りを一周するリボンが特徴的な動きやすいワンピースドレスを纏い、エレガントハットという快活な彼女に良く似合う服装をしていた。
しかし、足元はヒールでは無く、ブーツであり、しかも、金属板で補強されている。腕にもロンググローブの下に腕甲を装備している。
どこかに出かける装いなのだが、何とも物々しさを感じる。
それもそのはずで、今日はレーヴェリアンから護衛として同行するようにとのお達しだ。
ちなみに今回の外出では、フレイスリアはあくまでも『護衛』であり、レーヴェリアンの主な随伴者は、フレデリカである。
それもあって、フレイスリアは即座に承諾の意思を使者にしていた。
正統な理由も無いので断ることなど出来はしなかったのだが。
そして、今は街中の噴水広場で休憩している。
レーヴェリアンは先刻、襲撃者の対応に当たったフレイスリアの攻撃に巻き込まれ、首を痛めていた。
というかこれは警護を目的とした訓練なのに、まるで実戦さながらに飛び回る彼女に周りは少し呆れ気味だった。いや、訓練とはいえ、有事を想定して本物と同様に臨むのは決して悪い事ではない。無いのだが、やりすぎである。
レーヴェリアンが「この暴風令嬢がー!」と叫んだ気持ちもわからなくない。
護衛の異相により、治癒を施されたレーヴェリアン一行は気を取り直して街中の散策を再開した。
今回は襲撃対応訓練もあるが、治安や衛生環境の視察が主な目的である。
そのため、終始、レーヴェリアンはフレデリカとともにあっちを見たり、こっちを見たりして何かを話し合い、従者がその内容を書き記していく。
ちなみにフレイスリアはというと、しっかりと護衛に囲まれている彼らを狙う者などいるはずもなく、暇を持て余して新しい独自の戦闘術を頭の中で練っていた。
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