第34話 私はなんかもやもやします
最近、書いてて、「ジャンルが『異世界(恋愛)』じゃないのでは?」と思うようになってきました(苦笑)
朝から貴族学校の演習場では轟音が鳴り響いていた。
フレイスリアが訓練用の人形相手に凄まじい勢いで戦鎚を振り回している。
その姿はまさに荒れ狂う暴風の如くであり、近寄るもの全てを破壊しかねない。
――もう! なんなのもう!
フレイスリアは滅茶苦茶に不機嫌だった。
昨日、レオナルドとフレデリカが街中で楽しそうにしているのを見かけてから、彼女の中で何かがもやもやしている。
それが何なのかわからず、すっきりしなくて機嫌が悪いのだ。
初々しいと言えば聞こえはいいが、彼女の破壊力で八つ当たりをされては、施設がただでは済まないことになる。
そこへ、轟音に気付いたクロードが姿を現した。
「フレイスリア嬢、朝から鍛錬とは殊勝な心掛けだね」
「クロード殿下」
声をかけられてクロードの姿を認めたフレイスリアが頭を下げる。
「熱心なのは大変良い事だが、手加減してもらえるとありがたい。設備が持ちそうにないのでね」
「えっ? あっ……」
クロードが苦笑しているのを見て、フレイスリアが演習場に向き直ると、そこには彼女に粉砕された残骸が散乱している。
邸では自分で的を生成して行うのだが、ここでは設備として的があるので、ついついそれに対して戦鎚を振るってしまった……というよりは、機嫌の悪さも相まって、とにかく何かにぶつけて発散したかったというのが本音だ。
「大変、申し訳ございません」
自分が引き起こした惨状を目の当たりにしたフレイスリアが、クロードに深々と頭を下げる。
別に彼がここの管理責任を負っているわけではないのだが、貴族学校の運営は王家とそれに連なる家が関わっているので、レイクイン大公家も例外ではない。
そのため、フレイスリアは彼に頭を下げていた。
ちなみに公爵家であるリーシュベルト家も資金提供などをしている。
特に軍事科に関連するものの大半は、彼女の家が担っているので、演習場の損害の修繕費用は彼女の家が負担することになるのだが。
「頭を下げる必要は無いよ。物はいずれ壊れるし、それに――」
クロードは「君の家の出費が増えるだけだから」と、言おうとしてやめた。
彼女も公爵家の人間なのだから、家の金が運営に使われていることぐらい知っているだろうと思ったからだ。
それに下手に加減されて軍事科の教練に影響が出ても困る。
フレイスリアの存在は、軍事科にとって、とても良い刺激になっているからだ。
それはそうと、フレイスリアも公爵家の資金が運営費に使われていることは知っていたが、どこに充てられているかは、この日の夜に知ることになる。
校内での事を父のグランバルドに話した際に彼が、「また出費がかさむのか」と、頭を抱える姿を目にするからだ。
「おはよう、フレイ。今日は早いのね」
「お、おはよう、フレディ。う、うん、少し体を動かしたい気分でね」
「……? フレイ、どうしたの? 何か変だよ」
「えっ! そ、そうかな? ははは……」
明らかに不自然な笑い方をするフレイスリアに、フレデリカとピアローゼが怪訝な顔を向ける。
そこから更に二人に顔を寄せられてフレイスリアは観念したように理由を話し始めた。
「ちょっ、近い、近いって。わかったわよ」
「うん。それで?」
「……昨日、――様とフレディが楽しそうにしているところを見て」
「えっ? 私と誰?」
「レオナルド様! 二人が楽しそうにしているのを見たら、何だか落ち着かなくて……」
「えっ! それってしっ――」
そこまで言ったところで、ピアローゼの口をフレデリカが押さえた。
ピアローゼに余計なことは言わないようにと、目配せしたフレデリカは意味深な笑みをフレイスリアに向ける。
「そっか。見られちゃっていたかぁ」
「私、何だか変なの。フレディは大切な友達だし、レオナルド様は私の指南役(予定)なのに……」
フレイスリアは心底申し訳なさそうな表情で俯いているのに対し、フレデリカは更に笑みを深めている。そんな二人のやり取りを見ていたピアローゼは、フレイスリアを気の毒そうに見つめていた。
「フレイ、あの時ね。殿下とある人への贈り物を選んでいたのよ」
「贈り物?」
「そっ。あなたへの、ね」
「……えっ?」
何を言われたのか理解できずにフレイスリアは呆けた顔をする。
フレイスリアが意味を聞こうとして、「それってどういう――」と、言いかけたところで講義が始まってしまった。
軍事科の教練が始まる前から、フレイスリアは演習場で鍛錬をしていた。
見えるはず無いのに、彼女から怒気にも似た闘気が立ち昇っているように見える。
フレデリカから聞き出すことができず、フレイスリアのもやもやは大きくなってしまい、不機嫌度が増していた。
そんな彼女の様子に周りの生徒が戦々恐々とする。
触らぬ神に祟りなし――誰もが今のフレイスリアに近寄ることを恐れ、声をかけることもできないが、誰かが犠牲になる必要があると、皆の視線がある男に集まった。
アーロンである。
「まぁ、そうなるわな」
溜息を吐いたアーロンが心を決めて、フレイスリアへと近寄る。
それを他の男子は固唾を飲んで見守る。
「フレイ、荒れてるな。どうしたんだ?」
「アーロン」
アーロンに気付いたフレイスリアは汗を拭うと、彼の方へと向き直る。
「ちょっと気になることがあってね」
「なんだ? 俺たちに言えないことか?」
「まあ……」
フレイスリアが視線を逸らす。
彼女としては自分の中の不快感をどう説明すればいいのかわからない。
しかも、友人のフレデリカが関係しているとなればなおさらだ。
言い淀む彼女を見たアーロンは、先ほどよりも明るい声で話しかける。
「悩んでいても仕方ねぇ。そういう時は体を動かすに限る。俺でよければ相手になるから、組み手でもしようぜ」
「アーロン……ありがとう」
不意にふんわりと微笑むフレイスリアに、不覚にもアーロンの胸がドキッと高鳴る。
彼は気恥ずかしさから、視線を泳がせて組手を始めることを提案した。
フレイスリアもそれに同意し、お互いに距離を取って構える。
初めはゆったりと拳を合わせ始め、そこから徐々に速度を上げていけば、二人の間の熱量も応じて上がっていく。
フレイスリアも初めは心の中が落ち着いていたが、熱が増していくに従い、何故かもやもやとした思いが再燃する。
そして、ほぼ無意識にアーロンの拳を払い流すと、左足を一歩踏み込み両手を引いた。
「ちょっ! まっ――」
アーロンの制止する声はフレイスリアに届かず、彼女が突き出した両腕による掌底打ちで、またしても彼は吹き飛ばされる羽目になった。
進展が遅くてすみません。




