第29話 私はフィリア……他言無用です
駆け出し冒険者コンビ……普通にいったら全滅フラグ
「紹介するぜ、俺の幼馴染で相方のネミア。」
「よ、よろしくお願いします」
「フィリアさんとライザさんだ」
「えっ! テンペストの異名を持つお二人ですか!? わあ、私、ファンなんです! 握手してください!」
先程までとは打って変わって瞳を輝かせながら、体を寄せてこちらを見上げる彼女の姿は、どこか小動物に通じるものがある。
やんちゃな少年と大人しそうな少女の二人組は、パッと見では冒険者に見えず、どこかの仲の良い微笑ましい関係の子供にしか見えない。
そんな少年と少女のあまりにも若く拙い二人だけの冒険者パーティを、このままにして見なかった振りをするのは目覚めが悪かった。
それに初々しい二人を見ていると、何だか自分の弟や妹のように思えてくる。
フルフェイスヘルムの下にあるフレイスリアの表情が崩れていることを察したリザが、二人には聞こえないように囁いた。
「お嬢様、二人はおそらくお嬢様よりも年上ですよ」
その言葉で現実に引き戻されたフレイスリアは、冷静に状況を分析する。
冒険者ギルドで登録できる最低年齢は13歳からだ。
ちなみに私は9歳の時に登録した。立派な詐称だ。
そんな私が何故、登録できたかと言うと、女性としては背丈の高いリザよりも上背があった(全身甲冑で嵩増しした)ことで、彼女と同い年で提出した申請書の内容は特に怪しまれることなく通過した。
この時は本当に彼女に無理を言って同行してもらい、良かったと思った。
話を戻すと、私は今11歳だが、彼らは少なくとも13歳以上ということになる。所詮は自己申告だが。
フレイスリアは二人に確認することにした。
「二人はいつから冒険者をしているのだ?」
「13歳にならないと登録できなかったので、まだ3ヶ月ほどです」
やっぱり、フレイスリアよりも年上だった。
何となく自分の背中にリザの何とも言えない視線が向けられているのを、彼女は感じていた。
目的地への道中で二人のことを大まかに聞いたところによると、ルイスはフォースに適性のある剣士でネミアはマナに適性のある雷属性のキャスターだとわかった。
雷属性は使い手の割合が少なく、とかく制御が難しいことで知られているが、強大な種族である竜でさえも、空から叩き落すことができるとも言われている。
異相制御は想像力に多大な影響を受ける。それ故に自分を信じられなければ、うまく扱うことはどうしても難しくなってしまう。
お調子者というか恐いもの知らずな性格のルイスは、相性も良さそうで今のままでもフォースの扱いはうまくなるだろう。問題は地力と剣技だ。
二人には焦らずじっくりと自信と力を育んでほしい――と、フレイスリアは思った。
だから、こんなところで死なせるわけにはいかない。
将来のある若者の芽を潰えさせはしない。
ただ、もう一度言うが、二人はフレイスリアよりも年上だ。
一行は目的のダンジョン前に到着した。
物陰から状況を窺うと、ダンジョンの入り口前には醜い容貌で子供ほどの大きさしかないゴブリンと呼ばれる魔物が三匹いる。
二人の目的は、このダンジョンで消息を絶ったと思われるネミアの姉シンシアの捜索だ。
先にこのダンジョン調査依頼を受けていたネミアの姉シンシアが、五日経っても帰ってこないため、心配した二人が冒険者ギルドを訪ねたというわけだ。
――この二人は運が良かったのかも知れないわね。
リザは幼い二人を見ながら思う。
未熟な二人が忠告を無視してダンジョンに潜っていれば、そのまま帰ってこなかっただろう。それに協力者を得られたとしても、それが善人とは限らない。寝首をかかれて所持品を全て奪われ、魔物の餌にされていたかもしれない。しかも、ネミアは村娘にしては器量良しだ。そのまま奴隷として売られるか慰み者にされていた可能性もある。
そんなあったかもしれない最悪な未来を考えながら、リザがフレイスリアに視線を移せば、彼女は目の前の敵をどう倒すかしか頭には無いようだ。
――お嬢様……自分の身に降りかかるかも知れないと心に留め置いてほしいのですが……
凛々しくも幼い主を心配するリザの願いは、きっとフレイスリアには届かない。
四人はダンジョンの中を進んでいた。
ダンジョン前にいた魔物はフレイスリアが、一人で遥か遠くに殴り飛ばして瞬く間に制圧し、それを見た幼い冒険者コンビは呆気に取られて開いた口が塞がらなかった。
「驚きました! 強いとは聞いていましたけど、あれほどなんて!」
「ゴブリン程度、そんなに感心するようなことないよ」
「いえ! そんなことありません。尊敬し直しました!」
憧れの冒険者フィリアの戦闘を間近で見て、噂を遥かに超える圧倒的な力にネミアが大はしゃぎしている。
「チェッ、何なんだよ。あれくらい俺だって……いや、無理か」
幼馴染の少女が出会ったばかりの男……かはわからないが、冒険者にはしゃいでいるのを見てルイスは面白くない気分になる。
彼の口から漏れた呟きを聞き取ったリザが短く笑い、それにルイスが反応した。
「なんだよ、笑うことないだろ」
「ごめんなさいね。でも、君のことは短絡的かと思っていたのだけど、意外と周りが見えているのね?」
「そりゃそうだろ。あいつを巻き込むわけにはいかないからな」
思わずリザは目を瞠るが、すぐにその目は細められる。
彼の言葉に自分が仕えるお嬢様と通じるものを感じたからだ。
フレイスリアは何かとリザを振り回すが、彼女のことを軽んじたことは一度足りとも無く、冒険者活動の中で不覚を取った時も見捨てることはしなかった。
――使用人である私のことなど、気にかける必要無いのに……
リザは自分の胸に手を当てる。何だかほっこりと温かくなったように感じていた。
このダンジョンはどうもおかしい。
外には魔物がいたが、中に入ってからは全く遭遇していない。
戦闘のあった形跡もあるにはあるが、かなりまばらで時間の経過具合もまちまちだ。
ここはどちらかというと、魔物の住処ではなく、魔物を迎撃拠点のように感じる。
奥へと進んでいると、こちらに向かってくる足音が耳に届いた。
「うげっ! なにす――」
「しっ! 静かに」
咄嗟にズンズンと前へ進もうとするルイスの首根っこを掴むと、全員を物陰へと誘導する。
足音からすると、ブーツの音のように聞こえるから、おそらく近づいて来ているのは人間だろう。
しかし、ここの依頼を新たに受けた冒険者は自分たち以外にはいない。順当に考えれば、ネミアの姉ということになるのだが……
足音の聞こえ方からもう少しで姿が見える距離だと察知したフレイスリアは、いつでも戦闘行動に移れるよう拳に力を込める。
姿が見えた瞬間に殴りに行く気満々だ。
しかし、その拳が振るわれることはなかった。
「お姉ちゃん!」
「ネミア!」
曲がり角から現れたのは、捜していたネミアの姉シンシアその人だった。
姉の姿を見たネミアが彼女の胸に飛び込む。
シンシアもここにいるはずの無い妹の姿に驚きこそしたものの、優しく受け入れ、泣きじゃくる彼女を宥める様に背中を摩ってあげた。
敵ではないことを確認したフレイスリアが拳の力を緩めて腕を脱力させる。
リザはリザで、大惨事にならなくて良かった――と胸を撫で下ろしていた。
「わぁ……大きい」
シンシアに奥へと案内された先には、岩壁に囲まれながらも開けた天井から陽光が降り注ぎ、綺麗な湧水と大樹がそびえる何とも幻想的な場所が広がっており、そこでフレイスリアたちは、体長3メートルはあろうかという大きな狼を目の前にしていた。
神狼アセナ――それが彼女たちの前にいる巨大な狼の正体である。
巨大狼の傍には同じ毛並みの小さな狼が一頭、傷付いた親を心配するように寄り添っていた。
シンシアがアセナと出会ったのは数日前のことだ。
――『村の近くの洞窟に見たことの無い獣が住み着いたので何とかしてほしい』
シンシアはその依頼書を見て驚きを禁じ得なかった。妹のいる自分の村からの依頼だったからだ。
自分が他の依頼をこなしている間に、村に危険が迫っていることを知った彼女は依頼を受けることを決め、村に戻って村長から詳しい話を聞いた。そして、依頼のことは妹には黙っていてほしいと口止めする。
両親を亡くし、妹と二人だけの家族だ。それもあって、シンシアはネミアに心配をかけたくなかった。
そして、その日は妹の待つ家に帰ってともに過ごすと、朝早くに出発した。
しばらくしたら帰ってくるとだけ伝えて。
目的地には魔物の姿は無く、代わりに幼さの残る狼が自分を威嚇していた。
見た目は狼だが、普通とは違う毛並みから感じる気配から害悪になるものじゃないと悟ったシンシアは、携帯していた干し肉を差し出す。
すると、幼狼は警戒しながらも干し肉に食いついた。
それから警戒を解いた幼狼シフが、アセナの元に彼女を導いた。
「念話には驚きました。初めての経験だったので」
そう語るシンシアの言葉に一同は首を縦に振る。
念話を実体験したことで、シンシアはアセナたちが神狼だと気づいた。
アセナは内臓に達する大きな傷を負い、そのせいでここから動けないでいる。
傷付いたアセナの体から流れ出る神力に引き寄せられた魔物の襲撃が何度かあったが、幼くとも神狼であるシフによって撃退されていた。
そんなある日、シンシアが訪れた次第である。
話を聞いて状況を理解したフレイスリアがアセナの体に触れる。
異相を通してアセナの中の悪い部分を探っていく。
――深い……それに神狼だけあって抵抗が強くて辛い……
アセナが意識して抵抗しているわけではない。神狼は外からの干渉を受けにくい特性を有しているためだ。
それでも何とか問題の箇所を探り当てたフレイスリアは、その箇所を癒すために力を込める。眩い光が放たれると同時にアセナの中に自分の力が、止めどなく飲み込まれていく感覚を覚えた。
――これはまずいかも。
力をバカ食いされる感触にそう直感した彼女のカンは正しかった。
フレイスリアの纏う異相の鎧が、急速に力を吸われていくことで揺らいでいる。
光が収まるとアセナがゆっくりと立ち上がった。
頭を垂れて額をフレイスリアに擦り付けて親愛の証を取る。
『礼を言う、人の子よ。凄まじい力だ。そなたは聖女なのか?』
「聖女? いえいえ、私はそんなたいそうなもんじゃないです」
慌ててアセナの言葉を否定したフレイスリアは、背中に感じる視線に気づいて振り向くと、ルイスたち3人は目玉が飛び出さんばかりに目を見開き、リザは額に手を当てて難しい顔をしていた。
どうしたのか――と彼女が首を傾げていると、リザが右手で自分の姿を見てみる様に促してくる。
促されるままに視線を落とせば、本来ならあるはずの鎧がきれいさっぱり消失していた。それまでよりも、随分と視界がすっきりしているのは兜も消えていたからだ。
異相で作った鎧とはいえ、それなりに蒸れるので下には簡素な白い布製の鎧下しか着ていなかった。つまり、鎧の無くなった今、そんなあられもない姿を晒している。
だが、羞恥が襲うよりも早く、シフが飛びついてきた。
母を救ってくれた恩人への感謝と喜び故だろうが、結果として彼女はバランスを崩して湧水の中へと落ちた。
「ひゃあああ! 冷たい!」
湧水のあまりの冷たさに驚き、跳び上がる様に立ち上がった。
「見ちゃダメ!」
その瞬間、ネミアがルイスの目を両手で隠し、他の二人も固まっていた。
水に濡れたことで白い鎧下が透けた肌に張り付き、膨らみかけの双丘やくびれから丸みを帯びた形の良いボディラインが浮かび上がる。
そこに差す陽光とそれを反射する水面に彩られた彼女の姿は、まさに神秘の妖精と表現したくなるほどの芸術だった。
「くちゅん!」
体の冷えたフレイスリアから出たくしゃみで、現実に戻ってきたリザが慌てて彼女に自分の外套を着せたのだった。
アセナとシフはもふもふ枠




