第22話 私は殿下と出かけることになりました
アナスタシア王女が母国プロキオンに帰国する日がやってきた。
王都の門前には見送りに来たフレイスリアたちが並んで王女との別れを惜しむ。
今日まで案内役を務めたレオナルドの前にいるアナスタシアが何やらもじもじしている。
「今日でお別れなんて残念です。また必ず会いに来ますから!」
「我々もその日を心待ちにしております」
彼女の言葉に見事なまでの外面スマイルでレオナルドが返す。その脇に控える彼の護衛、アーサーは軽く会釈だけして口は開かない。
その光景を微笑ましく見ていたフレイスリアをアナスタシアがキッと鋭く睨む。
えっ、何で? と、疑問に思う彼女に対してアナスタシアが言い放った。
「あなたには絶対に負けないから!」
……どういうことだろう?
彼女も腕に自信があるのかな?
でも、そんな様子は一度も見てないし……
そういえば、レオナルド殿下が私にちょっかいをかけているのを見た時から敵視されているような……
まさか、王女はレオナルド殿下の事が好きなのかも――そこまで思い至った時には、アナスタシアは馬車へと乗り込んで既に出発していた。
例え、出発前に考えが到達していても、聞くに聞けない内容だったので、彼女は自分には関係の無いことだからと、そこまで深く考えていなかった。
しかし、何となく胸の奥に引っかかるものがあるような気がしていた。
見送りも終わり、皆が自家の馬車に乗って帰路につく中、フレイスリアはレーヴェリアンに呼び止められていた。
疑問符を浮かべて小首を傾げる。彼女は自分の前で照れ臭そうにしてなかなか切り出さない彼を根気強く待つ。
そして、レーヴェリアンが意を決したように彼女の顔を見つめた。
「フレイ、これから街に出かけないか? 」
「はい……殿下がそう仰るなら……? 」
随分ともったいぶってやっと出てきた言葉がそれかと、拍子抜けして心の中でツッコんだ。
まあ、別に何を期待していたというわけではないのだが……
フレイスリアはレーヴェリアンとともに城下町へと来ていた。
ちなみに二人の近くには護衛の姿は見えない。
非公式での外出になるので、一応変装はしているが、それでも良いとこの子女に見えるのはどうしようもない。
それだけに目に見える形で悪意ある者たちを牽制する意味を含めて、護衛が同行して脇に控えるのは有効なのだが――
――『殿下、護衛は伴わないのですか? 』
――『君がいれば、問題ないだろう? 』
確かに私は冒険者(周りには黙って)もしていて腕には自信ありますけどね!
でも、女の子ですよ! 10歳ですよ!?
前に護衛の事に触れていましたが、本当にそれでいいんですか!?
いや、まあ……護衛がいても、私も殿下の御身をお守りしますが……
少々腑に落ちないこともあるが、とりあえずレーヴェリアンの動向と周囲に注意を払うことにする。
目を周囲に向けると、そこらでこちらに視線を向ける複数の人物がいた。
中には見慣れた顔もいるため、王宮の騎士たちが変装しているのだとわかった。
――ちゃんと護衛がいるのね。殿下が言わなくてもお見通しってところかな。
そんな風に彼女が思いながら、クスっと小さく笑うと、それが聞こえたのだろう。
レーヴェリアンが彼女の顔を見ながら問いかける。
「どうした? 何か面白いものでもあったのか?」
「! ……ッ、い、いえ、ちょっとした思い出し笑いです」
ズズイっと顔を寄せてきたレーヴェリアンに驚いてぎょっとする。
表面上はすぐに普段通りに取り繕えたが、動揺からかうまい返答はできず、かえって彼の興味を引いてしまった。
「ほほぅ……それはどんなことなんだ?」
困った……別に何を考えていたわけではないし、かと言って本当のことを言ったら、殿下もあまり面白くないだろうし……下手をすると、護衛の騎士に怒って、彼らを帰らせてしまうかも……
それはそれで彼らに悪いし、本当の有事の時に私一人よりも皆さんがいてくれた方が心強い。
そんなこんなで何かうまい言い訳は無いかと必死で頭をフル回転させるが、元々、彼女はこう言った誤魔化しや嘘を考えるのがとても苦手なのだ。
リーシュベルト家の軍事教育では、『正面勝負』とか『困ったら力業』とか『わからせるために肉体言語』とかそんなのが主流なのだ。
そんなのでよく国家の剣としても国防の要としてもやっていけているなと、思うところだが、足りない部分はもう一つの要であるストロノーグ家が補っているのだ。
とはいえ、ここまで極端なのは家族の中でも彼女だけだが……
「おっ? 二人とも偶然だな」
暗中模索状態に彼女が陥っていると、偶然、そこへレオナルドがやってきた。
何ともタイミングの良い登場だが、フレイスリアは心の中で『天の助けだわ! 』と心の中で喜んだ。
レーヴェリアンは女性への贈り物でも探しているのだろうか、街に来た時から宝石やアクセサリーについて色々聞かれ、そういった物を店頭で見ては意見を求められるのだが、とんとそれらのことに疎い彼女はどう答えていいかわかりかねて困っていた。
それに加えて先ほどの状況が重なり、困窮していた彼女にとって、レオナルドの登場はまさしく僥倖だった。
――レオナルド殿下なら親しい女性も多いでしょうから、こういうことにも詳しいはず……
不敬とは思いつつも、レオナルドも変装していたため、挨拶は丁寧にお辞儀をする程度に留めた。
下手にいつも通りやってしまうと、周囲に勘付かれる危険性を考慮してのことだ。
挨拶をすませてから、助かったと内心、安堵の溜息を吐く彼女の前に気付いたらレオナルドが立っていた。
そして、フレイスリアの左手を取ると、手の甲に口付けをする。
これには完全な不意打ちの形となった彼女は、『ボンッ! 』と音が聞こえてきそうな程に顔を真っ赤にしてあたふたしていた。
それを見て唖然としていたレーヴェリアンだったが、レオナルドに勝ち誇ったような微笑を向けられ、両拳を握り締めて悔しさを滲ませる。
その後のことはよく覚えていない。
贈り物がどうとか言われていたように思うけど、全部、断った……はず。
お二人の行動がよくわからない。
それに自分の中のお二人の差ってなんなんだろ……?
レーヴェリアン殿下とレオナルド殿下……お二人とも趣こそ違うけど、美人には変わりないのよね。
そんなことを自室のベッドの中で考えていると、今日の疲労(主に精神的に)からか、いつの間にか眠りに落ちていた。
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