第21話 私は思ったよりも冷静でした
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彼女は今、自分がいる境遇に不満しかなかった。
凄まじく息苦しいお茶会。
立派な長テーブルに5人のアスタリオ王国の公爵令嬢、その対面にアナスタシア、レーヴェリアン、オーギュスト、レオナルドが並んで席の横に立っている。
そうそうたる顔触れの中で、オーギュストが小さく手を振っているのが目に留まった。
誰に向けて振っているのかと思って横を見ると、ピアローゼが頬を薄い赤に染め困ったような表情をしている。
それを見たフレイスリアは隅に置けないな~と、悪戯っぽく思った。
ピアは綺麗になった気がする。恋をしているからかな?
なんかこう……儚さを感じるから守ってあげたくなる。
ディアはいつ見ても凛として涼しげな印象よね。
性格も落ち着いているし、年の近いうちのテオなんてどうかしら?
フレディはホント美人……同い年なのに色々な差が……羨ましい、なんて。
あら?アナスタシア王女と笑顔を交わしている。いつの間にか仲良しさんなのね。
エリーは入学してから会う機会がめっきり減っちゃったけど、とても大人の女性になったように思う。
そして、縦巻きも……鋭さを増している気がする。
フレイスリアが視線を移していくと、レーヴェリアンと目が合った。
目を伏せて挨拶すると、彼も同じように返してくる。
久しぶりに彼の顔を見ても、何の感情も湧かない自分に少し驚きつつも安堵した。
唐突にレオナルドがアーサーを呼ぶと、フレイスリアの隣に座るよう促した。
アーサーは固辞するが、頑なな彼に折れて妹の隣へと移動する。
呆れ顔とともにわずかに肩をすくめる兄を見てフレイスリアの頬が緩む。
そんな彼女をアナスタシアがじぃーっと見つめていた。
それに気付いた彼女の頭の中に疑問符が浮かぶ。
――あれ?なんでそんな目で見ているの?
必死で過去を思い返して心当たりを探すが、何も思い当たる節が無い。
そこへ国王が入室してきた。
一同が陛下に対して頭を下げる。
「楽にしてくれ。そんなに堅苦しくする気はない」
国王は簡単に挨拶すると、全員を席に座らせお茶会を始めた。
友好国であるプロキオンは王子・王女を他国へと遊説させるのが慣例らしい。
アナスタシアはそれに倣い、アスタリオに訪れたというわけだ。
彼女は国での思い出や兄のことを語って聞かせてくれた。
楽しそうに話をする彼女を見ていると、実に和やかな気分になる。
フレイスリアがお茶に口をつけた時、アナスタシアの口からある人物の名前が飛び出す。
「そういえば!この国に来てすぐの時にフィリアという凄腕冒険者に会ったのです!」
――ぶっ!
彼女は危うく口の中の紅茶を吹き出しそうになった。
まさか、自分のことが話題に出るなんて思ってもみなかったからだ。正確には正体を隠しているからフレイスリアだということはわかっていないはずだが。
冒険者フィリアのことをアナスタシアが瞳を輝かせながら語るものだから、彼女自身はこそばゆい気持ちでいっぱいだった。
照れ臭さから身を縮こませてもじもじしているフレイスリアを両隣に座るアーサーとピアローゼがどうしたという目で見ている。
はっとして、いけないいけないと思いながら、火照りを取ろうと頬に手を当てて顔を上げると、レオナルドと目が合った。
彼の含みのある笑みを見て顔の火照りどころか、それまで感じていた体全体の熱も一気に冷めてビクッと反応してしまう。
――やっぱり、殿下は私に気付いている……?
だが、フィリアの話題は彼女がいかに凄かったのかというアナスタシアの話で終わり、それ以上広がることは無かったため、彼女はほっとする。
そんなこんなで全く気の抜けないお茶会は幕を閉じた。
令嬢たちは目上の方々が退室するまでの間、頭を下げていた。
すると、レーヴェリアンがフレイスリアに耳打ちをする。
「後で庭園まで来るように」と。
以前ほどでは無いにしろ、やはり気乗りはしない。
いやいやながらも指定された庭園へと足を向ける。
当然、他の令嬢たちに理由を尋ねられるが、適当にはぐらかした。
――殿下に呼ばれているなんて言ったら、また心配かけちゃうだろうし。
仲が深まってからというもの、みんな何かと彼女のことを気にかけていた。
以前からの知り合いであるフレデリカとピアローゼは、前々から親しかったこともあり、わからないわけではないが、一見すると我が道を行くようなクラウディアや当初はつんけんしていたエリザベートの変化には今も少し慣れない。
ただ、そんなことよりも彼女たちと親しい仲になれたことを彼女は純粋に喜んでいた。
王城の中庭にある庭園。
様々な花が咲き誇り、中央には噴水、木々に囲まれた中にはガゼボもある。どこをとっても、しっかりと手入れが行き届き何とも心安らぐ空間である。
大きな新緑の葉を揺らす木の下にレーヴェリアンがいた。
彼はフレイスリアの姿を認めると、表情を明るくさせる。
「久しぶりだな。変わりなさそうで何よりだ」
「殿下もご壮健なようで安心しました」
レーヴェリアンの言葉どおり、こんなにしっかりと顔を合わせるのは本当に久しぶりだ。
彼が貴族学校に入学後は、学内で忙しくしているらしく顔を合わせる機会がめっきり減っていた。
――随分と逞しくなられたわ。背も伸びたし、顔も凛々しく……声も低くなって。
入学する少し前から彼は背が大きく伸び始め、筋肉が付き、顔付きも雄々しさを感じさせるようになっていた。
そんなこともあって、フレイスリアは彼のことを何だか別人のように感じていた。
「しばらく見ない間にまた一段と美しくなったな」
「お褒めの言葉、ありがたく存じます。これも殿下をはじめ、皆様のおかげでございます。殿下も見違えました」
彼女の言葉に彼が照れ臭そうに頬をかく。
その顔に以前の彼を見た気がして、彼女は何となく温かい気持ちになった。
あんなに顔を合わせるだけで憂鬱だったのに変なのなんて自嘲気味に思いながら、まだ照れ臭そうな顔をしているレーヴェリアンに優しく微笑む。
彼女の微笑みを見て彼も嬉しそうに顔を綻ばせた。
レーヴェリアンからの話は雑談に近いものだった。
貴族学校での日常のこと。
フレイスリアが入学と入れ違いに卒業すること。
同じ敷地内にある貴士族院に進学すること。
「君の入学を楽しみにしている。そうすれば、いつでも会えるからな」
レーヴェリアンはそう締めくくると、フレイスリアに別れの挨拶をして去っていった。
彼の姿が見えなくなるまで見送ってから、彼女も庭園を後にしようとすると、物陰から出てきたフレデリカに驚きの声を上げる。
「わっ!フレディ!どうしたの?こんなところで」
「……また殿下があなたに不埒な真似をしないか見張っていたのよ」
「えっ……?」
――彼女ことは特に心許せる友人だとは思っていたが、まさか自分のことをこんなにも気にかけてくれているなんて……
フレデリカの心遣いを感じ、じわじわと嬉しさが込み上げてきていたフレイスリアは感情がマックスに到達して彼女に抱きついた。
不意に抱きつかれたフレデリカは驚きこそしたが、優しく彼女を抱きしめ返したのだった。
書き溜めていたものを全て投稿しましたので、今後は不定期更新になります。
大変申し訳ございません<(_ _)>




