第19話 私はこんなお茶会望んでいません
祝!総PV3000突破!
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ギルドへの達成報告を足早に済ませ、リザとともに邸へと戻ったフレイスリアは自室で気が抜けたように大きく息を吐き、ソファの背もたれに身を預けていた。
すっかり日も暮れかけて部屋の中が、夕日で赤く照らされている。
その中で彼女は一人物思いに耽っていた。
――殿下は私に気付いていた……?
あの時のレオナルド殿下の口は『フレイスリア』と動いたように見えた。
だけど、あれだけの重装備で固めて肌の露出など一切無かったのだから、私だとわかるはずがない。
実際、隣にいたアス兄様は無反応だったし……
色々と自分の正体が露見していないか心配しながら、最後には気にしても仕方ないかなと開き直っていた。
最後の最後で嫌な汗をかいたから早くさっぱりしたいと湯浴みの支度が整うのを彼女は心待ちにしていた。脇に控える侍女があの場で彼女以上に冷汗を流し、今でも冷汗ものの心境でいることに気付かずに。
時間は過ぎて翌日。
この日はフレデリカとピアローゼとのお茶会が予定されている。
朝食を軽めに取り、気の置けない友人たちを招くための最終チェックを自ら行っていた。
フレデリカはビターな味を好むが、ピアローゼは年頃の少女らしく甘いものを好む。紅茶の好みも違うので数種類の茶葉を用意させている。
これらを準備するための資金の一部は彼女が冒険者活動をして得た報酬が充てられていた。
友人をもてなすのに家のお金だけでなく、自分で稼いだお金も使うのは彼女なりの誠意の表れなのだろう。
一通りの確認を終えてサラと一緒に自室に戻ろうとした際、執事が手紙を携えてきた。
既に開封されているところを見ると、フレイスリア宛てではない。
それにも関わらず、わざわざ渡すというのはどういうことなのかと訝しく思いながら、中身を読んで彼女は絶句した。
そこには今日のお昼頃に隣国の姫ことアナスタシアがここを訪れるという先触れの手紙だった。しかも、レオナルドが同行するとも書かれている。
衝撃で彼女の手から手紙が滑り落ちた。
お茶会に来訪したフレデリカとピアローゼにフレイスリアは事情を説明し、謝罪をしていた。
「ごめん。まさかこんなことになるなんて……」
二人の令嬢もそうだが、彼女自身も二人と過ごす時間をとても楽しみにしていた。
王城で催されるお茶会とは違い、三人で囲むテーブルは他愛のない話に花を咲かせ、気兼ねすることのない数少ない憩いの時間なのだ。
楽しみだったお茶会の代わりに用意されるのが、よくわからないけど粗相はできないような方の相手など、苦痛以外の何物でもなく、フレイスリアは憂鬱で仕方なかった。
「フレイ、元気を出してください」
「そうよ。それにあなたまでずっと一緒にいなきゃいけないわけじゃないでしょ?」
「えっ?」
「そういった方々をもてなすのは当主と夫人の役目だもの。あなたは最初の挨拶だけすませてこっちに合流すればいいわ。私もピアもあなたが来るのを待っているから」
友人の言葉にフレイスリアは気を持ち直した。その脇で「えっ、私も?」という顔をしているピアローゼをフレデリカが目で牽制すると、「うひぃ」という声が聞こえてきそうな顔をして怯む。
あまりの可笑しさにフレイスリアが堪えきれずに笑い出し、それを見て安心したようにフレデリカとピアローゼも笑顔になった。
だが、運命とはそう簡単には思い通りにならないということを後に思い知ることになる。
フレイスリアは両親とともに公爵邸の前でアナスタシアたちを出迎えた。
聞くところによると、アスタリオ国内の公爵家に同世代の令嬢がいることを聞いたアナスタシアが、各家々を訪問したいと言い出したのがきっかけらしい。
それで初日の今日はリーシュベルト家を訪れることにした。理由は案内役であるレオナルドの専属騎士アーサーの家だからだそうだ。
何ともはた迷惑な話である。
今は一秒でも早く二人の所に戻りたいフレイスリアが挨拶をすませた後に自分は関係ないからと、場を抜けようとすると、レオナルドに呼び止められた。
「そんなに急いでどちらへ行かれるのかな?」
なんであなたがそんなことを気にするのよと、危うく口から出かかった言葉を飲み込み、微笑みながら返答する。
「友人を待たせておりますので、そちらへ」
「友人とはフレデリカ嬢とピアローゼ嬢のことかな?」
なんであなたがそんなこと知っているのよと、心の中で叫んだ彼女は自分の笑顔が引き攣っているのがわかる。
まるで勝ち誇ったかのような笑顔をレオナルドはフレイスリアに向けていた。
そこに割って入る声が聞こえてきた。
「私もこの国の令嬢たちと会いたいわ」
要人であるアナスタシアに断りを入れることもできず、二人には申し訳なく思いながらもお茶会に同席させることになり、フレイスリアがアナスタシアたちと一緒に戻ってきたのを見た二人はぎょっと目を見開いていた。
いや、もう本当に申し訳ない。フレイスリアは心の中で何度も彼女たちに謝った。
しかも、何故か彼女の隣にはレオナルドも座っている。
一体どこで何を間違えたのかと、フレイスリアが頭を悩ませていると、用意してあったスイーツに手を伸ばしたアナスタシアが口を開いて酷評した。
「なに、このお菓子?全然甘くないじゃない。こんなのお菓子じゃないわ」
彼女が手に取ったのは、甘い物が得意ではないフレデリカのためにフレイスリアが用意したビタースイーツだ。
甘い物が好きな人が食べれば、そういう感想を抱いても不思議ではない。
普段のフレデリカなら余裕で聞き流せた言葉だろうが、大切な友人との時間を邪魔されただけでなく、その大切な友人が自分のために用意してくれたものを貶められて黙ってはいられなかった。
「王女殿下、この程度も許容できないようでは品位を疑われますわよ?」
「なっ、なんですって!?」
「私も差し出がましいことは重々承知していますが、殿下のためを思っての言葉ですので、心優しい殿下ならばお許し頂けますわよね?」
「え……ええ、そうね。私は寛大だからね。初対面なのによくわかっているじゃない。しかも私の事を思ってなんて、なかなか見どころがあるわね、あなた」
明らかにフレデリカの言葉は悪意丸出しだったが、あっさりとアナスタシアは言い包められてしまった。なんとちょろいことか。
二人の様子をハラハラしながら見守るピアローゼと口を隠して笑いを堪えるレオナルド、その脇で何も聞こえていないかのように動かないアーサーがいる。
いやいや、折角のお茶会が気まずさマックスで折角用意した紅茶の香りもなにもあったもんじゃない!もう……台無しよ!
フレイスリアは微笑を浮かべたまま、心の中で頭を抱えていた。
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