第18話 私は面倒ごとを拾ったようです
依頼達成の帰り道、フレイスリアとリザは見るからに高貴な身分の少女の前にいた。彼女は馬車の前に従僕が用意した簡素なイスに座って二人を見ている。
なにやら礼を述べているようだが、そんなことはフレイスリアにとってはどうでも良かった。どうでもいいどころか、さっさとギルドに報告を入れて帰宅したいのだ。
帰りが遅くなっては自分たちの動向が怪しまれる。それだけは何としても避けたい。
それに狼の毛皮などが臭うのだ。
だから早く解放してとフレイスリアは心の中で叫んでいた。
少し時は遡る。
無事に討伐対象を仕留めたフレイスリアとリザは冒険者ギルドに達成報告をするための帰路についていた。
腕試しには物足りなかったが、この依頼はギルドから出る達成報酬も悪くないし、何より毛皮などの素材が集まったので依頼外利益も十分に見込めることから、彼女はほくほくしていた。
公爵令嬢である彼女にとっては報酬など無くても何不自由ない生活を送れる。
彼女が報酬を喜ぶのは達成感に浸れるからという部分も無くなないが、一番の理由は領地にある孤児院への寄付や贈り物のための資金を作れるということだ。
病気や事故などの何らかの理由で親を亡くした子供たちが預けられている孤児院では、公爵家から運営資金の寄付が行われているが、決して裕福ではなく当然そこにいる子供たちの服などにかける余裕はない。
過去に慰問という形で訪れた領地の孤児院の現状を見て彼女は愕然とした。
同じ年頃の子供たちは痩せていて、自分より年上の子供も発育に影響が出ているのか外見だけでは年上と分からなかった。
みんな同じような服を着て干されている服も同じようなものばかり。
この時にフレイスリアが受けた衝撃はとても大きいものだった。
軍事に重きが置かれる家柄で育ったとはいえ、彼女も女の子だ。
可愛い服も着たいし、色んな小物を集めて自分を飾りたいのは至極当たり前のことだろう。
だが、そんな当たり前も自分が公爵家に生まれたから当たり前なのであって、目の前にいる子供たちにとってはそうではないのだ。
父に何とか孤児院への支援を増やせないかとフレイスリアは頼んだが、リーシュベルト家がいくら公爵家でも財源は無限ではない。
王家への納税や遺族への弔慰金に生活保障、軍備費などを勘案して出せるのは現状が精いっぱいなのだと教えられた。
それでも彼女は孤児院の子供たちにも、お洒落や夢を志すことを諦めないでほしかった。
だから一念発起したのだ。足りないなら稼げばいいと。
報酬の半分を孤児たち用に割り当て、残りは教会への寄付、国境警備などで遠征している領民への陣中見舞い、付き合ってくれているリザへの特別手当、そして仲の良い令嬢たちをもてなす用として有効活用していた。
今はまだ等級も低いから報酬も少ないが、活躍して等級が上がればもっと報酬の良い依頼も受けられるだろうし、そうなれば必然的に強敵と戦えるはず。
そんなことを考えながらもっと頑張るぞと意気込んでいると、どこからか叫び声が聞こえてきた。
加えて金属音も聞こえてきたことから、野盗か何かに襲撃されていると考えられる。
音の聞こえ方からそう遠くはない。
異相を展開して居場所を探り当てたフレイスリアがそこへ向かって走り出す。
「リザは周りを警戒しながら、遅れて付いてきて」
他に敵がいないかを索敵しつつ、戦闘に参加するか助勢を求めるか状況を見極めなさい。
端的な彼女の言葉から、きっちりと真意を読み取ったリザは速度を落として気配を殺しつつ、周りを確認しながら進む。
それに対してフレイスリアは一直線に最短距離を進み、敵の姿が見えた瞬間、気合とともに戦鎚を振り上げて飛びかかった。
そして、現在に至る。
「――なので、大儀であったぞ」
気付けば少女からの礼の言葉は終わっていた。
これでやっと解放されると、向きを変えようとしたフレイスリアをリザが止める。
何事かと思っていると、リザが彼女に耳打ちした。
「お嬢様、話を聞いていなかったんですか?この方は隣国プロキオンの姫君です。そんな方からの申し出を無視はできませんよ」
「はっ……?申し出?」
「……王都まで一緒に護衛してほしいって」
自分の思いどおりにならない現状に彼女はうなだれるばかりだった。
しばらく歩きながら状況を整理している内に、これはこれで良かったのかなと思うようになっていた。
今は正体を隠しているとはいえ、この国の貴族として野盗の存在を野放しにはできないし、捕えた野盗を衛兵に引き渡すにも人手が必要だった。
それに隣国のお姫様の窮地を救ったとあれば、国家からは独立している冒険者ギルド内での評価はともかく、国内での冒険者フィリアとライザの評判は大きく上がるだろう。
そう考えれば悪いことばかりではない。
ちなみにライザとは、リザのギルド登録名である。
王都の近くまで来て門扉前に見慣れた顔がいることに気付き、フレイスリアは自分の浅はかさを後悔した。
そりゃ、隣国の王女の迎えがいないわけないし、そんな役目は相応の人間が負うに決まっている。
王女を迎えに来たのはレオナルドだった。当然、専属騎士であるアーサーも同行している。
二人が何事かというような視線で自分を見つめていたが、レオナルドはすぐに笑顔に戻っていた。ただ、その視線に何か裏を感じる。
自分の正体がバレないかひやひやのフレイスリアは、何とかボロが出る前に早くこの場から去るためにわざとらしく声を上げる。
「あー、急がないとギルドへの報告が間に合わない。殿下方の御前で失礼ではございますが、私はこの辺でお暇させて頂きます」
何かを言いかけた王女の言葉を遮るようにレオナルドがフレイスリアに声をかける。
「初めて見る顔ですね。お名前を伺っても?」
「私はフィリア。こっちはライザです」
「フィリア殿にライザ殿ですか。此度は大義でした。私からもお礼申し上げます」
もっともらしく礼を述べた後に彼の口は声には出さないが動いていた。
それを見たフレイスリアは冷汗が流れた。
一礼してからその場をそそくさと去る。背中にレオナルドの視線を感じながら。
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