第14話 私はついつい甘くなってしまいました
ご覧頂きましてありがとうございます。
こんな拙い作品に何度も足を運んで頂けるだけでなく、ブックマークまでして頂いて嬉しく思います。
もっと、フレイがぶっとんだ活躍をしつつ、あま~い展開が書けるように頑張ります!
フレイスリアはメイドの案内に付いてレーヴェリアンの私室前に立っていた。
メイドがノックすると、中からの返事を確認してから扉がゆっくりと開かれる。
正直に言うと、会いたくは無い。
ただでさえ、良い印象が無い上に先日のあの出来事だ。
不幸な事故だったが、不可抗力ではない。いや、そもそも不可抗力でないものを不幸な事故と言って片づけてよいものか。
いずれにせよ、王族に危害を加えたのは事実なのだから、本来なら婚約者候補を外されるどころか爵位返上に死罪も十分にあり得ることなのにも関わらず、音沙汰が無かったのは今日この日に直接引導を渡すためだったのではないか。
そんな彼女の杞憂は次の瞬間、どこかへと吹っ飛んでしまうことになる。
部屋の奥にはしっかりした作りの執務机が置かれており、その先には椅子の背もたれに体を預けて放心しているレーヴェリアンの姿があった。
開口一番何を言われるのかと身構えていたフレイスリアは呆気にとられて立ち尽くす。
ハッとして我に返り、平静を装ってカーテシーをする。
「アスタリオ第一王子殿下、リーシュベルト公爵が娘のフレイスリアです」
彼女の言葉に反応してレーヴェリアンの顔が向けられる。
眼が大きく見開かれた彼の表情からは驚愕の色が窺える。「なぜ、ここにいるのか?」と。
フレイスリアは一向に頭を上げようとしない。
それもそのはず、レーヴェリアンから許可が出ていないからだ。
存外、この姿勢を維持するのは結構疲れるものなので、この前の仕返しかとフレイスリアは訝しむが、はたして彼がこんな地味な仕返しをするだろうかとも思っていた。
それから一拍置いて、レーヴェリアンは頭を上げるように促した。
しばらくぶりにちゃんと見る彼女の姿に鼓動が早まる。
何か言わなければならないと分かっていても言葉が見つからず、視線を彷徨わせているレーヴェリアンの言葉をフレイスリアは辛抱強く待った。
彼女は婚約者候補だが、所詮は候補。上位者に対して下位にあたる側から話を始めるわけにもいかない。
「……何用だ?」
漸くレーヴェリアンの口から聞けた言葉は短く淡々としたものだった。
お前の顔も見たくない――そんな声が聞こえてきそうな声音だ。
しかし、そんなことは意に介さずフレイスリアが彼の問いに答える。
「先日は大変なご無礼を働き申し開きのしようもございません。つきましては、殿下の婚約者候補としての立場を辞退したいと――」
「なっ!」
両手で執務机を叩く音と同時に椅子を跳ね飛ばさん限りの勢いで立ち上がったレーヴェリアンが驚きの声を上げた。
彼の態度を見て言葉を失っている彼女に気付き、レーヴェリアンは焦った様子でフレイスリアに近寄り彼女に伸ばしかけるが、その手は宙を彷徨い、気まずそうに頭をかく。
「いや、私は君にひどいことをした。嫌われていても仕方ない……」
レーヴェリアンがしょんぼりと頭を垂れる。
それを見たフレイスリアは過去に自分が連携を乱して狩りに失敗し、落ち込んでいた時に兄が励ましてくれたことを思い出した。
人の行いに失敗はつきもの――そう考えたフレイスリアは彼の手を両手で取って微笑み励ましの言葉をかける。
「殿下、私は殿下の事を嫌ってなどいません」
「……本当か?」
「はい。むしろ殴ってしまったことをお許し頂いて感謝の念に堪えません」
殴ったことに対してレーヴェリアンは一言も「許す」とは言っていないが、フレイスリアはこの空気に乗じて有耶無耶にしようと画策した。
強かにもそう言葉にした彼女は心の中で彼から否定の言葉が出ないことを祈る。
その願いが通じたのか、レーヴェリアンは表情を明るくして弾んだ声を出した。
「そうか!そうか!君はこれからもともにいてくれるのだな?」
「もちろんです。(この国を)愛しておりますので」
「!……そうだったのか……そんなに……」
自分の言葉に顔を紅潮させて視線を逸らしたかと思ったら、いきなり両手を握り返されて顔が寄せられる。
「これからもよろしく頼む!フレイ」
弱った顔に対してはさすがに忌避感も薄まっていたが、ここに来て復活した彼の表情を見て彼女の笑みが引き攣る。
フレイスリアの言葉ですっかり元気を取り戻したレーヴェリアンは暴走し、今後のお茶会やデートのことを矢継ぎ早に並べ立て、彼女に付け入る隙を与えない。否、彼にそんな魂胆は一切なく、純粋にフレイスリアと一緒に過ごしたくて仕方ないようだ。
そして、ついに彼女に特大の衝撃を与える言葉をレーヴェリアンが吐く。
「そうだ!今後は君が私の護衛の一人として付き添ってくれ。君は実力も十分だし、そうすれば一緒にいられる時間が増えるからな」
悪戯をした後に親に怒られて部屋の隅で小さくなっている子供のような表情をしていた彼に対して湧いた同情心を少しばかり後悔した。
この先も婚約者候補を続けることになっただけでなく護衛としても付き添うということは、彼と顔を合わせる機会は嫌でも増える。それでも、彼を殴ったことが帳消しになったことを思えば安いものだろう。
私が心を無に保てば問題のないことだと、彼女の中でこれから先のことに整理を付けた。すると、先ほどのレーヴェリアンの言葉が無性に気になりだす。
――なぜ愛称呼びなの?
これから先も大変な日々が待ち構えていることは明白にも関わらず、彼女はそんな果てしなく些細なことに気を取られていた。
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