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そっくりな顔の『私』と『わたし』  作者: 狼二世
□ひとつ前 の お話 は 続く
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09.◇◇◇鏡の中は絶望

 久々にのぞいた鏡の中には、みすぼらしい女の子が居た。

 髪の毛はボサボサで色あせている。目元には涙の跡が残っていて、パッとしない。

 本当に、自分が数週間前までアイドルなんて名乗っていたのか不思議になる。


 ――あの日から、何してたんだっけ。


 事故に巻き込まれたのは完全に偶然だったと思う。

 寮への帰り道の途中、表通りからちょっと離れた川を望む道沿いにある、古びた中華料理店。

 ちょうど――本当に悪い偶然で、その道を通りかかったとき、お店が爆発した。


 思い返して冗談みたいな話だけど、冗談じゃない。実は服で隠しているけど、まだ傷が残ってる。


 爆発の衝撃で吹き飛ばされた私は、運よく生きていた。だけど、飛ばされた先が問題で、遠くまで流れている深い河の中。

 幸い、溺れてしまうことはなかったけど、気が付いたのは海辺の町。ちゃんと動けるようになったのは一週間後。

 病院に運ばれて、ずっと眠っていたらしい。身分証も――あんなに注意されたのに、忘れていたから、連絡先も分からなかったらしい。

 ともかく、目覚めた私は重い体を引きずって行動を開始した。

 まず、寮母さんに連絡をした。すると、難しい声で返事が返ってきた。


 ボロボロの身体で寮に戻ると、そこには走って飛び出す自分の姿。

 問い詰めると、事情はすぐに話してくれた。


 その時には、既にあの子がステージに立っていた。

 私がそう――と名乗り出ようにも、手は止まってしまった。

 わかってしまった。『星美ユナ』は私ではなくて、もうあの子なのだと。


 そして 『星美ユナ』になるのは私でなくても出来て――

 私は、『星美ユナ』と言う皮を被っていただけの女の子だから。


 ステージの上の自分が、自分でないような感覚はいつも感じてた。

 だから、本当のことを言えばちょっとだけ納得してしまった。

 ――そう、納得しちゃったから、私はステージに立てなくなった。


 それに――もう一つ、胸の中につっかえている物がある。


 幸いにして、身の回りのお世話は寮母さんがしてくれることになった。

 不幸な事故とはいえ、不手際で私が社会からはじき出されてしまった責任を、彼女の上の人間――アイドルと言う文化を復活させた組織も知っているらしい。

 生きられるだけのお世話はしてもらえるし、死にたいなら苦しまずに死なせてくれるらしい。


 そのどっちも選べなくて、私は寂れた町の片隅に引きこもったんだけどね。

 いっそ、このまま終わるかと思ったけど、そうはいかなかった。

 あの子が……一つ後の私が訪ねてくるまでは。


 覚悟はしていてけれど、同じ顔と向き合うのは吐き気がするような嫌悪感がした。

 ロちゃんとお話なんてできなくて逃げ出してしまった。


 夕暮れの田舎町を駆け抜けて、駅の前に。

 足は自然と踏切に向かっていた。

 カンカンとけたたましい遮断機の音が電車の来訪を教えてくれる。

 いっそ、踏み出してしまえば消えられるかもしれない。

 だけど、それも出来なくて。


 何度も電車を見送って、みんなが寝静まったころに、トボトボと隠れ家に帰った。

 道すがら、空を見上げる。真ん丸のお月様が、誰かの顔みたいだった。


 その日からも、私は変わらなかった。だけど、あの子は変わった。

 もう一人の私は、アイドルを止めなかった。

 日に一度様子を見に来てくれる寮母さんから話を聞くたびに、私は自分が情けなくなっている。

 そして、やっぱり自分が降りてよかったんだと思った。


 ――今まさに、それを実感してる。

 目の前で――ライブのステージで押しつぶされそうな程の歓声を受け止めるあの子が居るから。


 自分が偽物だと思っている『星美ユナ』が、今なお本物だと信じて頑張ってる人に勝てるわけがない。

 本当のことを知ったうえで、あの子はアイドルとして立った。

 私には出来なかったことを、やってしまったから。


◇◇◇


『貴女には見届ける義務がある』


 そう、寮母さんが言った言葉。それと共に手渡されたのは、ライブのチケットとパンフレット。

 あの子が――一つ後の私が出るステージだった。

 残酷じゃないか、と抗議をしたら、あの子だけを歩かせるわけにはいかない、と言われてしまった。

 勝手だと思うけれど、それは私も同じだ。


 なれない厚化粧にダサいサングラス。服だってちょっと野暮ったい感じに着込んでライブの会場に行く。

 十年近く前に建てられた講堂。そこには、私が居なくなった時と同じくらいの人が居る。

 ざわめきの一つ一つが耳に痛くて、期待の瞳が心に突き刺さる。

 逃げ出したい気持ちを抑えて指定された席へ。今すぐにでもこの場所から飛び出したい。逃げ出したい。

 けれど、それはあの子が出てきたときに吹き飛んでしまった。


 アイドルが居た。

 本当は苦しいはずなのに、笑顔でいる――弱くて強い女の子が立っていた。


「――っ!」


 わきあがる感情のままに口を開く。

 気が付けば、夢中で歓声を送っていた。

 

 何一つ問題は解決してない。

 私は今もみすぼらしい木偶人形だけど……

 だけど、あの子を見ていると心が騒めく。

 なんだろう、この感情は、なんだろう。


 答えは出せないけれど、衝動は身体を突き動かす。


「みなさーん! 楽しんでますかー!」


 アイドルの言葉に、会場が一体となって揺れる。

 その中に、私も居た。

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