06.◆◆◆答え合わせの日
学校が終わると、友達からの誘いも断って電車に乗り込む。
レッスンもお仕事もない。それは寮母さんも知ってたから今日を指定したんだと思う。
電車の中は、朝と違ってすいていた。
席に座ってぼうっと窓から望む空を見上げる。流れていく雲を見ていたら、あっという間に目的の駅に着いた。
駅を降りると広がっていたのは古い商店街。シャッターが降りた店先が目立ついかにも寂しい街並みだった。
時々通りかかるのはご老人ばかり。若いわたしが珍しいのか、視線を投げかけてくる。
嫌なくすぐったさを感じながら、デコボコのタイルの上を早足で歩く。
「はわっ」
慌てていたら、ちょっとだけつんのめってしまった。
焦ってもしかたないのに――それなのに、早くいかないといけないって胸騒ぎがする。
商店街を抜けると、見えてきたのは古いアパート。壁はひび割れて泥や砂で汚れていて、人の気配も感じない。
わたし達が住んでいる町が、時間が緩やかに流れる場所だとすれば、ここは時間から置いていかれた場所だ。ずっと居たら、止まってしまう気がする。
唾をのむ。帰るなら今の内だけど、そうしたら二度とここには来れない気がした。
「うんっ!」
両手で頬を叩く。小気味のいい音が空に響いた。
大丈夫、きっと大丈夫。
そうして、たどり着いたアパートの入り口。ちょうど二階への階段の下に、寮母さんは立っていた。
「来ましたね」
「はいっ!」
返事だけを確認すると、寮母さんはわたしに背を向けて階段を上り始める。わたしもそれに続く。
カンカン、と乾いた音が響く。結構大きな音だけど、建物の中からも外からも気にしたような気配はない。
「誰もいないんですか?」
なんとなく、そんな気がした。人よりも幽霊が居そうな場所だから。
「いえ、一人だけいますよ」
そうして、階段を上りきると、一番手前のドアの前まで歩く。そこで寮母さんは立ち止った。わたしに向き直ると、鋭い瞳をわたしに投げつける。
「この先に、あなたの真実があります」
「真実……」
それは、なんだろう。本当の事なんて、分からない。
だけど、ここ数日の噛み合わないような違和感に対する何かがある筈。
そうでなければ、寮母さんも呼び出さない。
「開けて、いいですか?」
寮母さんは、はっきりと首を縦に振った。
ドアノブに手をかける。冷たかった。握るわたしの手は震えている。それだけじゃなくて、汗だらけでうまく力が入らない。
大丈夫。できる、必死に言い聞かせながら、ブリキ人形みたいな動きでノブを回す。
ガチャリ――
金属が外れた音がした。合図だと思った。もう、躊躇しない。一気に扉を開けるんだ。
息をのんで一気にドアを押し開ける。
開かれた扉の先に広がっていたのは、しっかり掃除された綺麗な廊下。その先には、小さな部屋がある。
そして――人の気配があった。
「寮母さん?」
奥から、声が聞こえた。微かな、幽霊がいたらこんな声を出すんじゃないかと思う。
でも、その声には聞き覚えのある声だった。
友達の声? 家族の声?
ううん、ちがう。もっと身近な――
「あ……」
同じ音が、わたしの口から漏れた。
わたしの声が、二つあった。
嫌な予感がした。テレビの中の自分を見ていた時に感じた、他人を見ているような感覚が身体を貫く。
怖い、だけど、確かめないといけない。
ここまで来て、引き返すことなんてできない。
震える足で前に出る。廊下を抜けて、部屋に入る。
そこに待っていたのは――
幼い顔立ちの大人一歩手前の少女。栗色の髪の、小さな女の子――
前のライブの時、幻という名の記憶の中に居た、震える女の子――
わたしと同じ顔の女の子が、そこに居た。
「あなたは――」
この人の名前を、わたしは知っている。
「あなたは、『星美ユナ』?」
女の子は、答えなかった。だけど、それが間違っていないと言っていた。
だって、あんな悲しそうな顔でわたしを見ているんだもの。
頬から、涙が流れた。
ああ、今まで感じていた違和感も――
ずっと前のわたしの姿が他人みたいだったのも――
「わたしではなくて、あなたが『星美ユナ』だったんだから」
『星美ユナ』さんは、それを聞くと立ち上がり、首を振る。
「ちがうよ、私も、貴女も違うんだから」
何を言ってるんだろう。分からないよ。
「さて、どこから説明をしましょう」
寮母さんはわたしたちの顔を見渡すと、ゆっくりと口を開いた。
「『アイドル』についてからですかね」




