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そっくりな顔の『私』と『わたし』  作者: 狼二世
■ひとつ後 の お話
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6/13

06.◆◆◆答え合わせの日

 学校が終わると、友達からの誘いも断って電車に乗り込む。

 レッスンもお仕事もない。それは寮母さんも知ってたから今日を指定したんだと思う。


 電車の中は、朝と違ってすいていた。

 席に座ってぼうっと窓から望む空を見上げる。流れていく雲を見ていたら、あっという間に目的の駅に着いた。


 駅を降りると広がっていたのは古い商店街。シャッターが降りた店先が目立ついかにも寂しい街並みだった。

 時々通りかかるのはご老人ばかり。若いわたしが珍しいのか、視線を投げかけてくる。

 嫌なくすぐったさを感じながら、デコボコのタイルの上を早足で歩く。


「はわっ」


 慌てていたら、ちょっとだけつんのめってしまった。

 焦ってもしかたないのに――それなのに、早くいかないといけないって胸騒ぎがする。


 商店街を抜けると、見えてきたのは古いアパート。壁はひび割れて泥や砂で汚れていて、人の気配も感じない。

 わたし達が住んでいる町が、時間が緩やかに流れる場所だとすれば、ここは時間から置いていかれた場所だ。ずっと居たら、止まってしまう気がする。

 唾をのむ。帰るなら今の内だけど、そうしたら二度とここには来れない気がした。


「うんっ!」


 両手で頬を叩く。小気味のいい音が空に響いた。

 大丈夫、きっと大丈夫。


 そうして、たどり着いたアパートの入り口。ちょうど二階への階段の下に、寮母さんは立っていた。


「来ましたね」

「はいっ!」


 返事だけを確認すると、寮母さんはわたしに背を向けて階段を上り始める。わたしもそれに続く。

 カンカン、と乾いた音が響く。結構大きな音だけど、建物の中からも外からも気にしたような気配はない。


「誰もいないんですか?」


 なんとなく、そんな気がした。人よりも幽霊が居そうな場所だから。


「いえ、一人だけいますよ」


 そうして、階段を上りきると、一番手前のドアの前まで歩く。そこで寮母さんは立ち止った。わたしに向き直ると、鋭い瞳をわたしに投げつける。


「この先に、あなたの真実があります」

「真実……」


 それは、なんだろう。本当の事なんて、分からない。

 だけど、ここ数日の噛み合わないような違和感に対する何かがある筈。

 そうでなければ、寮母さんも呼び出さない。


「開けて、いいですか?」


 寮母さんは、はっきりと首を縦に振った。

 ドアノブに手をかける。冷たかった。握るわたしの手は震えている。それだけじゃなくて、汗だらけでうまく力が入らない。

 大丈夫。できる、必死に言い聞かせながら、ブリキ人形みたいな動きでノブを回す。


 ガチャリ――


 金属が外れた音がした。合図だと思った。もう、躊躇しない。一気に扉を開けるんだ。

 息をのんで一気にドアを押し開ける。

 開かれた扉の先に広がっていたのは、しっかり掃除された綺麗な廊下。その先には、小さな部屋がある。


 そして――人の気配があった。


「寮母さん?」


 奥から、声が聞こえた。微かな、幽霊がいたらこんな声を出すんじゃないかと思う。

 でも、その声には聞き覚えのある声だった。

 友達の声? 家族の声?

 ううん、ちがう。もっと身近な――


「あ……」


 同じ音が、わたしの口から漏れた。

 わたしの声が、二つあった。


 嫌な予感がした。テレビの中の自分を見ていた時に感じた、他人を見ているような感覚が身体を貫く。

 怖い、だけど、確かめないといけない。

 ここまで来て、引き返すことなんてできない。


 震える足で前に出る。廊下を抜けて、部屋に入る。

 そこに待っていたのは――

 幼い顔立ちの大人一歩手前の少女。栗色の髪の、小さな女の子――

 前のライブの時、幻という名の記憶の中に居た、震える女の子――

 わたしと同じ顔の女の子が、そこに居た。


「あなたは――」


 この人の名前を、わたしは知っている。


「あなたは、『星美ユナ』?」


 女の子は、答えなかった。だけど、それが間違っていないと言っていた。

 だって、あんな悲しそうな顔でわたしを見ているんだもの。


 頬から、涙が流れた。

 ああ、今まで感じていた違和感も――

 ずっと前のわたしの姿が他人みたいだったのも――


「わたしではなくて、あなたが『星美ユナ』だったんだから」


 『星美ユナ』さんは、それを聞くと立ち上がり、首を振る。


「ちがうよ、私も、貴女も違うんだから」


 何を言ってるんだろう。分からないよ。


「さて、どこから説明をしましょう」


 寮母さんはわたしたちの顔を見渡すと、ゆっくりと口を開いた。


「『アイドル』についてからですかね」

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