04.◆◆◆どこかで見た景色
金属がかすれる音がした。おばあさんのしわがれた声のようなうめきを連れて部屋に入ってきたのは一人の女の子。
栗色の髪の少女。顔は伏せられていてよく見えないけれど、眉はハの字に寄っていて苦しそうだった。
声をかけようとしても声は出なくて、触れようとしてもわたしの身体はまるで動かない。
ゆれゆらと揺れながら歩く女の子は、わたしのちょうど隣で床に座り込んでしまう。膝を抱えて、ちょうど体育座りみたいになってる。
着ている衣装はピンク色の華やかなドレス。だけど、身にまとう空気はまっ黒でどんより重い。
「――私は、ユナになれる?」
消え入りそうな声が閉じられた部屋の中に響く。
応える人はいなくても、問いに対する答えは誰も持っていない。
「なれるか、分からない。だって、アイドルはいつだって可愛くてカッコよくて……こんな場所で惨めに縮こまっていないから」
うん、わかる。
女の子の肩ははっきりとわかるくらいに震えている。
せめて励ませたらいいのに、その言葉すらわたしには思い浮かばない。
「だけど――」
女の子の身体から震えが消えた。
「なってみたい」
凍えるような気配は消えて、磨き抜かれた剣のように鋭い決意がこもった声だった。
伏せられた顔を上げると、そこには迷いのない瞳があった――
◆◆◆
「ユナさーん! 出番ですよ」
ドアを叩く音とともに、スタッフさんの声が聞こえてきた。
瞬間、急速に意識が鮮明になる。
もしかして、寝ていたのかな? だったら、今までのは夢?
明晰夢って、こういうことを言うのかな。
なんだか、さっきまで実際にあの景色があったような気がしてくる。
「ユナさーん!」
「あ、はーい」
催促する声に返事をする。自分でもビックリするくらいに高い声が出た。
なんだろう、不安はまだあるはずなのに、それが軽くなった気がする。
「なれるかわからない――だけど」
なってみたい。理想の自分になってみたい。
胸の奥に、火がついたような気がした。
「わたしは、『星美ユナ』になれるかな?」
答えは誰も持ってない。だけれどもその言葉に応えたい言葉は、確かにある。
なんだろう。その時、少し前の光景が頭の中に過った。
テレビの中の映像。アイドルのステージ。凪の水面のような世界に、光の波紋を浮かべる少女。誰よりもかわいくて、誰よりもカッコイイ女の子――いや、違う、アイドルだ。
「うんっ!」
両手で頬を叩いて立ち上がる。
右足を前に出す。大丈夫、震えていない。
左足で追いかける。うん、前に進める。
今の自分は、同じことが出来るか分からない。
だって、普段からステージと全然違うと言われるわたしだから。
でも、素敵だと思ったのも確かだ。
あんな風に、素敵な人になれたら素敵だと思うのは、わたしの心なんだよ。
夢の中の女のがわたしの背中を叩く。痛くない。両の頬を叩いた時みたいな痛みはない。
「いま、行きますっ!」
今日、初めて『星美ユナ』の声が出せた気がした。




