12.◇◇◇輝きを一つに◆◆◆
一つ前のわたしが歌っている。
その知らせが届いたのは、秋の終わりごろだった。
もう一度会いたい。だけど、どんな顔をしていいか分からなかった。
あの日――夏の終わりに拒絶された時、わたしは追いかけることが出来なかった。
わたしは、あの人にとってどんな存在なんだろう。
居場所を奪って憎むべき相手なのかもしれない。
だから、怖かった。
一つ前のわたしと再会した後も、何度も、あの人の姿が夢に出てきた。
それが現実だと、寮母さんも言っていた。
夢の中で、何度も見た。
苦労して、失敗して、それでも前を見続ける『星美ユナ』の姿を。ただ一人の少女が、アイドルになるとしたことを。それがあったから、わたしは歩んで来れた。わたしたちはアイドルとして作られたのかもしれない。だけど、アイドルになるために歩いてきたのは、この足なんだから。
もしかたら、見てきた記憶も偽りの物かもしれない。
でも、それでもいいと思ったんだ。たとえ実在しなかったとしても、それが素敵なものだって自分の中でちゃんと思えたものだから。
わたしたちは、最初からアイドルだったんじゃない。
誰が何と言ったって、わたしは――『星美ユナ』はアイドルになったのだから!
それを教えてくれたのは、『ひとつ前の私』だから。
それが嘘じゃない。そう言い聞かせて、ようやく会いに行く決心が出来た。
◆◆◆
月の下で、噴水をバックに歌うあの人は、やっぱり素敵だった。
わたしがあこがれたアイドルそのものの姿だった。
彼女の前に立つだけの決意がわたしにあったのか、分からない。だけど、自然と身体は動いていた。
期待を込めた人々の瞳の合間。まるで一本の道とそれを見守るように咲き誇る花々。
その先に、頭を下げる一人の少女。
「よく似てるよね」
「うん、でもちょっと違う」
「噴水の前の子は、ちょっとお姉さんで」
「もう一人は、ちょっと子供っぽい」
顔を上げた彼女はわたしをじっと見つめてくれる。
だから、真っすぐに歩いて行けた。
きっと、足が震えているのは寒さのせいじゃない。もちろん、もう一度顔をあわせるのが怖いからじゃない。
目の前のアイドルが、素敵で心が震えたからだ。
「素敵でした――」
だから、素直に言葉を伝えた。
「ひとつ前のわたしが居たから、わたしは迷わずにあこがれを追いかけていけた」
それは、胸に宿った憧れに対する言葉。ずっと遠くに灯があったから、どんな闇の中でもわたしは歩いていけた。
「違うよ。私は何もしてない。ひとつ後の私が全部やったこと。星美ユナが居たから、空虚な私に意味が宿ったの」
うるんだ瞳で必死に届けてくれた言葉に、わたしも泣きそうになる。でも、まだ、泣くのは早いよね。
古びた再生機から音が聞こえてくる。
音の聞こえた方向に、わたし達だけじゃなくて、ファンの人たちも一斉に振り返ると、その先には、恰幅の良い女性――まんまるの笑顔をした、寮母さんが手を振っていた。
唇が動く。よく聞こえないし、暗くてよく見えないけど、何をすればいいか分かる。
「歌おう」
「うんっ!」
流れ出た音楽に、よく似た二つの声が重なる。
「私は、もう一度歌いたい! 星美ユナが見せてくれた輝きと一緒に在りたいから」
一つ後のわたしから差し出された手。握り返すと、温かくて勇気が湧いてくる。
「わたしは、わたしの憧れの人と一緒に歌いたい。だから、そう――」
握りあうと、どちらともなく言葉を重ねる。
「輝きを――」
「――一つに」
噴水が噴き出すと、月明かりが飛び散って天蓋の様に広がっていく。
その下で、わたしたちは歌うを歌う。
聞いていますか、世界中の皆さん。
これが――アイドルです。わたしが世界一素敵だと思う人の姿です!




