ピンクの肌
オリジナル版の新しい巻の公開が始まりました。
これからも書き続ける励みになりますので、ぜひこちらの作品とオリジナル版の応援もよろしくお願いします。
午後、火花はエデラルの通りを歩いてギルドへ戻っていた。目立たないようにカエリアンの外套を身に着け、手には苺のケーキの一切れを持ち、少しずつ食べていた。スプーンですくって一口食べると、火花は満面の笑みを浮かべる。
(おいしーーい! これ、今まで食べた中で一番美味しい! さくらんぼのケーキの次だけど、あれはやっぱり超えられないわ)
食べ終えると、脚と腕を伸ばす。
(あの金髪に一人の時間は十分与えたし、もう戻るわ。次にもっと時間が欲しいなら、今度は硬貨一枚以上払ってもらわないと!)
ギルドの近くで、火花は路地へ入る。一跳びで屋根へ上がり、そこから窓のある壁へ跳んでナリスの爪を突き立て、窓へ向かって体を揺らす。
カエリアンの外套を脱ぎ、地面に置く。そのまま自分の寝台へ向かいながら耳を毛づくろいし、尻尾をいっぱいに伸ばす。
(あのフード、耳が潰れるのよね。しばらくすると痛くなるの。痛い……痛い)
寝台の上で数回転がって関節をほぐし、やがて座って周囲を見回す。
(うーん、金髪はどこへ行ったの? それより重要なのは、カエリアンはどこ? 夕飯までには戻ってくるといいけど。あの役立たずの金髪の塩辛い肉は、もう二度と食べたくない。早く戻らないなら、食糧庫にあるものを全部食べてやる、誓うわ! どうせ料理下手なナエヴィアのせいだもの……おえっ)
***
夜になり、気温はかなり下がった。カエリアンは、自分の全裸の体を包み込む奇妙な熱を感じるが、それは外側だけではなく、体の奥深くでも感じていた。
(……えっ?……どこだ?……僕は……どこにいるんだ?……)
耳の中で、規則正しくゆっくりとした呼吸が聞こえ、静かな心臓の鼓動も伴っている。さらに、背中には温かく柔らかな腕があり、自分の脚の上には別の脚が乗っているのを感じる。
(……もしかして……誰か……僕に触っているのか……?)
彼はとてもゆっくりと目を開け、視線を上げる。見えたのは、彼を抱きしめている全裸の女だった。肌はピンクで、体中にタトゥーのような赤い模様がある。短い黒髪に、オレンジ混じりの黄色い目と鋭い瞳孔、頭には小さな角が二本あるが、それは肌の一部のように見えた。
女はじっと彼の目を見つめる。その視界が交わった瞬間、カエリアンの心臓は一気に加速し、ただ一つの考えに至る。
(……こ、こ、これは……アンバリアンだ!!……)
アンバリアンが言う。
「……目覚めて何よりだ……」
彼女はゆっくり顔を近づけるが、カエリアンは思う。
(アレルギーが!!)
寝台の上で、カエリアンはすぐに体を支えて彼女から少し離れる。カエリアンはアレルギーで胸がすでに完全に真っ赤になっていたが、接触の瞬間に意識がなかったため、いつもの痛みは感じていなかった。アンバリアンが言う。
「じっとしてて!」
彼女が口を開けた瞬間、カエリアンは鋭い牙を二本見る。彼は過呼吸になり始め、胸を強く掴む。
(……アンバリアンは……実在したんだ……僕を……僕を犯して、そのまま生きたまま食い殺すつもりだ……)
部屋に、もう一人のアンバリアンが入ってくる。先ほどの者より年上で、赤の宝石があしらわれた黒と金の腕輪と黒いヴェールを身に着け、上半身には同じデザインと谷間の開いたブラジャーのようなものをつけ、下半身には前側だけ脚が見える長いスカートを穿いている。さらに、もっと大きな角を持っていた。
カエリアンは彼女を見るなり思う。
(……殺される……先に一番近くにいるやつを排除する……!!)
彼は右手を、寝台の上で自分と一緒にいるアンバリアンへ伸ばすが、ナリスを動かして球を作ろうとし始めたその時、アンバリアンが身を乗り出し、カエリアンの人差し指を口に入れた。
彼は今起きたことすら処理できない。接触による痛みもない。本当に何も感じない。
(…………)
力が抜け始め、再び寝台へ倒れ込む。だがその間も思う。
(体が……だるい……僕のナリスが……封じられた?)
意識が遠のき始める。視界がぼやけ、最後に見えたのは、近づいてくる二人のアンバリアンだった。
***
朝になると、ナエヴィアは大きな隈を作っていた。彼女は寝台から起き上がり、彼女の寝台にいる火花を揺さぶって目を覚まさせようとする。
「ねえ、ねえ、火花」
彼女はシーツをかぶって答える。
「何よ……金髪」
「もう朝よ、それにカエリアンが戻ってこなかったわ。さ、探しに行くべきよ」
「もう言ったでしょ……あいつは大丈夫」
ナエヴィアは拳を握りしめる。
「少しも気にならないの? ……当然ね、錨に何を期待できるっていうの?」
火花はシーツを引きはがし、眉をひそめて答える。
「そう呼ばないで!!」
ナエヴィアは一歩退く。
「だってそれがあなただもの。きっと彼のことなんて微塵も気にしてないわ、あなたには食べ物以外のことなんて興味ないのよ」
火花は腹を立てて鼻を鳴らし、歯を食いしばると、自分の手にナリスの爪を作って何も考えずナエヴィアに襲いかかる。だが、ナエヴィアは封印を放って彼女の動きを封じ、爪は消える。
一瞬、かつての王女が蘇り、言う。
「お前と争うほど身を落としはしないわ……化物。彼を探すために指一本動かさないつもりなのは明白よ。ただここに居座って、邪魔をしないでいなさい……私はカエリアンほど甘くはないわ」
火花の顔には深い恐怖が浮かぶ。見知らぬ相手に支配されているように感じ、瞳は最大まで収縮していた。ナエヴィアはそれに気づくと封印を解き、床を見る。
「ご、ごめんなさい、あんな言い方して……私が探しに行くわ、あなたはここにいていいから」
ナエヴィアは扉へ向かうが、火花の声を聞いて足を止める。
「わ、分かった……私も……行く」
***
カエリアンは目を開け、ゆっくり身を起こす。もう朝なのに、女はまだ彼と一緒に寝台にいる。二人のアンバリアンが話しているのが見えたが、彼がすでに起きていることには気づいていない。年上の方が言う。
「一日中寝台にいるつもり?」
「ううん、目覚めるまでだけよ」
「好きにすればいいけど、あとで仕事があるのを忘れないで」
年上の方はカエリアンを見て、腰に手を当てて言う。
「その子、もう起きてるわよ」
「ああ、女の子じゃないわ……」
カエリアンは思う。
(……この人たち、誰だ……?)
若い方が続ける。
「顔を見たときは、最初は男装した女の子だと思ったの」
(……短髪ですら女と見間違えられるのは避けられないのか。今度は男装してる女だと思われてる……)
若い方は指先で口を少し覆い、言う。
「服を脱がせて、実はちゃんと男の子だって気づくまではね。ふふっ」
カエリアンの顔は完全に赤くなった。年上の方が言う。
「……本当に大丈夫なの?……私たちの一人みたいに真っ赤だけど」
「……分からないわ。ちょっと見てみる」
若い方がカエリアンの顔へ近づく。彼は後ろへ下がろうとするが、彼女はさらに近寄り、ついには彼の上に乗るような形になった。額を彼の額に当て、それから離れる。
「そうね……熱はなさそう、体温は普通だわ」
若い方は毛布を外し、カエリアンは一瞬、彼女の裸の身体を見てしまうが、すぐに目を覆う。
年上の方はそれに気づき、首をかしげる。
「変ね……本当に男の子で合ってるの?」
若い方は服を着ながら答える。
「自分で確かめたい?」
「……たぶん後でね」
若い方は、ありふれた長いドレスと黒い手袋を身に着ける。さらに耳に一対の耳飾りをつけた。
着終えるとカエリアンの前へ立ち、身をかがめ、脚をそろえ、膝に手を置いて、笑顔で言う。
「小さな封印をかけたから、魔法は使えないわ。お願いだから、私が戻るまで寝台にいてね、いい?」
カエリアンは硬直したまま、かろうじて小さくうなずくだけだった。アンバリアンが背を向け、年上の方へ言う。
「朝食の材料を買ってくるわ。彼が起き上がらないか見ていてくれる?」
「いくつかやることがあるけど……どうにかしてみるわ」
「いいわね」
彼女は部屋を出るが、すぐに立ち止まり、扉から顔をのぞかせる。
「あ、そうだ、私のデザートを食べようなんて考えないでよ!」
「私を誰だと思ってるの!? 全部あなたのよ」
「前回もそう言ったじゃない」
その瞬間、カエリアンは思った。
(カエリアン……イコール……デザート……。食べられる!)
遺産の声が現れる。
(お前、いい味がすると思うか?)
(手助けになってない! ここから出ないと)
二人が部屋を出るとすぐに、カエリアンは寝台から起き上がるが、体に激痛が走る。
(僕の服はどこだ?)
部屋中を探すが服は見つからず、窓の外を覗き込むと、自分が三階にいることに気づく。
(くそ……ここからは飛び降りられない。それに裸で通りを走るわけにもいかない)
数分考えた末、扉から逃げることにした。だが開けた瞬間、テーブルで本を読んでいる年長のアンバリアンが目に入る。彼は反射的に扉を閉めた。
(……僕は終わりだ。逃げ場がない)
カエリアンは一時間ほど床に座り込み、計画の失敗に打ちひしがれていたが、扉が開く音が聞こえると、すぐに寝台へ走ってその下に隠れた。
アンバリアンは寝台が空であることに気づく。
「ねえ!、どこに隠れたの?、出てきなさい」
カエリアンの震えは止まらない。
(あの……何か、僕に付け込むつもりだ……きっと意識を失ってる間にもうやってたんだ……それで、最後は僕を食べるんだ)
カエリアンは足を掴まれ、寝台から強引に引きずり出される。アンバリアンは彼を片手で軽々と持ち上げた。
「ふふっ、見ーつけた。どうして隠れるの?」
「ああああ、僕を降ろして!!」
「ああ、そうね、ごめんなさい」
ゆっくりと彼を寝台の上に置くと、カエリアンはシーツを頭から被って完全に体を覆い、彼女からできるだけ遠ざかった。
「食べないで!!、ぼ、僕はすごく小さくて痩せている。肉なんて全然ないんだ」
「ええっ!!?、食べないわよ」
彼はシーツからひょっこりと顔を出す。
「……違うの?」
そこへ年上の女が入り、尋ねる。
「何をそんなに騒いでいるの?」
若い方が答える。
「ふ、ふふ……実はこの男の子、私たちが彼を食べると思ったみたいなの」
カエリアンが口を開く。
「で、でも、あなたのデザートを食べないように彼女に言ったじゃないか」
「ああ、それね」
彼女は寝台の横の引き出しを開け、布のナプキンに包まれた何かを取り出す。
「……ベリーの小さなケーキよ。母がいつも私の許可なしに勝手に食べてしまうから隠しているの」
年上の方が言い返す。
「出しっぱなしにしてるあなたが悪いのよ。仕方ないじゃない。それに、あなたがいい娘で母親にデザートを買ってあげれば、私があなたのを食べなくて済むのに」
若い方はケーキを一口かじり、口元と歯が赤く染まった。それからカエリアンに一口勧める。
「食べる?」
「……いや、結構だ」
カエリアンは尋ねる。その顔には困惑の色が見える。
「あなたたち二人は……親子なの?」
若い方が答える。
「そうよ! 見て分からない?」
(正直言って、母親の方は姉に見える)
「じゃあ……僕につけ込んだわけじゃないのか?」
若い方は手を振って否定し、目を閉じる。
「ああ、違うわ。アンバーにかけて、もちろん違う。あなたにつけ込んだりしないわ」
彼女は声のトーンを変え、目を細めながら言う。
「……あなたが望まない限りはね」
カエリアンは再び赤面して身を引き、年上の方が若い方に肘打ちを食らわせる。
「彼をからかうのはもうやめなさい」
「ふふ、赤くなるとすごく可愛いんだもの」
カエリアンは尋ねる。
「じゃあ……どうして僕たちは同じ寝台で、裸で抱き合って寝ていたんだ?」
若い方は首を傾げ、人差し指を立てる。
「路地で死にかけていたあなたを見つけたから、治すためにここへ連れて来たの。とても青白くて冷たくて、沢山の血を失っていたわ。私の熱を分けるためにそうしなければならなかったの。そうしなければ、あなたは死んでいたわ」
「えっ? でも、ひどい怪我なんてしていないのに」
「外側にはないけど、内側にあるわ。あなたの内臓が損傷していたの。まあ、今もダメージは残っているけど。出血を止めるために治癒魔法を使ったわ。でも、まだじっとしていた方がいいわね」
(僕の内臓が?……ああ、あのコウモリの音波攻撃は僕が思っていたよりも深刻だったんだな)
「僕……ご迷惑をかけてすみません。助けてくれてありがとうございます」
「いいのよ。誤解させて悪かったわね。とても怖かったでしょう?」
「……」
カエリアンは視線を落とす。
(まるで子供みたいに話しかけてくる……)
(まだ純潔が守られてるって分かって、嬉しくないのか?)
(何が起きてたか、分かってたの?)
(ああ、ただどう反応するか見たかっただけよ)
若い方は笑顔で言う。
「私はルビー(Ruby)。そして彼女は私の母、カサンドラ(Casandra)よ。あなたの名前は?」
「カエリアン……」
「とても素敵な名前ね、カエリアン」
「……ねえ……僕の服を返してくれないか?、寒くなってきたんだ」
ルビーはドレスの肩紐を少し下ろしながら、彼に身を寄せる。
「寒いの?もう一度温めてあげようか?」
「いや!!」
***
しばらくして、ルビーがカエリアンの服を持って部屋に入ってくる。最近の損傷のせいでいくつか継ぎ当てはあるが、彼女はそれを寝台の上でシーツにくるまったカエリアンに渡す。彼はそれを受け取り、言う。
「君が……直してくれたのか?」
「ええ、ひどく傷んでいたし、私は縫い物が得意だから、直そうと思って」
「ありがとう……」
「どういたしまして」
ルビーは微笑み、寝台の前に立ったままでいる。数秒後、カエリアンが言う。
「……出て……いかないのか?」
「え? 何のために?」
「……服を着なくちゃいけないんだ」
彼女は首を傾け、両手を後ろに回す。まるでその頼みが奇妙であるかのように。
「でも、私がまだ見ていないものなんてあなたには何もないわ。それに、あなたも私の裸を見たじゃない、何が問題なの?」
彼は思う。
(この女には恥じらいがない!)
「気まずいんだ……少なくとも、後ろを向いてくれないか?」
彼女は小さくため息をつき、微笑みながら後ろを向く。
「分かった、分かった。あなたって少し変わってるわね」
ズボンを穿きながら、彼は片眉を上げて答える。
「僕が?」
彼女は待ちながら、きょろきょろと視線を動かし、前後に何度も体を揺らしたり、腰に手を当てたりしている。
「あのね、手伝ってあげる」
彼女は振り返り、彼がシャツを着ているのを見る。
「いやいやいや!」
シャツを下ろすのを手伝おうと彼女が彼の腕に触れた途端、肌と肌の接触が生じた。快適に縫い物をするために、彼女が手袋を外していたからだ。カエリアンは瞬時に接触の痛みで叫び声を上げ、アレルギーの痕が現れた。
ルビーはすぐに謝り、カエリアンは彼女に身体接触アレルギーのことを説明した。




