表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/46

(2)

「魔理沙もアリスも、なにも言ってくれない……」

 悩みを抱えているくせに。一人で解決できないくせに。

 二人は、心の扉に鍵をかけ、その中に閉じ籠って、もがき苦しんでいる。

 魔理沙も、アリスも、自分では解決できないなにかを背負い、それを隠してしまっている。

 まるで、雪を覆いかぶせたように。

「それが普通だと思うわよ。霊夢ちゃんができすぎなのよ」

「そ、そんなことは……」

 照れて、視線を逸らす霊夢。

 結子は、ふふっと笑みをこぼした。

「さっきも話したけれど、霊夢ちゃんは、答えに辿り着くために、一番良い道を選ぼうとするでしょう? だから、自分で解決できないと判断できるし、こうして相談にやって来ることができる」

 的確に霊夢の人物評をする結子。

 霊夢は、最近、身の回りで起きているいろいろな事象で思い悩み、もう一人で抱えるのは無理だと判断して、結子のところにやって来た。

 洋壱と出くわすかもしれないという時間帯だったが、そんなことには構わない。

 最善の答えを導き出すためなら、恥とか、こだわりとかに囚われない。

 それは、霊夢の強みだった。

「でもね、霊夢ちゃん。それができない人もいるのよ。大人になっても。うちの人だってね……」

「おぅい。聞こえているぞー」

 結子が愉快そうに霊夢に耳打ちをしようとすると、居間から洋壱の声が飛んできた。

「あらあら。女同士の内緒話を盗み聞きするなんて。そんな趣味の悪い人と結婚したつもりは無いわよ」

「こんな小さい家じゃあ、嫌でも聞こえてしまうよ。そういう話は、本人がいないところでやりなさいよ」

 と洋壱は結子を咎めたが、

「じゃあ、頑張って家を大きくしてね? そうすれば、聞きたくない話を聞かずにすむわよ」

 結子は、すました顔で受け流した。

「やめなさいよ。霊夢ちゃんに、俺が甲斐性無しみたいに思われてしまうじゃないか」

「そんなこと、思ってませんよ」

 霊夢は、夫婦のやりとりに、忍び笑いをしながら居間の方へと声をかけた。

 この夫婦、べったりとくっついて依存し合うでも無く、距離が離れすぎるでも無く、仲も良すぎず悪すぎず。という、ほど良い関係を保っている。

 霊夢は、そんな二人がうらやましいと思った。

 魔理沙やアリスとも、こういう距離感で接することができたなら……。

 いまにしてみればだが、霊夢は、魔理沙に対してもアリスに対しても、そんな理想を抱きながらつき合っていたように思える。

「霊夢ちゃん。あれを見て」

「井戸端会議。ですね」

 結子が指をさした先、土間の格子窓から覗くことができる長屋の外では、ご近所の主婦たちが、寒空の下で立ち話に興じていた。

「ああして、大きな声で笑いながら話していて、とても仲が良さそうに見えるけど、離れるときは、あっという間」

「あっという間、ですか」

「そう。びっくりするほど簡単に離れてしまうのよ。だからね、霊夢ちゃん」

「はい」

 霊夢は、返事をしながら結子を見上げた。

 結子は、女性としては一般的な身長だが、それでも霊夢よりは背が高かった。

 結子を見上げていると、霊夢の心は落ち着いた。

 上手くは言い表せないけれど、こうして、結子を見上げているわたしのことが、好ましいと感じるのだ。

「好ましいと感じる人と仲良くなりたいと思ったら、友人になることよ」

「友人……?」

 知っているような、知らないような、そんな単語が飛び出してきたので、霊夢は首をかしげた。

「友人は、なにがあっても離れないわ。同性同士の安心感からか、距離が近くなりすぎて、うっとうしいと感じてしまうときもあるけれど、なぜか離れないのよ」

「それは、どうやったら……」

 霊夢は言葉を止めた。

 魔理沙と、アリスと、どうやったら友人という縁で結ばれるのか。

 そのための鍵は、結子に聞いたところで見つからない。自力で探さないといけないのだ。

(本当に、頭の良い子……)

 結子は目を細めた。

 さっきまでの会話から自分で学習して、正解へ辿り着くための道筋をつけたのだ。

 経験し、学び、吸収して自分のものにする。それも、異常なスピードで。それは霊夢の高い能力が成せる業だろう。

 だから結子は、霊夢のことを尊敬している。そして、心配もしている。

「それじゃあ、私はそろそろ帰ります。お忙しいところにお邪魔してしまって、すみませんでした」

 霊夢は、行儀良く、夕食作りのかき入れどきに訪ねて来たことを詫びながら、神社に帰ろうとした。

 冬の夕暮れは早い。

 陽はすでに沈みかけて、夜のとばりの足音が聞こえてきそうだった。

「あら? 食べていくでしょう?」

「えっ!?」

「だって、霊夢のちゃんのぶんも、計算に入れて作ってしまったもの」

 切っていて気がつかなかったのと、結子に指摘されたが、お恥ずかしながら、まーったく気にしなかった。

 とある目的を達成しようとすると、そのことだけに頭を働かせ、他のことが目に入らなくなる。

 それも、霊夢の強み。

 でも、霊夢のこういう性格が、結子に心配をかけてしまうのである。

 そのことに、霊夢本人が気づいていないのが、また難儀なところ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ