十七 神魔合議
【今回の陛下の行動は、随分と奇妙だ】
陽光を体現する闊歩神ヴィシュヌは、天空に在る司法神ヴァルナに向かって顔をしかめて見せた。雷霆神インドラはさっさと退却させられ、悪魔ラクシャス達は散々に迎撃され、魔蛇ヴルトゥラに至っては退治されてしまった。魔王シャイタンが祭官の化身となって魔王討伐軍に交じることは常だが、こうまで神魔達に敵対した行動を取ることは初めてだ。
【陛下の御命令で人間どもを攻撃しているのに、もし退治されでもしたら、笑うしかないぞ?】
【その時は本当に笑って退治されればいい】
司法神ヴァルナは玲瓏な面に冷ややかな表情を浮かべ、にこりともせず返してきた。
【それはさすがに阿呆だろう】
ヴィシュヌは四本ある腕の内、二本を腕組みし、残った二本の腕を掲げて、肩を竦める。
【陛下がそうなさる意図は何なのか、おまえなら知っているんじゃないのか?】
【さて。それはわたしにも分からん】
司法神はにべもなく答え、眼下の大地を見晴るかした。魔蛇に殺された魔王の化身は、蘇生を遂げて、依然、遠征軍と行動をともにしている。
【ただ、陛下の化身を攻撃してはならんという掟はない。退治されるのが嫌なら、予め、インドラやルドラ、アグニやヴァーユなどの主立った神魔達を、味方につけてあの遠征軍を迎え討ったらどうだ?】
【どれだけ味方に付けようと、陛下に命じられれば、皆、従わざるを得ないだろう? おれ達は、天則にそう誓約している】
顔をしかめたヴィシュヌに、ヴァルナは薄く笑んだ。
【命じられなければよいだけだ。事実、ヴルトゥラは、かの化身を殺した。陛下に、命じる隙を与えぬこと、或いは、命じられた者以外の者達が、一斉に陛下を襲うことだ。不可能ではあるまい?】
【確かに……。しかし、後のお叱りが怖いぞ】
【陛下は、そのように器の小さな方ではない。これまでにも、そのようなことでお叱りを受けた者はおらん】
ヴァルナに断言されて、ヴィシュヌは考えた。それはそれで面白そうだ。そもそも、ヴルトゥラのように退治などされたくはない。
【成るほど……】
声を掛けて賛同しそうな第一の神魔は、ルドラだろう。あれはそういう性格だ。そしてルドラが賛同すれば、いつもルドラと張り合っているインドラも、賛同してくる可能性が高い。
【一度、試してみるか……】
ヴィシュヌは世界を三歩で渡れる力を以て、ルドラの許へ赴いた。
【うまく焚き付けたことね】
姿を表した伴侶、契約神ミトラの囁きに、ヴァルナは目を眇めた。
【陛下のお考えを明らかにするためには、必要なことだ】
【われらは天則の守護者】
ミトラはヴァルナそっくりの玲瓏たる面に毅然とした表情を浮かべて言う。
【魔王陛下に従うも、天則への誓約があればこそ。魔王陛下が天則への誓約を果たさぬのなら、われらが陛下を討つまでです】
【それが問題だ】
ヴァルナは指摘した。
【陛下が天則になさった誓約とは何なのか、司法神と契約神たるわれらすら、知らんのだ……】




