十八 既視感景
砂漠の王国レギスタンの王都で、魔蛇による干魃から解放された感謝の礼遇を受けた遠征軍一行は、北方の氷河にある魔王城目指して、一路、高地の王国ウッチャブーミへ向かった。
道中、河川神ナディーに洪水を起こされて行く手を阻まれたり、言語神ヴァーチュに謎々を出されたりしたが、どちらもナヤクが中心となり、チャッタンや他の兵達と協力して切り抜けてしまった。
(神魔達の攻勢が弱いのもあるが、統率力も知恵も、並外れている――)
差し向けたナディーもヴァーチュも退けられてしまったシャイタンは、ナヤクの力に、目を瞠らざるを得なかった。太陽神スーリヤの血を引くと誤解されたことも頷けてしまう能力の高さだ。
(適材適所を見抜く力、敵の弱点を見抜く力、信頼感を得て指示を通す力、いずれも素晴らしい)
河川神ナディーが大河を溢れさせた際には、ナヤクは高地に慣れたパタール兵の精鋭を率いて上流の崖を崩し、一時的に河川の流れを堰止めて、味方を渡らせた。ヴァーチュが先遣隊の司令官スィパヒに謎解きの問題を出し、それが解けぬ限りは互いに言葉が通じぬようにすると宣言された際には、ナヤクはチャッタンを頼った。言葉を操る達人たる詩人でもあるチャッタンは、ヴァーチュの出題した謎にすらすらと答えることができた。即ち「十二幅を有する天則の車輪は、天の周囲を絶えず回転す、そは老朽に陥ることなければ。子らは、対を為してその上に立てり、その数七百二十」という謎には「十二ヶ月、七百二十昼夜から成る一年」と答え、「人はそを雷霆神インドラ、契約神ミトラ、司法神ヴァルナ、火神アグニと呼ぶ。されど、そは翼美しき天的鷲なり。霊感ある詩人達は、唯一なるものをさまざまに名づく」という謎には「天則」と答えた。知的な少女の姿をしたヴァーチュは、満足げな笑みを浮かべて去っていった。
(ナヤクを中心に、軍が――人間がまとまっていく――)
シャイタンは、天則への誓約――自らの設定に基づき、人間の成長の可能性がある限りは、その観察を終えられない。そのまま遠征軍を離れられずにウッチャブーミ王国へと入り、そして、既視感ある光景を見ることとなった。
(何だ、一体、こやつら……)
待ち受けていたのは、陽光を体現する闊歩神ヴィシュヌだけではなかった。雷霆神インドラも、暴風雨神ルドラも、風神ヴァーユも、太陽神スーリヤも、ずっと付いてきていた火神アグニさえ、敵となって一斉に襲い掛かってきた。兵達は雷に撃たれ、風に吹き飛ばされ、光と熱に焼かれた。
(何だ、これは……)
それは、いつかどこかで見たような眺めだった。太陽が増えたかのように、無数の火球が浮かんだ中天。全てを吹き飛ばす暴風。蒸発する人間。黒炭と化す人間。焼け爛れていく人間――。
(――知っている。予は、この光景を知っている――)
知っている。人間が、人間を殺した。あまりにも多くの人間を殺した。人間だけでなく、地上に生きている全てを滅亡させた。知っている。自分は、知っている。人間は、救い難い存在だと。人間は、生きるに値しない存在だと。
(ゆえに、予は、魔王なのだ――)
久し振りに自分の根本を思い出して、シャイタンは悲しく笑い、手にした金杖を掲げた。




