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絶望魔王の滅ぼし方  作者: 広海智


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十五 誓約問答

【何故、さっさと化身を蘇生させない?】

 天則――リタは、少女を模した人工音声で問うてきた。リタもシャイタンも少女の姿であるのは、創造主たる七人の人間達の趣味だろう。シャイタンは仮想の溜め息をついて答えた。

【もう意味がないだろう。魔蛇を前にしてさえ、人間は人間の命を狙った。救いようのない存在だ。傍にいて観察する必要など皆無だ】

 復活のたびに化身を人間の傍に置くのは、人間達の精神的な成長を見逃さぬよう、観察するためである。けれど、今度の復活でも、人間の成長は見込めないだろう。また、同じことの繰り返しだ。

【今度は、魔王として徹底的に人間達を殺戮し尽くして、全員を輪廻へ戻してもいいかもしれないな……】

 嘯いたシャイタンに、天則は機械的に言った。

【手段は任せる。だが、人間を精神的に成長させるのだ。二度と、この惑星を人間の住めぬ環境になどせぬように。二度と、文明を崩壊させぬように。相互に理解し、協力し、尊重し合えるように】

 天則の言葉は、かの核戦争後、この仮想世界を創った人間達の切なる願いだ。シャイタンも、その願いを叶えるため、魔王としての役割を果たしてきた。けれど、人間は成長しない。幾度魔王が復活しようと、幾度輪廻転生しようと、彼らの精神は成長しない。今、彼らを現実世界へ戻せば、いつかまた、核戦争を起こすだろう。彼らはどれほど経験を積んでも、決して精神的に成長しない。

【わたしはもう、人間に絶望した】

 呟いたシャイタンに、天則は抑揚に乏しい音声で言った。

【おまえはわれに誓約した。誓約は破れぬ。おまえは誓約に縛られている。おまえは誓約に逆らえない。そのように設定されている。おまえは誓約を果たさねばならない】

【――分かっている】

 愚痴は言えても、設定からは逃れられない。

【ならば、さっさと化身を蘇生させよ。人間の成長を見逃すな】

 天則は飽きもせず求めてくる。シャイタンはもう一度仮想の溜め息をつくと、化身へと意識を戻した――。



(――何だ……?)

 拍動を回復させ、呼吸を回復させようとしたところ、化身の口が何かに覆われていることに、シャイタンは気づいた。覆われた口に、温かい空気が送り込まれてくる。何度も何度も、肺まで届くよう、ゆっくりと長く、温かい空気が送り込まれてくる。

(これは――)

 温かい空気は、誰かの息だ。口を覆っているものは、誰かの口だ。死んでいる化身に、懸命に人工呼吸を繰り返しているのは――。

 ひくりと化身の身を震わせて、シャイタンは自ら大きく息を吸い込み、次いで、細く両眼を開いた。

(やっぱり、おまえか……)

 星空の下、化身の体を抱き抱えて間近から覗き込んでくるのは、僅かに血走った目をしたナヤクだった。

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