十四 聖仙横死
ナヤクを、パタール兵からは守ると約束した。シャイタンは即座に金杖を振り、風神に命じた。
「ヴァーユ、突風以て、かの兵を止めよ!」
【承った!】
風神は快活に応じて、砂塵を波のように巻き上げる強烈な突風を、件の兵にぶつける。槍を構えて今にもナヤクを背中から突こうとしていた兵は、一溜まりもなく吹き飛ばされ、半ば砂塵に埋もれて大地に横たわった。ナヤクも煽りを食らって砂漠に伏せたが、大丈夫そうだ。安堵したシャイタンの目の端に、唐突に迫ってくるものが映った。振り向いたシャイタンの視界を、鱗に覆われた巨体が占める。
(ヴルトゥラ――)
目の見えない魔蛇が苦し紛れに振るった尾に弾き飛ばされて、小柄な体と金杖が宙を舞った。
「アアシャ!」
起き上がりながら魔蛇の動きを目で追ったナヤクは、絶叫して走った。砂塵とともに空中へ跳ね上げられた少女の体は、砂塵に先んじて大地へ落下する。地面に激突した小柄な体は、衝撃のあまり少し跳ね、巻き上げた砂埃の中、大地へ沈んだ。その上へ、遅れて落下した砂塵が降り注いでいく。
「アアシャ! アアシャ!」
ナヤクは砂に足を取られながら、懸命に進んで少女へ辿り着いた。降り注いだ砂を掻き遣って、小柄な体を抱き起こす。口から血を流す少女は虫の息で、うっすらと開いた両眼でナヤクを見上げた。
「盾に……できなか……」
微苦笑した少女の口から、更にごふりと血が溢れる。内臓をやられたのだろう。血が喉を塞いでしまわぬよう、ナヤクは素早く少女の右肩を下にして、仰向けから横向けへと、小柄な体を抱え直した。半開きの口から吐き出される鮮血は、ナヤクの膝に滴って黒い腰布をぐっしょりと濡らしていく。出血と同時に、少女の黒い双眸から徐々に光が失われていった。
「アアシャ! すぐにチャッタンが来るから、アアシャ!」
励まし、揺するナヤクの腕の中で、少女は息をしなくなり、虚な両眼を砂漠へ向けたまま、しんとして動かなくなった。
(インドラの雷に撃たれた時にも、一度呼吸が止まったけれど回復した)
ナヤクは自らに言い聞かせる。
(アアシャは半神半人の祭官一族の出身で、伝説の聖仙だから、大丈夫だ……)
小柄な体をそっと抱き締め、ナヤクは少女が再び動き出すのを待った。しかし、雷の時にはすぐに再開した呼吸が、いつまで経っても戻らない。
「アアシャ、アアシャ」
呼んでも揺すっても、砂と血に汚れた顔をさすっても、少女祭官は、ぴくりとも動かない。ナヤクの腕にぐったりと預けられた体は、少しずつ冷たくなっていくような気さえする。
「アアシャ、死んだらいけない。アアシャ、まだ死んだらいけない。こんな死に方は許さない、アアシャ、頼む、蘇れ!」
ナヤクは少女の耳元へ口を寄せ、必死に言い聞かせた。




