悪役令嬢エイダのメイドと静かな誓い 6
温かな5月の日差しが燦々と降り注ぐ、王宮のバルコニーには、可愛らしい茶会の場が設けられ、着飾った貴族の子供達が小さなテーブルを囲んでぎゅうぎゅうになって座っていた。このように、小さなテーブルをみんなで囲うのが王国式のお茶会である。可愛い子供達がすし詰めになっているのはやはり可愛い。神様の人形遊びを見ているようで、思わず顔がほころぶ。
ちなみに、私達使用人は10歩も引いたところで列になってその様子を見守っている。ちょっとした授業参観みたいだ。
「諸君、今日は私の招待に応じてくれてありがとう。初めての王宮に緊張している者もいるかもしれないが、どうか気楽に、親睦会だと思って楽しんで欲しい」
茶会の主催のお役目をきっちり果たして音頭を取るのは、レイレガの登場人物にしてメインの攻略対象、ウォーレン第一王子殿下その人だ。黄金のサラサラの髪、アホほど長いまつ毛、優しく爽やかな顔立ち、ゲームの立ち絵よりかなり幼いが、間違いなく王子その人だと確信できる。
偉いなぁ殿下は、まだほんの子供なのに。作中で主人公の前に初めて現れるウォーレンは、優しく強く人望も厚い、まさに理想の王子様といった具合で、正直つまらない。だが、ウォーレンとの絆を深めていくと、『自分は人と話したり、取りまとめたりするのが本当に苦手で、王族には全く向いてないんだ』という苦悩を主人公に打ち明けてくれる。苦手なことから逃げずに王族の責務に立ち向かう、弱いが強いキャラクターなのだ。お茶会の主催なんて、ウォーレンにしてみれば針の筵だろう。
そして、その王子の隣で顔を赤らめて、ベタベタと張り付いているのが、私のご主人様であるエイダだ。はぁ。普段のクールな狂人キャラはどうした。みっともない。だがまぁ、こうなるだろうなとは思っていた。エイダは乙女ゲームの悪役令嬢、主人公の恋敵になることも多々ある恋愛体質キャラなのだ。その圧倒的な美貌と、卑怯な策略で、攻略対象達を弄ぶ魔性の女なのだ。そんな女が王国の第一王子なんて良物件を見逃すはずがない。全力でオトしにかかるに決まっている。
そんなエイダから時計回りに2つ飛ばした席で、赤くなって小さくなっている地味な令嬢、この子が多分レオナ様だ。覚醒前だがすでにメロ女の風格がある。そしてそこからさらに1つ飛ばした、王子の丁度向かいの席に座っている黒髪の美しい少女。彼女こそは、後に主人公の友人となる名門貴族令嬢、クロエ・レティシア・リュシェール様、私は愛をこめて『クロエたそ』と呼ぶことがある。
言葉を交わしたわけではないがはっきりと分かる。彼らは間違いなくレイレガの登場人物達だ。だから今なら確信を持って言える、この世界は乙女ゲーム『黎明のレガリア』の世界に違いない、と。
それはつまり、いずれ私は最推しのあの子に会えるということを意味しているし、エイダがいずれ私の推しをいじめるということを意味している。エイダめ……!
そのにっくきエイダはと言えば、茶会が始まったのにも関わらず、相変わらず王子にベタベタと張り付いて、クネクネと気色の悪いアプローチを繰り返していた。
「殿下、あーん♡」
「こ、困ります、エイダ様」
自分の主人の醜態を見るのは本当にキ……キッ……キツ……くない!? なんだこいつ! あざと可愛い!? なんならエロい!? これが10歳の色気か!? あぁ、ここが異世界でよかった……現代日本だったら絶対インターネットで燃えてる。何かそういう、精神操作系の魔法でも使っているのだろうか、赤いドレスを身にまとったエイダの、ビジュの破壊力によるゴリ押しという滅茶苦茶なアプローチは、外野から見ていてもドキドキするほどに強烈だった。あれを一身に受けている王子は発狂したりしないのだろうか。不安だ。
しかし、エイダが王子を独り占めしているせいで、他の子供達は露骨に困っていた。主催である王子その人に『気楽に楽しんで欲しい』と言われてはいるものの、ここはれっきとした貴族の社交場。位の一番高い王子を中心に、皆で楽しく話題を回すべきなのだ。王子とエイダをほったらかしにして他の皆でしゃべるなんて無礼は許されない。
ゲームではこの後どうなるんだったか……正直、レイレガのシナリオはクソすぎてほとんど覚えていないのだ。だが、この状況を打開できる人がいるとしたら、クロエだけだろう。これは単純に家格の問題だ、この場で一番偉いのは王族である王子、次に偉いのは四大名門のエイダだ。奴を止められるとしたら、同じ四大名門のクロエしかいない。
作中でも屈指の頭脳派キャラとして、その知性で主人公らを支えて来たクロエのことだ、きっと何か、思わず唸るような策略でこの場を打開するに違いない。頼んだぞクロエたそ!!
……しかし私のそんな期待とは裏腹に、クロエはにこにこと紅茶を味わうばかりだった。




