悪役令嬢エイダのメイドと静かな誓い 5
レイレガ世界の貴族達はまだ小さい子供の頃から、子供同士で茶会を開いて社交界で立ち回る練習をする。エイダがしょっちゅう茶会を開いて、他の貴族の子供達に説教という名のいじめをして回っているのも、そういった背景があってのことだ。
しかし、ひとえに貴族と言っても格の違いがあるように、茶会にもまた格の違いがある。エイダが普段やっているのはお気楽な、『おちゃかい』だ。女子小学生が友達の家に集まってままごとをしているのと大差ない。
「……お嬢様、メイドの私が不必要に着飾るのは、角が立つのではないでしょうか」
主人のくせにメイドの私の髪を櫛で解いているエイダに、私は問いかけた。
「そうね。でもこれは必要な着飾りよ。花の周りをハエがウロチョロするのと、蝶がウロチョロするのとでは花の印象が全然違うでしょう。今のあんたはハエよ。花である私の格を落としたいワケ?」
ええそれはもちろんと言ってやりたいところだったが、そういうわけにもいかない事情があった。今日エイダがお呼ばれしたお茶会の主催者は、現在の王家の長男。つまり、この国の第一王子その人なのだ。お茶会の格式としてはまさに最上級だ。あまりに最上級なので、遠い北のクロフォード領を離れ、昨日から王都のクロフォード家別邸でスタンバっているくらいには気合いが入っている。
そして、このお茶会にはエイダをはじめとした名門貴族の子供達が多数招待されている。その子供達の中には、私の記憶が正しければ、エイダ以外のゲームの登場人物達も居る……はずだ。
もしここが本当にレイレガの世界であれば、登場人物達に出会えるほか、ゲーム本編でエイダの激ヤバエピソードとして度々回想される事件が、この茶会で起きるはずである。詳細は覚えていないが、何かエイダが暴走して恥かく話だった気がする。
しかし、ここがレイレガの世界ではないのなら、攻略対象達には出会えず、私の主人であるエイダが、私の知っているエイダとは別人である可能性も出てくる。もしそうであれば、私と二人きりのときのエイダの奇妙な行動に説明がつく……かもしれない。
この茶会は、この世界が本当にレイレガの世界なのか確かめられる重要な機会なのだ。
私の曖昧な記憶によれば、この茶会に現れるエイダ以外の登場人物は3名。まずは、茶会の主催者であり、王国の第一王子であり、ゲームのメインの攻略対象であるウォーレン第一王子殿下。そして、エイダと同じ『王国貴族四大名門』の一つであるリュシェール公爵家の令嬢にして、主人公の良き友人になるクロエ。最後に、後にウルフカットが似合う王子様系イケメン女に成長するレオナ(レオナは女性だが友人枠ではなく攻略対象枠である)。幼少期のレオナ様はまだ覚醒しておらず、地味でかわちい小動物のはずなので、その姿が拝めるのはとても嬉しい。
……とにかく! 無事に登場人物達の姿を拝むため、エイダの機嫌を損ねないようにしなければならないのだ。殴られて、顔が腫れて茶会に同行できないなんてことは、絶対に避けなければならないのだ。
「まぁ見た目については、このくらい小奇麗にすれば及第点でしょう。それよりも肝心なのは教養の方よ。誰かの何かの気まぐれでメイドであるあんたに話が振られる可能性は、僅かだけど存在するわ」
そんな悪質なキラーパスを投げてくるのはあんただけだ。と言いたくなったが、私は言葉を飲み込んだ。
エイダは過去に私に解かせた、オリジナル試験問題の解答を持って来た。このエイダとかいう小娘は、メイドである私に教養を叩き込むために、時折こうしてオリジナル試験を作って解かせてくるのだ。間違えると間違えた分だけ殴られるのが最悪である。
エイダは私が過去に間違えた問題を読み上げ始めた。私はエイダの顔色を伺いながら恐る恐る問題に答えた。
歴史、地理、芸術、政治、軍略、魔法の理論、マナー、その他諸々。出題範囲は完全にエイダの気まぐれだ。
「問5. 王国の主要な茶葉の産地、生産量が多い順に5つ答えよ」
「カッシーマ、サイヒル、アイズ、ミャズキ、ウディ」
「ではこの中で、よく貴族の間で好んで飲まれるのは」
「ウディ地方の茶葉です」
「私の好みは?」
「サイヒル地方のものです」
「よろしい。まぁこれだけできれば十分でしょう」
試験がようやく終わって、私は胸をなでおろした。突然変化球の問題を出してくるあたりが本当にキモい。心臓に悪い。
「あぁそうだ」
エイダがまた口を開いたので、私はまだ何かあるのかと身構えた。
「王宮で普段出される茶葉は、王都近郊の王宮直轄農園で育てられている特注の茶葉よ、味は各地方のものに似たものを一通り揃えてあるわ。王族の口に入るものだから、安全上の配慮って奴ね。王宮の茶会に参加するのだから、一応覚えておきなさい」
「……なるほど、覚えておきます」
エイダのそのセリフを、私はどこかで聞いたことがある気がしたが、どうしても思い出すことが出来なかった。




