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4.貝柱

 貝柱と言うと、貝を食べる時には外せない、とても美味しい部分だと思う。


 ホタテの貝柱なんてのは、特に美味しい。干した貝柱をいつまでも口の中に入れておいてもいいし、焼きたての繊維がほぐれていく感じもいい。


 ただ、アサリの貝柱は食べるのが難しい。身を食べると、ちょっと残ったりする。それを食べようと歯を立てると、なんだか間抜けな姿を見せているような気がするし、箸で取るには少々大変。


「そこら辺、どう思う?」


 私は思い切って、貝のモンスターに訊いてみた。


 波打ち際を漂っていたそれは、フリスビーほどの大きさをしている。お盆のように持っている私に向けて、まるで口を開くかのようにパクパクと開いては閉じて、を繰り返す。


 貝のくせしてよく開く口だこと……いや、待てよ? 意味はまったく判らないけれど、こいつ、モールス信号を送っているなっ!?


 人型ではないモンスターが喋られるようになることは、滅多にない。それでも、意思疎通はできるのだ。しかし、この個体はどこでこのような技術を身に着けたのか。


 私は、モールス信号を身に着けてこいつとの会話に挑むことにしたのだった――。


「ま、そんな面倒なことはしないけどね」


 軽くモノローグ詐欺をして、手に持った貝をポイッと海へ放る。


 何気なく砂浜の散歩へやってきたのだけど、潮風がとても心地よい。

 今の季節は何だったか。キヨシの制服を思い出してみる。確か……半袖になっていた、かな? でもそこまで暑くはないから、初夏ではない。初秋かな?


「おーい、何を黄昏れているんだ少女っ!」


 そんな私に声をかけたのは、グレーンとモルトだった。


「海水浴でもするの? あんまり暴れると、真珠の精製に悪影響だ、って怒られるよ?」

「そう言うってことは、モルトは怒られたんだ」

「ううん。怒られたのはグレーン」

「暴れたのはモルトでしょー」


 どうやらキヨシは、二人を見分けることが出来ていないらしい。


「二人はそっくりだもんね」

「そう。なかなか見分けられなくてね。ショコラは判る?」


 二人はぐるぐると不規則に動いて場所を変えている。


「さぁ、どっちっ!」

「いま喋ったのはグレーン」

「……あれ、正解だ」


 軽く笑って、ネタバラシ。

 背後に回ると、背中に貼り付けてあった妖力によって作り出したテープを剥がす。


「私、イカサマってなかなかバレないんだよね」

「ちぇー。ズルいなぁ」


 拗ねる二人に手を合わせて謝りながら、私たちはのんびりと砂浜を歩いた。


「ここって食べ物は住んでるの?」

「なかなかすごい表現」


 モンスターは食用ではないしね。と笑えば、もともと食事は必要としないと二人は笑う。

 アンドロイドと言うモンスターは、日光を数秒でも浴びれば何年も活動できる燃費の良さが自慢なのだ。


「でも、大抵は貝たちが食べちゃうんだよねぇ。魚を捕りたかったら、もう少し沖に行かないと」


 モルトは釣り竿を引くジェスチャーを見せる。


「結構大きいのが釣れる」

「モルトが竿を担当して、グレーンは網を担当するの」

「最後は息を合わせて持ち上げるっ!」


 一人称が自身の名前だから、二人の会話は少しややこしくなりがちだ。


「ショコラは魚、好き?」

「好きだよ、モルト」

「グレーンです」


 イカサマしないとさっぱり判らん。


「てことは、二人は船の運転ができるの?」


 敷地の端にあった桟橋に船が係留されてきたから、誰かしら運転はできるのだろうけど。


「出来るけど、今日みたいな日は無理だね。ね、モルト」

「だねー。貝が砂浜まで来ていると、発進するときに巻き込んじゃうかもしれないし」

「へぇ。じゃあ、普段はこいつら、もう少し沖にいるの?」

「そう。遊んでほしいときは、こうして出てくるの」


 そう言ったモルトは、近付いてきた貝を手に取った。


 一体、二体と、砂浜に上げては積み重ねていく。いや、数え方は合っているのだろうか。枚って言ったほうがフォルム的に似合っているような気がするけれど……。


「貝の数え方って、二人は判る?」

「パルス」


 絶対に違う。どっちが答えたのかは判らないけれど、絶対に違うのは判る。 


「ルクス」


 それも絶対に違う。どっちが答えたのかはさっぱり判らないけれど、おちょくられているのは判る。


「そんなことはどうでもよくて、ほら、ショコラも一緒に遊ぼうよ」


 そうして、片方が見本を見せてくれた。


 積み上げられた貝のタワー。敢えて言おう、貝柱。その真ん中あたりに――。


「手刀で弾き飛ばしたっ!?」


 だるま落としの要領だろうか。そして、飛ばされた貝は水切りのように海面を飛び跳ねていく。


「こうすると喜ぶ」


 貝の生態が判らない。


「じゃあ、ショコラもやってみようか」


 片方が私の方に手を添えて、海を正面に見据える場所まで誘導していく。目の前には、積み上がった貝。私に、先ほどのようなことをしろというのか。


「あ、でも敷地の外へ飛ばしちゃ駄目だよ? キヨシに怒られるから」

「えー。力のコントロールが難しいなぁ。……そもそも、貝を壊さずに出来るかな?」


 そのひと言で、二人の顔から血の気が引いた。血なんて流れていないのに。


「……本気を出して、良いんだね? 私は、二人のどちらかに誘われてやるんだからねっ!」

「わーっ! わーっ! 待って、やっぱり辞めよう。もっと平和な遊びをしようっ!」


 二人は慌てふためき、貝は逃げ出す。そんな姿を見て、私はころころ笑うのだ。

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