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3.ダンジョンへ行こう

「ショコラー、ダンジョンに行かないか?」


 朝ご飯のトーストを食べていると、水彩が背後から目隠しをしてきた。


「え、目隠しをして言う台詞? そういうの、もっとドキドキするようなことを言うんじゃないの?」

「ショコラー、今アタシ、裸なの」


 ドキドキした。


「ま、厳密に言えばバスタオル一枚。シャワーを浴びてたんだよ。筆を洗った水を零しちゃって」

「ラフだなー。尻尾はちゃんと拭いた?」

「乾かして」


 仕方がないなぁ。視界は開放され、朝食の片手間で温風を起こして彼女の尻尾のみならず、髪や耳も乾かしていく。


「で、ダンジョンへ行くの?」

「そう。アタシって逃げ足が速いだけが取りえでさぁ。ダンジョンの奥って、なかなか行けないのよ。でも、ショコラは強い。奥まで連れて行ってもらえる」

「まぁ、暇だからいいけど」


 やったー! と喜ぶ彼女はの尻尾は、もうしっかりとふわふわだ。


「電車で行くの?」

「うん。帰りはバンが迎えに来てくれるって」

「あ、じゃあ色々寄り道してもらおうかなぁ」

「いっぱい買ってもトランクがある。最高の環境」


 漫画、画材。好きなものを言い合いながら、私は朝食を終えた。


 そして、海辺にある牧場から電車を乗り継いで山間部へ。

 電車にはまだ不慣れであったが、水彩の後をついていくことで、なんとか迷わずに辿り着くことができた。


 ダンジョンの入り口は、山の中腹に出来た裂け目のような洞窟だ。


「ダンジョンって、人間とモンスターが敵対していた頃の、人間の隠れ場所だったんだよね?」


 水彩の質問に、私は頷く。この世界の常識で、いわゆる防空壕のようなものだろうか。ドラゴンが吐き出す炎から身を守るには、地下の方が良かったわけだ。


「アタシはその頃、まだ生まれていなかったんだけどさ。ショコラは長生きでしょ? その頃のことは知っているの?」

「知ってる。殺伐としていたなぁ。モンスターも荒くれ者が多くてさ。みんな力を誇示したがって、人間もみんな逃げちゃって」

「ショコラは無双していたの?」

「私はその頃、弱かったよ。身体も小さいし。いつも逃げ回って、その都度修行して。自分の縄張りである霊宝山(れいほうさん)を創ってからは、ずっとそこで修行して」


 そして気が付けば、みんな仲良くしようぜ! という世界が出来上がっていた。


 思い出話をしながら、私たちはダンジョンに足を踏み入れる。

 知恵のない低級のモンスターが根城にしていることも多いので、襲いかかってくるようなら追い払う。それがダンジョン攻略のスタンスだ。


 大きなコウモリのモンスターの顔面をチョップする。気絶したそれを隅に寄せておき、探索を再開。


 アリの巣のように広がるダンジョンに、かつてここで暮らした人間の持ち物が見つかることがある。そうした物は早い者勝ちで、比較的街に近いこのダンジョンでは、目ぼしいものは既に持ち去られているだろう。

 

「やっぱり、スケッチをしに?」

「そう。ミカンはこう言う穴の中が苦手で、付き合ってくれなくてさぁ。モルトとグレーンは、暗いと気分が晴れないとかって言って断るし、バンは歩くのが嫌って言うし、ダイヤは洗濯物が増えるって怒るし……」


 だから、ダンジョンに潜るのは諦めていた。そこに舞い降りたプリティなお狐様こと、私。

 私なら灯りを作り出すことも容易いから、この手の冒険には役立つこと請け合いだろう。


 天井に張り付いていた巨大なイモリは、こちらを見ていただけなので見逃した。灯りが嫌だったのだろう、ちょっと迷惑そうな目をしていた。


「あ、分かれ道だ」


 立ち止まり、水彩が指をさす。

 下っていく道と、上に行く道が見える。このダンジョンの入り口は一つだけだと、駅の案内所で貰ったパンフレットには書かれていた。


「下はどのくらい潜るか分からないし、上に行ってみる?」


 私の提案に、水彩は頷いた。


「ダンジョンといえば、モンスターの侵入に備えたトラップだよね。アタシ、そういう仕掛けも描いてみたいなぁ」

「ウキウキしているところ悪いけど、此処はもう、ほとんど解除され尽くしたみたいだよ」


 パンフレットをヒラヒラと見せてみる。

 残っているトラップは、この洞窟を崩壊させるような危険なものなので、触れるな危険。近付くな危険と明記されている。


「えー。つまんなーい」


 口を尖らす彼女を横目に、暗がりから飛び出してきたイタチのようなモンスターを蹴り飛ばす。


「ショコラって、意外と武闘派?」

「あんまり妖力を使うと、この洞窟を傷付けちゃうかもしれないし」


 モンスターが使う力は、魔力、妖力、霊力の順に高くなっていく。

 魔力は物を発生させる力。妖力はそれに加え、物を変化させる力。霊力は、それらを定着させる力。


 つまり、魔力で炎を熾す。妖力でその炎を人型のようにして操ることができる。それを、霊力によって生命とする。モンスターが人型を取るのは、妖力を得る兆しというわけ。

 だから霊力を扱えるようになると、その強力な力故に神のように崇められるのだが……。


 その分、この星の環境に強く作用されるようになってしまい、そのせいで、かつての人間の衰退によって霊力を扱えるものは全滅してしまった。


 おそらく、今一番その存在に近いのは私なのだろう。霊宝山。その存在が、その証拠なのだ。


「……ショコラ、なんか沈んでる? ダンジョン、来たくなかった?」

「あ、いや、そんなことないよ。ちょっと昔を思い出しちゃっただけ。水彩と一緒に冒険をしているんだもん。私は楽しいよ」

「……ショコラは、そういうイケメンなことをたまに言うからズルい」


 そこは、年の功と言うことで。少し顔を赤くして、そっぽを向く彼女をからかいながら、私たちはダンジョンの奥へと進んでいく。


 上へと続く道の先には、幾つかの丸い岩が転がっていた。


「うへぇ、これを落とすトラップか。作動したところを見たかったなぁ」

「見たところで、スケッチは出来なくない?」

「速攻逃げて、岩に追いかけられるショコラをクロッキー」

「それは私がグロッキー」


 何その駄洒落。お互いに笑って踵を返し、下へと向かう道へ進もうかといったところで――。


「あっ! お弁当を持ってくるの、忘れてたっ!」


 重要なことに気がついて、一転して外へ。結局、街でランチを食べた後に、現代のダンジョン――いわゆるコンクリートジャングルで、買い物に楽しむ私たちだった。

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