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2.牧場での生活

 朝、私の生活はまぁまぁ規則正しく、七時前には自然と目が覚める。


 ベッドのスプリングを確かめるように、無駄に跳ねるようにして起き上がる。真っ先に行うのはテレビの電源を入れることだ。

 そこでアニメが映し出されないと、今日は土曜日でも、日曜日でもないんだなぁと気が付く。


 私の中で曜日というものは、土日であるか、ないのか。その二択だけだ。


「蕪の話をしている……」


 アニメが映し出されないていうことで、若干寝ぼけながらもベッドから這い出る。

 六畳ほどの部屋で、本棚には買い揃えた漫画やゲームソフトが並んでいる。カードで好きなものを好きなだけ買える生活。素敵すぎる。


 今日は、買い物にでも出かけてみようかなぁ。そんな事を考えながら、私は妖力によって着ている浴衣を普段着の和服に変える。


 姿見で、身だしなみチェック。


 我が主人、キヨシは私のことをロリと評したけれど、そこまでロリかなぁと疑問に思う。

 身長だって、見栄を張れば百五十センチだと言えるのだ。一捨二入という言葉を捏造すれば。


「身体はロリータ、心はロータリーエンジン。ブンブーン」


 キヨシにそんなギャグを言ったら、どんな反応をするのかなぁと考えながら、部屋を出て階段を降りる。


 三階建て。二階と三階が住居。一階に水回りとリビングを備える家に、キヨシを含む八人が暮らしている。


「行ってきまーす」


 丁度、キヨシが学校に出かけていった。


「いくら金持ちでも、高校生活は大変そうだなぁ」


 手を振って見送ると、私はダイニングに向かって朝食を頂く。メニューは、各自好きに食べるべし。食パンをトーストにするもよし、炊飯器からご飯を装うもよし。


 冷蔵庫を空けてチーズがあることを確認すると、私はそれを食パンに載せて、トースターの中に入れた。


「あら、ショコラちゃん。起きたのね」

「おーす」


 焼き上がりを待っていると、洗濯物を抱えたダイヤがやって来る。


 ダイヤは豚のモンスターであるが、豚のような顔をしているわけではなく、見た目は至って普通の、美人な女性だ。人間との見た目の違いは、豚の耳と尻尾が生えているくらいだろうか。

 とても綺麗好きで、この家の掃除洗濯その他諸々を一人で担ってくれている。


 名前に関しては、モンスターに自身を名付ける文化は存在しない。けれど、呼ぶ際に困るからとキヨシから自分の好きなものを名乗っておくように、と言われているのだ。


 だから、私はショコラ。彼女はダイヤ。


「ショコラちゃんは洗濯物がないから嬉しい。でも、ちゃんとお風呂に入ってる? 清潔にしてる?」

「お風呂も必要なーい。尻尾が濡れると嫌だもん」

「乾かすのも簡単でしょ。今度、一緒にお風呂に入りましょう」


 えー、という言葉と、トースターの合図は同時だった。


 キヨシがいないと穏やかに時が流れるなぁ。と、しみじみ感じながら朝食を終え、外に出る。


 散歩ついでに歩いて街まで向かい、お菓子と漫画の新刊、中古ショップで安売りしていた幾つかのテレビゲームのソフトを提げて帰宅した。


 家に入れば、とてもいい匂いが漂ってくる。香ばしいソースの香り。焼きそばかな? お好み焼きかな?


 ダイニングを覗くと、その匂いが強くなる。二人の女性が焼きそばを啜っていた。


「ミカン、バンちゃん。焼きそばまだある?」

「フライパンに残っている。後で冷蔵庫へ入れようと思っていた」


 好きに食べていいぞ。そう言ってくれたのは、凛々しい目つきをした鹿のような角が生えた女性。ミカンだ。

 その実態は龍であり、この家では私に次いで戦闘能力が高い。モンスター同士を戦わせる、コロシアムによく通っているという。


 作ったのは、バンパーと名乗る猫耳の女性。口数が大変少なく、車やバイクが大好き。

 昼まで寝ていて、昼食を食べてからツーリングやドライブに出かけてしまい、帰宅は夜遅く。見かける機会もなかなか少ない。


「バンちゃんの焼きそば、竹輪が入っているから好き」


 笑顔で頬張ると、バンパーはにっこりと笑ってくれた。


 午後はゲームをして過ごし、時たま攻略に行き詰まると、牧場に出て動物型のモンスターと触れ合う。


 数が多いのは、羊型のモンスターだろうか。普通の羊よりも身体が大きく、角も立派。そんな彼らを、垂れた犬の耳を生やした女性が追いかけている。


「おーい、ショコラーっ! こいつら、ここらへんの草を食い尽くしそうだから、移動させるぞーっ!」

「りょうかーいっ!」


 近くに居た羊の尻を軽く叩くと、判った判ったと言っているかのように尻尾を振り、既に移動を開始している仲間を追いかける。


水彩(すいさい)も行き詰まってる?」

「どうにも構図が決まらないんだよなぁ」


 絵を描くことが趣味である彼女は、よく牧場でスケッチをしている。おそらく今は、羊を対象にしていたが、草ばかり食べていて動きがないため動かすついでに……と言ったところか。


「私をモデルにしてみる? どんなモデルでも変化してみせるよ」

「そりゃあ良い。ちょっと西洋風の、お姫様みたいなのが草原を走っている姿を描いてみたい」


 期待に応えるように変化をして、羊を追いかけるように駆け出す。


「あ、待てっ! スケッチブックを用意するから!」

「待てと言われて待つ狐はいないもんねーっ!」


 私は神社を守る狐ではないのだからっ! なんて叫びながら、気が済むまで体を動かす。そうしていると、頭がスッキリして攻略方法が浮かんでくるのだ。


 夜になると、ダイヤによって風呂に入れられた。


 シャワーが人数分ある銭湯のような作りをしていて、一階の大部分を占めていると言っても良い。


「あははっ! 尻尾が萎んだ。細ーい。ね、見て見てグレーン。面白いねー」

「あははっ! そうだねモルト。ショコラってば、こんなに細くなっちゃって」


 洗われている私を面白そうに見守るのは、機械仕掛けのモンスターである、グレーンとモルト。酒が燃料だと豪語するほど、アルコール大好きモンスターだ。

 二体で一つのモンスターらしく、常に共に行動していて、見た目もそっくり。機械系に強いため、よくバンパーと一緒に車やバイクを弄っているのを見かける。


「二人も洗ってみる? 地肌を擦るとピクピク振って面白いわよ」

「やるやる」

「楽しみー」

「私で遊ぶなーっ!」


 風呂から出れば、宿題を終えたキヨシとの語らいが待っている。

 みんなでリビングに集まり、お菓子を食べながら今日一日に起きたことを喋ったり、明日は何をしたいかを喋ったり。


「ふはははっ! 明日は休みだから俺は寝るぞっ! たぶん夕方まで寝るぞ! だれか、抱き枕になってくれる人はいないだろうかっ!?」

「羊でも抱いてろよ」


 辛辣な言葉を吐いて、笑いを誘ってみた。


「うちの羊はデカすぎるんだよっ! もっと手軽な大きさのものを……」


 一斉に、私に視線が突き刺さる。


「胸だけ大きくならんものか?」


 主人の性癖がどんどん歪んでいっている件。 

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