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1.私と彼の出会い

「俺の仲間になってくれっ!」


 という台詞は、この世界ではごくごくありふれたものだ。


 ジャポニバースと呼ばれるこの世界では、モンスターと人間が共存をして生活をしている。漫画やアニメのように敵対したり、悪役として描かれるモンスターは――まぁ、概ね居ないのだ。


 それは何故かと言えば、モンスターの生存に人間の存在が欠かせないことに気が付きたからである。


 他の世界ではどうなっているかは判らないが、少なくともこの世界では、人間の活動によって星の活動が活発となっている。

 つまり、人間が居なくなればこの星が滅んでしまうのだ。


 そうなったら、我らモンスターもそこで終わり。人間はモンスターよりも弱いのだから、優しく見守ってあげよう。

 そうした意識が徐々に目覚めていき、今ではその考えがモンスタースタンダード。モンスターと人間が手と手を繋いでレッツダンス。と言った具合だ。


 だから、私の目の前でありきたりな台詞を吐く少年も、特に気にすることのないものである。


 なかなか爽やかで格好の良い少年だが、それに惹かれるほど、私は若くないつもりだ。


「私、あんまり馴れ合いとかは好きじゃないかなぁ」


 ま、モンスタースタンダードと言っても一定の距離を置くものもいる。私もそんな一人である。


 私の縄張りである空中に浮かぶ岩山までやってきて、仲間にするだなんて度胸のある奴だ。


「あんたは知らない? 天空の妖狐の噂。人知れず研鑽を積んだ、気高き狐」

「知ってる。絶世の美女と評されるのに、人見知りをこじらせて山の山頂に籠もって、修行ばかりしていたら力を付けすぎて周りに恐れられて余計に孤立した妖狐だろ?」


 私はプイッとそっぽを向いた。


「もう、絶対に仲間になんかなってやらない」

「わーっ!? ご、ごめん! 気にしているとは思わなかった!」

「デリカシーのない奴は嫌われるって習わなかった?」

「それは経験上の話?」


 こいつはどこまで失礼なのだろうか。


「そ、そんなに睨まないでくれ。もしも戦闘になったって、俺は負けないんだからなっ!」

「モンスターに勝てる人間なんて居ないでしょ。強がりを言う奴も、モンスターには嫌われるよ」

「えーん、僕ちゃん弱っちいから仲間になってー」


 ……こいつ、おちょくっているのか?


 そもそも、モンスターが人間の仲間になるという意味を、こいつは正しく理解しているのだろうか。


 モンスターが人間の仲間になるというのは、その恩恵を預かるということだ。人間の技術力によって産まれた文明の利器を使用し、美味な料理を頂く。その代わり、人間はモンスターの力を利用する。


 ただ生息地が被っただけの共存ではない。共生をするための表現が、仲間になるということだ。


 それを、なんなのこいつ? こんなにもおちょくってくる奴が、私と共生をしたいと?


「巫山戯ているのか?」


 私は、少し殺気立つ。尻尾の毛が逆だって、普段の倍ほどの大きさまで膨らんだだろう。


 手の平を少年に向けて、そこに妖力を集中させる。この光弾が命中すれば、その身は粉々に砕け散るだろう。


「去るなら、今のうちだぞ」

「俺は、……俺の家は金持ちだっ!」

「……え?」


 私はぽかんと口を開いた。


「既に、我が家では六人の人型モンスターが生活をしているっ!」


 え、モンスターの生活費ってピンキリだけど、人型は欲が深くって月に百万ドルエは掛かるという噂だよ?


 それがどのくらいの金額なのかといえば、一般的な賃貸マンションの家賃が四万ドルエほど。安い冷蔵庫が一万ドルエで、エアコンが安くても五万ドルエ。


 キャベツは半玉で百三十ドルエだ。テーマパークの一日フリーパスは、一万ドルエくらいだろうか。


 なんでそんなに詳しいのかって? ……パンフレットやカタログだけが友達だから。


「毎日、高級ワインを飲んだって良いんだぞっ! それに、こんな高い山に、俺がどうやって来たと思っているっ!」

「ど、どうって――」

「自家用ジェットで、だろうがっ!」


 そう言えばこいつ、パラシュートで降りてきていた……てことは、本当にとんでもない金持ちかっ!?


「他にも動物型のモンスターもいっぱい居るっ! むしろそれでもっと稼げている。常にインフレが加速しているっ!」

「そ、それは、例えば糸を生産できる羊型のモンスターを集めて、採取したものを売っているということか?」

「その通りだっ! 奴等は我が家の牧場で、大量に暮らしているっ! 真珠を生み出す貝型のモンスターだってっ!」


 ひ、羊型のモンスターは警戒心が強くて、なかなか仲間にならないんだぞっ!? そ、それをた、大量にっ!?


 それに、貝型のモンスター? まかさ、牧場は海に面していると、そこさえも自分の土地だとでも言うのかっ!?


 こいつ、どこまで金持ちなんだ?


「で、でもそんな生活をしていて、なんで私なんだ? 私なんて、強いくらいしか取り柄はないぞ? 人見知りだし、コミュニケーション能力なんてないし」

「え、でも普通に話してないか?」

「これ、替え玉。本体は離れた場所で震えてる」

「……そんな所も可愛い」


 そんなストレートに言われると照れる。


「やはり、俺の目には狂いはなかった。俺は、俺はっ! 美人でボインなねーちゃんモンスターに囲まれて生活をしたいんだっ!」

「欲深いっ! それでよくモンスターが仲間になるなっ!」

「だって、金持ちだもん」


 ぐうの音も出ない。


「で、仲間になってくれんの? 三食昼寝付き、テレビもゲームもパチンコにスロットだってやり放題だ。金はいくらでもあるからなっ!」

「……本当に、私でいいの?」

「ああ、君じゃないと嫌なんだっ! 俺と一緒に暮らしてくれっ!」

「判った。本当に良いんだね?」

「クドいっ! 男に二言はないっ!」

「判った。こんな私を受け入れてくれてありがとうっ!」


 その言葉とともに、私は駆け出す。巣穴から飛び出し、彼の下へと駆け付けた。


「末永く、よろしくお願いします」

「……ロリじゃねーかっ!」


 血涙を流す勢いで目を見開いているけど、誰も本体と替え玉が同じ姿をしているなんて言ってないもんねーっ!


「クーリングオフは、利かないぞっ!」


 膝をつく彼の腕に、ひしっと抱き着いた。


「胸の感触が、ないよぅ。それにどこが人見知りだよぅ」

「泣くなよ、男だろ? さぁ、言葉の通りに、私を養っておくれ」

「なんか違う意味に聞こえるっ! 外見一つでめちゃくちゃな違いじゃないかーッ! ……てか、本当に女? あれ、あまりにもなさすぎる?」

「むふふ。あなたには、どう見える?」

「かわゆい女の子……はっ!? これは洗脳? そういう力かっ!?」


 真実は、最早どうでもいい事ということで一つ。


 そう笑う私をよそに、彼の叫びが天空の山に木霊する。この山も私の付属品だから、私が移動すれば付いてくるというのは、今は黙っておこうか。


「これからも、よろしくねっ!」


 私のとびっきりの笑顔の裏に隠された真実を見た時、彼がどんな顔をするか楽しみだ。 

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