⑬アビリティ犯罪
——クァルポの装具店
店の前に到着すると、クァルポは安堵したように肩の力を抜いた。
「こちらへ、倉庫は店の裏手にあります」
そう言って、店の横にある通路へと案内する。
裏手には石造りの小さな倉庫があり、重厚な鉄の扉が取り付けられていた。
「ここです」
クァルポが鍵を取り出し、扉を開ける。
中には整然と棚が並び、その上にアビリティ装具がいくつも並べられていた。
見渡す限り、生活補助装具や介護に必要な装具ばかりだ。
エリオはゆっくりと倉庫の中を進み、クァルポに尋ねた。
「装具が失くなったのは、いつ頃からですか?」
「確か、3週間ほど前からです」
「何か共通点や、気になることは?」
「いえ、それが特になくてですね……いつも倉庫の備品を確認する時に数が合わなくて、その時に気づくんですよ」
エリオは顎に手を当てる。
「なるほど」
そして倉庫の外に出て、周囲を見回した。
店の裏手は住宅と商店が入り混じる一角で、特別人通りが多いわけでもない。
壁際には木箱が積まれ、裏路地へと続く細い道が伸びている。
その時だった。
不意に、誰かの視線を背中に感じた。
エリオはわずかに眉を顰めた。
すぐには振り返らず、クァルポに問いかける。
「周囲で不審な人物を見かけたことは?」
「いえ……特には」
会話を続けながら、さりげなく周囲を確認する。
だが、人影はない。
気のせいか……
そう思った瞬間、エリオは遮断のアビリティを行使した。
意識を集中させる。
能力の影響を断ち切るように、周囲を見渡す。
すると……
倉庫の裏手から少し離れた建物の影に、人影があった。
15歳ほどの少年。
こちらをじっと窺っている。
エリオと目が合うと、少年は慌てて壁の影に身を引いた。
……あの反応、彼が実行犯の可能性が高いな。
エリオは何事もなかったかのように視線を外した。
そしてクァルポに向き直る。
「ひとまず、状況は分かりました」
「何か分かったんですか?」
「いえ、まだ確証はありません」
エリオは軽く肩をすくめる。
「ですが、少し様子を見てみましょう」
「様子を見る?」
「ええ。クァルポ様も今日はいつも通り営業してください」
クァルポは戸惑った表情を浮かべた。
「それで大丈夫なんでしょうか……?」
「はい、必ず犯人の足取りを掴みましょう」
エリオは穏やかに言う。
「しばらくこの辺りを見て回ってみます」
「……分かりました」
クァルポは小さく頷き、店へと戻っていった。
エリオもその場を離れる。
店の前を通り過ぎ、更に向こうへ。
そのまま角を曲がり、建物の陰に入る。
そして足を止めた。
「調査は順調?」
その壁にもたれかかるように、フィリオーネが煙を吹かしていた。
彼女には魅了の力があるため、少し離れた場所で待機してもらっていたのだが、煙草を吸う仕草が妙に様になっている。
「ああ」
エリオは静かに言った。
「備品を盗み出している実行犯は見つけた」
エリオは徐に、懐から端末を取り出して操作を始めた。
「どうしたの?」
「いや、今回の調査にビビの手も借りた方がいいと思ってな……その連絡だ」
「ビビって、私にネックレスを渡してくれた?」
「ああ、捜索任務ならあいつの方が適任だからな」
――数分後。
倉庫の裏手に、先ほどの少年が姿を現した。
周囲を警戒するように見回し、倉庫へ近づく。
エリオは建物の影からその様子を見ていた。
少年は倉庫の扉に手を伸ばす。
ポケットから何かを取り出し、数秒ほどで鍵が開いた。
エリオは目を細める。
合鍵を作ってたのか……それとも、何か別の?
そんなことを考えている間に、少年は倉庫に入り、しばらくすると袋を抱えて出てきた。
その中には、アビリティ装具がいくつか入っているのが見て取れた。
ここで捕まえることもできるが……
エリオは動かなかった。
「ねぇ、倉庫の扉開いてるけど?」
フィリオーネが小声で聞く。
「いま、犯人が装具を抱えて出て来たところだ」
エリオは扉の鍵を閉める少年の背中を見つめながら答える。
「え?誰も見えないけど……それなら、捕まえなくていいの?」
少年は路地へと消えていく。
エリオは静かに歩き出した。
「盗みの実行犯だけを捕まえても、この手の犯罪は意味がない」
「つまり、指示を出している黒幕を捕まえるのね?」
「そうだ。しかし、ビビが合流するまでまだかかりそうだな……俺はひとまず犯人を尾行する。勘付かれると面倒だから、フィリオーネはここで待っていてくれ」
「わかったわ」
――エリオは少年の後を追った。
足音を殺し、距離を保ちながら。
やがて少年は街の外れへ向かって歩いていく。
居住区の隅……人気も無く、誰も住んでいない廃屋が並ぶ通りに入り、少年は足を止めた。
しばらくすると、廃屋の中から誰かの足音が近づき、声をかけた。
「……よう、だいぶ慣れてきたな。さぁ、物を見せな」
どうやら、ここが荷物の運び先のようだ。




