Episode 10: 衝撃
私は大翔、朋佳は、崩れ落ちた拓斗の元へ駆け寄った。
二人とも意識はある。だが、その様子は明らかに――限界だった。
「大丈夫ですか!?」
私はびしょ濡れの大翔に声をかけた。
「……なんとかね。」
かろうじて返ってきたその声とは裏腹に、水に触れた肌はところどころ赤く腫れていた。
(普通の水でこんな風になる…?)
「はやく医務室へ行きなさい。」
ロアがカイを引き釣りながら、近寄ってきた。
「ごめんね~、ちょっとやりすぎた。」
カイは、ぐったりした大翔に頭を下げた。
「俺の魔法、一度触れたことのある“水”を創造できるんだ。今回使ったのは――地球の水と、海王星の水を混ぜたやつ。」
そんな魔法…聞いたことがない。
海王星の内部にある水は、超高圧・高温状態にある。
状態としては「超臨界水」や「プラズマ化した水素混合体」など、地球の火山のマグマより熱いレベルだ。マグマをも凌ぐ熱量を秘めるその水を、彼は魔法で創造し、制御しているというのか。
「だから燃えるような熱さを感じた訳か…適わなかったよ。」
大翔がカイに力なく返事した。
カイはゆっくりと立ち上がって大翔に肩を貸そうとした。
――その時。
「……くそっ!!」
怒声が訓練場に響いた。
拓斗が朋佳の手を振り払って立ち上がり、一人ふらふらと医務室へ向かって歩き出す。その背中は、負けを認めきれず、それでも崩れそうなほど弱々しかった。
「…大丈夫。俺一人で行けるから。」
大翔はカイの横をすり抜け、拓斗を追いかけた。
すれ違いで、ルシアが駆けて来た。
「……終わり?」
カイはにっこりと笑い、「うん、終わりだよ」と返すと、ふとこちらを振り返った。
「伝えといて。怒りんぼ君、気絶しなかったのはすごいよ。ルシアの魔法、普通の人なら壊れてる。」
そして、肩をすくめて一言。
「ちなみにね――リアムは俺たちより強いよ。」
軽く手を振りながら、二人は訓練場を後にした。
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訓練場の観客席は、衝撃に包まれていた。
中でも、金星人のクロエは顔色を失っていた。
「……大丈夫か?」
藤原がそっと隣で声をかける。
「見た? あの海王星人……あの水圧。制御レベルが異常だったわ。」
セレナが震える声でつぶやいた。
「でも、それ以上に気になったのは金星人です。あの子、何かしたんですか?」
アイラが戸惑いを隠せず尋ねる。
クロエはゆっくりと息を吐き、口を開いた。
「金星人の魔法は、感情・精神に作用するのが主です。他人の感情を読む、落ち着かせる、共感する……せいぜいそこまで。」
「でも彼女は違った。」
クロエの表情は固い。
「彼女は――拓斗という新入隊員の記憶に入り、意図的に“トラウマ状態”を引き起こしたんです。意識の奥にある、本人が最も触れてほしくない記憶を引きずり出して。」
「金星人は本来、そんな魔法は使えません。むしろ、他人の苦痛を感じすぎて精神が崩れることもある。それをあの子は……淡々と“処理”していた。」
「……“ディセンダント”。」「“継承者”…か。」
藤原と千葉は同時に呟いた。
惑星戦争時代、普通の惑星人では制御できない“異質な魔法の核”を持つ者たちがいた。その者たちは、民を導く者として、先導をきっていた。現代、その力が一部受け継がれ、稀に“覚醒個体”が出現するとされている。現代の言葉だと、descendant(継承者)と言われている。
「なるほど……佐々木さんが選んだ隊員だ。癖がつよいねぇ。」
千葉が苦笑いしながら言った。
「残るは火星人――リアム。彼も“継承者”でしょうね。」
山田が名簿を見ながら呟いた。
そして全員が、沈黙の中、訓練場へと視線を向けた。




