Episode 9: 海王星人と金星人
「美空は、どっちが勝つと思う?」
訓練スペースを見守っていた朋佳が問いかけた。
「普通に考えたら、小林さんたちだと思う。」
小林兄弟は、無敗を誇るコンビだった。
攻撃特化の拓斗のギアは、長い槍の形状。扱いが難しい槍を自在に操り、遠距離攻撃も得意とする。一方、大翔のギアは、半透明の五角形パネルを複数組み合わせた盾型。仲間を守る防御の要だ。
【無敵の矛と盾】
訓練生時代には、そんな名前で呼ばれてもいた。
「ただ…佐々木部長が理由もなく、あの三人の惑星人を採用するわけがないと思う…。」
「そうだよね…。」
朋佳も同じ考えのようだった。
「何も起こらなきゃいいけど…。」
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「それでは――戦闘、開始!」
ロアの掛け声とともに、拓斗がいち早く動き出した。
一直線にルシアへと駆け、獲物を狙う獣のような眼差しで槍を構える。
(まずは金星人を叩く――)
その瞬間だった。
「バーン♪」
カイの軽い声が響いた。
人差し指と親指で作った“銃”の形から、目にも止まらぬ速さで何かが放たれる。
(なっ――!)
拓斗は体をのけぞらせ、間一髪で回避。
その一撃は壁へ衝突し、轟音とともに水しぶきを撒き散らした。
「あれって、水…?」
通常、海王星人の能力は水源がなければ発動できないはず。
だがカイは、自らの手から水を “創り出した” のだ。
「さぁ、いくよ~。」
カイの両手が再び前方へ伸びる。
「大翔!!」
拓斗の叫びと同時に、大翔が盾を展開。
五角形のパネルが弾けるように移動や連結をし、瞬時に水の猛襲を受け止めた。
ドン――!ドドン――!!
衝撃で地面が震え、盾がきしむ音が響く。
まるで高圧洗浄機を何本も同時に浴びせられているようだ。
「…くっそ…!」
拓斗は体勢を立て直すため、大翔のもとへ戻る。
「逃がさないよ!!」
カイが追いかけ、滑るような動きで間合いを詰め――
「大翔、下!」
「……っ!」
大翔が即座に小型盾を出現させ、カイの蹴りをブロックした。
拓斗が反転し、槍を横に払うように振る。
だがカイは軽く体を反らせて回避、逆に右足で反撃に出る。
鋭い蹴りが空を裂き、拓斗の表情が歪む。
(こいつ、近接戦もいけるのかよ…!)
大翔は汗が滲み、呼吸が乱れながらも、カイの攻撃を防ぎ続ける。
「あぁぁ!このバリアみたいなの邪魔!」
カイの勢いは止まらないが、次第に雑さが目立ってきた。
(……今だ!)
拓斗はカイの腹に槍の柄を突き込んだ。
「ぐっ!」
息を詰まらせるカイ。その瞬間、拓斗は脇を駆け抜けた。
――ルシアとの距離、数メートル。
(認めたくはないが、あの海王星人の相手をすれば一気に精神も体力も削られる。
そこを狙って金星人が仕掛けてきても面倒だ。)
拓斗が迫ってきても、ルシアは動かない。
(まず一人目…!)
拓斗が槍を振りかぶり、ルシアの首を狙う。
カイはゆっくりと体を起こし、拓斗とルシアの方を向いて言った。
「あぁ~…。言ってあげたのに。ルシアは危険ってさ。」
今度は大翔の方を向いて、ニヤッと笑う。
(…嫌な予感がする…)
大翔は大声で叫んだ。
「拓斗!戻れ!!」
同時に、拓斗はカイが模擬戦の前に引いていた線を踏み越えた。
「かわいそうだね…。」
ルシアの声が、まるで鐘の音のように、拓斗の脳に直接響いた。
――その瞬間、拓斗の頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
視界がぐにゃりと歪む。音が遠ざかる。感覚が崩れていく。
走馬灯のように記憶が流れ、一番忘れたい…思い出したくない記憶が引き出される。
周りの冷ややかな目、声、女性の叫び声、首を吊った男の姿…
ひたすら聞こえてくる、嘘つき、嘘つき、嘘つきという声。
「うぁ”ぁ”ぁぁぁぁぁぁああぁ」
拓斗は叫び、うめきながら膝をついて頭を抱える。
「や、めろ……やめろやめろやめろッ!!」
背筋が凍るような絶叫。
目は見開かれ、虚空を見つめたまま恐怖に飲み込まれたようだった。
バリン!
ルシアの魔法制御リングが割れた音がした。
リングが相手に致命傷を与えたと判断したのだ。
――ロアが手を挙げた。拓斗が戦闘不能の合図だった。
ロアが宣言するやいなや、大翔が走り出す。
(くっ…!せめて、一撃…!)
大翔は、近くのカイに向かって盾を飛ばす。
カイはすかさず、水を使って弾き飛ばす。
「弱くなってんじゃない~?」
カイが手をかざすと、空中に広がる無数の水弾が盾を弾き返した。
(最初に使いすぎたか…ギアのエネルギー残量は残り僅かだ。)
大翔は最後の力を振り絞り、身を包むように盾を再構築する。
(このまま攻撃を少しずつすれば、魔力とギアのエネルギー、どちらかの消費勝負にもちこめる)
「今度はこっちの番だよ。」
カイが両手を開き、水を無数の蛇のようにうねらせた。
「…そんなガタガタな守りだと、所々みえちゃうよ――隙間がね。」
カイは両手を前に出したと同時に、大量の水が空中に出現した。
そして、大翔を囲う盾の隙間からその水が大量に入り込んだ。
一瞬のうちに大翔は水の中に拘束されてしまった。
(この水…普通の水じゃない!?)
大翔は全身に燃えるような痛みを感じた。
「あのままだと...制御ブレスレットがあっても間に合わない…危ない!」
私と朋佳は、反射的にギアを準備して乗り込もうとした。
「もう十分です。」
ロアが手をあげて、カイの方へ向けた。
「…!」
その瞬間、水は消えて、カイは魔法が使えなくなっていたようだ。
「地球人、両者戦闘不能!!」
ロアの声が響き、訓練場は騒然としていた。




