閉幕の余韻
時刻は18時を過ぎ、ベルモンド王国の王城では晩餐会が開かれていた。
「エンドリアス学園の総合優勝を祝しまして……乾杯」「「「乾杯っ!」」」
カルティアの掛け声とともに俺たちは杯の音を広間中に響かせる。
「はいアルム、じゃなかった! 私が持ってるね」
「テーブルの上に置いていいよ、ありがと」
無論、両腕が使えない俺の代わりにラビスが二人分の乾杯をしてくれたのだが。
晩餐会と言ってもやってる事は開催前日の懇親会と違いはない。
まあ強いて言うならテイバンが体調を崩して居ないことと……。
「せっかくの異国の料理です、遠慮しなくて良いんですよ?」
「ご気遣い感謝します。しかしこの両腕では口に運ぶことも叶いませんので……」
カルティアが参加していることと……。
「ライオス、同じやつもう一杯持って来てちょうだい」
「ああァ⁉ 何でおれが? そもそも怪我人に――――」
「あんた私よりポイント低いこと忘れたのかしら? 低いほうが命令に従うって約束よね」
「……はい」
ライオスが飼い慣らされていることと……。
「カルティアさん! アルムさん!」
「エミリーさん、お元気そうで何よりです」
オドオドしていた印象からガラリと変わり、笑顔で話しかけるエミリー。
「アルムっ! その怪我でいつ俺と走れるというんだ!」
「いや、とりあえず来年まで勘弁してください……」
エミリーやトールズなど他国との交友が広がったこと。あとは……。
「アルムっ! お互い満身創痍の状態でやり合うのも悪くないと思わないか?」
「いや、それだけは本当に来年まで勘弁して……マジで」
「やぁ、生意気にも我々の優勝を阻んだ選手諸君」
ベレスやエルビィスなどの乱入者が開始早々乗り込んで来たことくらいか。
「我々の敗北は幾重にも積み重なった偶然の賜物に過ぎない事を忘れるなよ」
「何を言い出すのかと思えば、最初に脱落した負け犬のくせによく吠えますね。いや負け犬じゃなかったですね、昨年優勝した人」
「……! タリオナのお膳立てで100ポイントも獲れたのがそんなに嬉しいか?」
「なんだと……⁉」
どちらも酒が入っているのか普段以上に饒舌で、いつも以上に感情的になりやすいようだった。
楽しい雰囲気の中に刺すような視線を向け合いピリつかせる両者。
「今日くらいは……」「お二人とも、いい加減にしてください」
仲裁を試みる俺だったが一足先にタリオナが介入する。
「それにエルビィスさん、認めたくはありませんがあの試合で勝てたのは彼のお陰なんです」
「タリオナ……」
「私の事を高く買ってくれるのは嬉しいですが、彼に対する無礼は容認できません」
彼女の事を多くは知らないが魔撃墜決勝戦で立ち振る舞いは傍若無人そのもの。
特にチームメイトのセロブロには当たりが強いように感じていたが……。
「そいつに変えられたんだな」
「えっ?」
「悪かったよセロブロ君。たださっきはああ言ったけど試合に対して文句があった訳じゃない」
「……じゃあ何しに来たんですか?」
「俺は五年生で最後の大会だ、それにきみたちとは住む国も違うから会うことも無いだろう。だから……そう、『いい試合だった』って言いたかっただけだ」
「……!」
俺は同じく最後の大会を迎えたカルティアに視線を向ける。
「そんな顔をなさらないで下さい。確かにあと一歩のところで優勝を逃したことは残念ですが、後輩である貴方たちに託せるのなら悔いはありません」
「カルティアさんの言う通りだよ。むしろ君たちと出場できて良かった」
「ああ、来年こそはベレスを打倒し下級生が栄光を掴んでくれ」
カルティア、スベン、ライザは各々の想いを俺たちに託しているようだった。
ここで感謝なんて告げてしまったら楽しい雰囲気がしんみりしてしまうだろう。
「……では貴方たちの後輩が活躍するその日を待っていてください」
俺は託される側として彼らの想いを受け取った。
***
同時刻、ロードスト王国王都の学生寮でレイゼンとリベルは密会していた。
「お話しする前に訊きたいことが。僕がアルムさんにそのような感想を懐いていると話したのはライオス君ですよね」
「ああ、そうだ」
『俺の事をどう思ってんだ?』
(病室でのあの問いは明らかにおかしかった。誰かに吹き込まれたのかと確認したら、どうやらリベルの感想をライオスが引用したらしい)
「僕がアルムさんをそう思っている事が気に食わないなら謝罪します、だから……」
「リベル、少し落ち着くんだ。私が怒っているように見えたのならそれは誤解だ」
焦りから言葉が早口になっていくリベルを制止させた。
「単純に気になっただけなんだ、だからお前が嫌なら無理に答えなくていい」
彼は優しい言葉を投げかけるとリベルはゆっくりと呼吸を整える。
「……いいえ、答えさせてください。先生なら分かるかもしれないから……」
「分かった。ゆっくりでいい、お前の気持ちを聞かせてくれ」
「……人間の人格を形作るのはその人が辿った体験、つまり過去の出来事で形成させます」
一呼吸を置いた彼は話を始め、レイゼンは黙って耳を傾ける。
「他者に寄り添える人は痛みを知っているからです。逆に罪悪感もなく他者を傷付けられるのは痛みを知らないから、もしくはその快楽を知ってしまったからなのかもしれません」
「…………」
レイゼンは依然として黙って彼の言葉に耳を傾ける。
「それはどんな性格や境遇だとしても例外は無かったんです。アルムさんと出会うまでは……」
リベルにとって大きな衝撃だったのか重々しく語り、レイゼンは唾を呑み込んだ。
「アルムさんには『死神教を撲滅したい出来事』も『卓越した戦闘技術を学んだ経験』も見えないんです……」
「リベル、お前まさか……⁉」
嫌な予感が脳裏をよぎり、閉ざしていた口が開かれる。
「彼には『空白の記憶』があります……!」
リベルは死を覚悟しながらアルムの記憶を覗き見たことを伝えた。




