王女殿下の謀略
「会長、その前に言うべき事があると思います」
「……そうでしたね、少々気が先走ってしまいました」
ミリエラの耳打ちに咳払いをし、落ち着きを取り戻すカルティア。
「まずは意識が回復してくれて良かったです」
「はぁ、ご心配をお掛けしました……」
気に掛けてくれるのは嬉しいけど、今は本題の内容でそれどころでは無い。
しかしミリエラのお陰で雰囲気は変わった、本題に入る前に確認しておこう。
「お訊きしますが『貴族制廃止の背景』は貴方との契約で欲していた情報です。それを無条件で開示してくれる、という認識で良いんですよね?」
「その認識で構いません。こちらは既に契約の目的を達成できましたので」
掘り下げたい部分はあったがとりあえず後回しだ。
「もう一つ、ミリエラ先輩とマリア先輩はその背景を理解している、という認識で良いんですよね?」
「勿論その認識で構いません。私が会長を務める生徒会では頼りに出来るメンバーを集めましたから」
はっきりと言い切る彼女に後ろのふたりは少しばかり顔を綻ばせた。
「他に訊きたい事があればどうぞ。答えられる質問であれば包み隠さずお話します」
「……いえ、気になるところは一通り聞けたので本題に入りましょう」
病み上がりだからか、本題に気を取られているのかこれ以上は思い浮かばなかった。
「分かりました、お疲れでしょうし単刀直入に申し上げます。
『貴族たちから権力を剝奪し、裏社会との繋がりを断つ』
これが貴族制廃止の背景です」
「……えっ⁉」
予想の斜め上の理由に情報の処理がやや遅れてしまう。
「……つまり権力を悪用して裏社会に手を貸している貴族がいるって事ですか?」
そんな話があるのか? いやよくありそうな話ではある。
だが先程レイゼンに歩み寄ろうと、信じてみようと思ったばかりなんだぞ……!
ショックのあまり視線が小刻みに揺れる。
「アルム君……? 大丈夫ですか?」
「……大丈夫です、話を続けて――――いや、そう思った根拠を聞かせてください」
早まった判断は止せ、彼らと裏社会本部の仲は険悪だという話。
レイゼンの認知のないところで内通している可能性、それに彼女の結論が誤っている可能性もあるはずだ。
「当然の疑問ですね、包み隠さずお話しします」
そう言って彼女は淀みなく言葉を続けた。
手つかずの土地を率先して開拓し、活気に溢れた商店街を建てた。
しかしその後、小型の魔獣が檻に囲われ、高価に取引されていたことが発覚。
また孤児院の援助額を増やし、王都から孤児を無くさせた。
しかしその後、姿を消した孤児が人身売買されていたことが発覚。
また王国騎士団には英気を養ってもらおうと全員に休暇を取らせた。
しかしその日の夜、彼女の父バルドラ陛下に刺客が送り込まれ、危うく命を落としかけたことが発覚。
「まるでそうなるように仕組まれたのではないかと私は疑いの目を向けるようになりました……」
か細く、悲しそうに言葉を紡ぐ彼女。
「しかし全ては王国会議にて過半数以上の承認を以て議決されたこと。裏社会と繋がっている貴族がいるのかもしれない、そんな漠然とした疑心を独り抱えたまま日々を過ごしていました」
「…………」
「しかし二年前、兄のアイレスが貴族の中に内通者がいると自ら打ち明け、私は憶測だったものが確信へと変わりました! そして兄と協力し貴族制廃止、そして王国を裏社会の魔の手から救い出そうと動き出しました!」
しかし俺に打ち明ける機会を待っていたのか、発する言葉には妙な慣れを感じた。
「根拠、そして闇に葬られた真相は全て話しました。強引な手段じゃないかと思われるかもしれませんがわたしを、私たちを理解して頂けたら幸いです」
途切れることなく言葉を重ね続けた彼女は口を閉じ、俺の返答を待つ姿勢を取る。
「…………」
正直、驚きの連続で病み上がりじゃなくてもまともに判断できる気がしない。
それに王国に潜む裏社会がレイゼン一派なのか本部なのか未だに見当もつかない。
いやそもそも検討以前に俺は両派閥について何も知らない。
「フゥ――――……」
思考が交錯した俺は深く息を吐いてリセットを試みる。
今は彼女が求めている答えを出してやれ、考えるのはそれからだ。
彼女が求めている答え――――。
それは生徒会に所属し、テイバンたちや彼女の兄と協力して……。
「カルティア先輩、貴方は俺と契約を結んで何をさせたかったのですか?」
俺は胸の奥のざわつきを無視できず、答えをあとに控えさせた。
『個人総合一位を獲れたら俺が、獲れなければ彼女がひとつだけ命令を下せる』
それがテイバンとの決闘の日に交わした契約だ。
しかし先程の話と契約の内容、噛み合っているようで僅かに噛み合っていない。
神妙な面持ちで尋ねる俺に対し、彼女は口元を微かに緩めた。
「貴族制廃止を成し遂げ、生まれ変わったエンドリアスという国家の中枢に立っていただきたいのです」
普段通りの口調と声色、そして王女の口から発せられないであろう言葉。
俺はいつの間にか思い込んでいたんだ、思い込まされていた。
カルティア=エンドリアスの命令は俺を生徒会に所属させることだと。




