信者の記憶
「彼女たち? そのケイラ―卿の他にも居るという事か?」
「人数までは把握しきれていませんが、読み取った記憶から複数人なのは確実です」
「複数人、清廉なる卿徒とかいう連中は他の信者とどう違う?」
「詳しいことは分かりませんが信者曰く、『偉大なる死神に最も近い存在』と崇められており死神教の権威者なのは間違いないでしょう」
「死神に最も近い存在とはどういう意味なんだ?」
「……これは私の推測なのですが、恐らく『黒玉』の力を引き出せた者を指しているのだと考えられます」
「黒玉の力?」
「はい、以前黒玉を服用したリーゼンについて話してくれたことを覚えていますか?」
「ああ、魔物討伐試験だろ。覚えている」
思えばレイゼンとの異様な関係はあの日から始まった。
「貴方が黒玉の所持を疑っていたエミリーさんですが、第三回戦のときには既に飲んでいたようなのです」
「……⁉ そんなはずはない。それなら体組織に何らかの変化が起こるはずだ」
実際に黒玉を服用したリーゼンは黒色の肌になって額には角が生えていた。
個人差はあるにしたって見た目に何の変化も起きない事は有り得ない。
「彼女の持っていた黒玉が偽物だった、という可能性はないですか?」
「それはもっとあり得ない! 俺はあの禍々しい魔力の波動を、あの日と同じ邪悪さを感じ取った」
「……という事は黒玉の正しく力を引き出すには何かしらの条件がある、といったところでしょうか」
「その可能性はあるな。彼女の場合はいつ、どういう状況で服用したんだ?」
「第三回戦が開始される10分ほど前に飲んだそうです」
「となるとフィールドに入場する直前になるか……」
俺は彼の話を元にリーゼンが服用した際の出来事と照らし合わせる。
当時のエミリーは緊張や不安で押し潰されそうになり黒玉に縋ったに違いない。
逆にリーゼンは黒玉を試したいがために俺との闘争を求めていた……。
「引き出す条件について何か分かりましたか?」
「……分かんねェ。そもそも比較対象が違い過ぎる」
当時の状況、性格、性別、実力、立場――――むしろ『人間』というカテゴリー以外では全く異なるふたりだ。
「他にも服用者がいたらもう少し絞れたかもしれねェけど」
「それでは本末転倒ではありませんか」
「ふっ、それもそう……いや不謹慎だったな、悪かった」
「先の発言が冗談であったことは理解しています。気に病む必要はありません」
「……そうだけどそうじゃねェよ」
気遣う彼に対しぶっきらぼうに答えた。
レイゼンに対して軽口を叩くなんて馬鹿なのか?
ヤツとは共通の敵を得ただけの敵だ、こうして言葉を交わすだけでも気分が……。
『なんで向き合ってあげないの! なんでも理解しようとしないのっ! なんで、その優しさを……先生にも向けようとしないのよ……』
「…………」
彼を慕う彼女の声が脳裏にちらつく。
「……レイゼン」
俺はミリエラの言葉を受け、感情で言葉を紡ぎ始める。
止めろ、それ以上関わりを持とうとするな!
しかし理性が思考を巡らせ、俺の言葉を否定する。
「俺はお前が怖いんだ。記憶を操作できる部下を持ち、表と裏の世界で大きな権力を有し――――」
不要な情を懐けば必ず後悔する、周りの人間を不幸にする!
「素性も本性も生まれすら分からないお前が怖いんだ」
都合の良いように利用して、悪くなったら切り捨てればいい!
「リーゼンを送り込んだことや竜種召喚を忘れた訳じゃない」
そうだ、ヤツは俺の平穏を脅かす敵――――
「でもお前が死神教と敵対すると言ってくれたとき、俺は……心強いと思えたんだ」
「ッ……⁉」
意図せず漏れた本音で俺の思考は途切れ、レイゼンは金色の瞳を開く。
「裏社会の幹部で何を企んでいるのか分からない上で――――レイゼン、貴方と向き合ってみようと思う」
「――――とう」
ガタッ!
「ひっ⁉ なに……?」
レイゼンが口を開いた瞬間に窓が叩かれたような音が聞こえる。
肩をびくりと震わせ、窓を注視するが誰も居ないし物が投げられた形跡もなかった。
「まあ良いか、なんか言おうとしてたよな?」
「……いえ、そのように考えて頂けるのは喜ばしいことですが、何かそう思うきっかけがあったのかと」
「きっかけって程でもないけど、ある人のお陰で悩みが解消されて……」
『アルムも誰かに頼って良い』
「……いや、悩みの向き合い方が変わっただけだよ」
「あれだけ私を毛嫌いしていた貴方が人の言葉で変えられるなんて、とても大切な人なんですね」
「ああ、かけがえのない大切な人だ」
「……貴方がそう思えるのなら、何よりです」
俺はラビスのことを想いながら笑顔で答える。
しかし対照的にレイゼンは寂しそうな表情を浮かべながらそう呟いた。




