29羽 ヤタカガミ
やってきたぜオオトリ本社ビル。ここのあの天井の根っこがある。……任された、って解釈で良いんだよな、玄雄?
「行きましょう、隼人さん!」
「でもここ普通に入れんのか?」
聞くと涼音は得意げにふふんと鼻を鳴らした。そういえばこいつ……
「私はフライングトルーパーの隊長ですよ? 顔パスですよ!」
「そうか! 頼むぞ!」
威厳がないからすっかり忘れていたが、こいつはオオトリの私設部隊の隊長という超重要役職についてるんだった。そして多分、顔パスという言葉を使いたかっただけだ。
「ちょっと君、止まりなさい!」
「なぜですか!?」
……ダメじゃねえか! 何が顔パスだよ!
「……最初からこうすればよかったんですよ。恥かきました」
「拗ねるなって」
涼音のハバタキで小さくなって換気口から進入することになった。涼音は中に入ってこれないので、根っこの場所が社長室だという情報だけを頼りに進む。
これが上手くいけば……待てよ、ミサイル撃ち込まれても壊れなかった天井を、根っこの場所まで行ったからって壊せるもんなのか? ………………。
細かいことはどうでもいい! 相棒に託されたんだからやるしかねえんだよ!
明かりが見えてきた。通気口から頑張って外をのぞいてみる。フロアは……
『お前だったとはな……歪みの主体者が……』
──!? 背後から聞こえる声。慌てて格子窓を蹴り壊して廊下に出る。
「……お前本当にどこにでも出るな。暇なのか?」
『何とでも言え。これが俺の贖罪だ』
白牢の使者。全身を黒い布でまとった不気味な少年。この世界の玄雄を殺害した張本人。奴は自分のことを“運命の執行人”と言っていた。こいつの力は底知れねえが……
『行かせはせん。もう少しなのだ……』
「だったら力尽くだ!」
新しいファルコブースターでブッ倒してやらぁ! この過去と未来の先を往く力でな!
「何!?」
『当然の結果だ……』
俺は鳥獣化して、奴に向かって突進した。俺には未来が視える、外すわけがない。しかし、俺の体は、ジャンプしたあいつの足の間をすり抜け、どこか分からない部屋の壁に激突した。
『俺に往くべき未来など存在しない。これは俺への罰だ』
「何だと……?」
壁にめり込んだ俺を乱暴に引きはがすと、そのまま天井に投げつけ勢いのままで腹にアッパーを食らわせてくる。
「がはっ……」
『己の力量を見誤ったか。さらばだ』
奴の拳から熱が伝わってくる。……この感覚……ヤベぇ!
「させるか!」
黒い影が両足を揃えた蹴りで白牢の使者を床に叩きつける。チッ……助けられちまったか……
「隼人! 待たせた!」
「……別に待ってねーよ」
俺の持っていた鏡の中から出てきたのだ。上手く使いやがって……。
床に叩きつけられた白牢の使者がふらふらと立ち上がった。……流石にあの程度じゃ倒れねえよな……。
『八田玄雄……何故だ? 鏡界因子は……』
「隼人が壊してくれたんだよ」
『なるほど……やはりお前たちは危険だ』
こいつまさかそのためにわざわざ心臓を……まあいい。
白牢の使者はどす黒い殺気を放つ。こいつも本気ってわけかよ。だが、俺と玄雄が力を合わせれば……
「……? 玄雄、早く鳥獣化しろよ」
「……ああ、そうだな」
「ったく、気ィ抜くなよ」
「悪い、悪い」
玄雄の黒い光沢のある翼が、白牢を映す。白牢は黒い焔に包まれた。しかし奴はものともせずに近づいてくる。
『ぬるい……やはりお前は……』
下段蹴りをかましてくる白牢の足に慌てて飛びつく。玄雄は飛んで回避した。下のくちばしを食い込ませたまま体を這いあがるが、奴はビクともしない。こいつ痛みを感じねえのか? 肩の辺りに達したところで体を掴まれて後ろに投げ捨てられる。
『考え直せ。咎を背負うな』
玄雄が頭上から羽根を飛ばすがこれも片手で軽くあしらわれる。羽根を処理してる今なら……と後ろから突っ込もうとする俺を、後ろ蹴りで吹き飛ばした。こいつ後ろにも目があんじゃねえの!? そして頭上の玄雄に羽根を一枚投げ返して突き刺す。
『諦めろ。お前たちに運命を変える力などない』
ふざけるなよ……運命なんか……こんな悲しい運命……俺が……
「……バカ言うな。俺は運命を変えるつもりなんかない」
……玄雄? お前……今更何を言って……
『ならばお前の世界に帰ることだな。今ならまだ……』
「変えるだけじゃ生温い! こんな運命、跡形もなくぶっ壊してやる!! そうだろ隼人!?」
「あ……おうよ! 当たり前だ!」
紛らわしいんだよ、いちいち。……何だ? 玄雄の羽根の黒が深さを増していく、同時に輝きも高まっていく。
『……やめておけ。後戻りできなくなるぞ』
「やってみなきゃ……分かんねえさ」
何か嫌な予感がする。止めなくては……でも……玄雄、お前、それでいいんだな? だったら止めねえ。それにあいつは希望を捨てたような顔はしていない。
「真実を映せ……ヤタカガミ!」
……どう……なってる……? 見た目が変化したようには見えない。だが……玄雄の姿から、どこか神々しさのようなものを感じたのだ。明らかに今までとは雰囲気が違っていた。
『愚かな……』
「ああ、バカだとも!」
玄雄の翼と白牢の拳がぶつかり合う。玄雄の翼は、白牢の拳を切り裂き、そのまま白牢の腕は真っ二つに切断された。
……だが、それでも効いていない。
「玄雄! 一度距離を……」
「心配すんな! 逆だ!」
逆だと? どういう……!? 玄雄はそのまま、腕の切断面から白牢の体内へと入り込んでいった。な……何やってんだあいつ!?
「やっと会えたな。やっぱりお前は……」
玄雄はどうしてる? そのまま白牢の使者ごと姿を消してしまった。何が起こった?
『……隼人ぉ~』
またしても俺の持っていた鏡の中から、カラスの姿のままヨロヨロと這い出てきた。……もう何が何だかさっぱりだ。
「お前……さっき一体何が起こって……」
『あいつは……鏡界の中に閉じ込めてきた。さあ、天井の根っこに……』
「ていうかお前、いつまでその姿なんだよ?」
『……ああ、それな……ぅぐっ!?』
突然胸を押さえて苦しそうにうずくまった。やっぱりさっきのダメージが相当来てるのか……。仕方ねえ、少し休んで……
「おい、玄雄?」
返事がない。どうなってんだ? 心臓は動いてる。死んでるわけじゃなさそうだが……
玄雄は彫刻のように固まってしまって動かなくなっていた。
「おい、返事しろよ? 玄雄? 玄雄!!」




