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27羽 いびつで身勝手な愛情

 不死鳥の遺伝子が完成すれば彼女を蘇らせることができる。しかしそれは多くの人間の犠牲を伴う、当然鳳雛の家の子ども達も。彼にとってその子らは家族同然であった。彼らだけでもどうにかして守れないだろうか……


 「ん? 待てよ……」


不死鳥の遺伝子が人間の命を吸い尽くすのであれば、人間でなくしてしまえば助かるのではないか? 辛い思いさせることになるかもしれないが、彼には選べなかった。天道昇瀬も鳳雛の家の子ども達も等しく愛しい存在だった。


 「……嘘だ……。こんなことになるなんて……」


実験が初めて失敗した。その子どもは異常な姿に変化していた。ヒヨコほどの大きさ、大きく飛び出た目玉、ところどころむき出しになった筋繊維、翼の付け根には指のようなものが見える。彼は狼狽した。いびつではあったが純粋な善意だったのだ、それがこのような結果に……


 「僕は……僕は何てこと……」


ふと思った。そうだ、そんなに辛いことなら忘れてしまえばいい。今までもずっとそうやって生きてきた。余計なことは頭から捨ててしまえばいいのだ。ただ目的を果たすことだけを考えればいい。ただそれだけで……



――――――――――――――――――



 「……優しいなぁ、お前は」


絞るように吐き出しながら、俺の後頭部にそっと翼を置くと、そのまま自分の胸に押し付けた。くちばしが固いものを貫いた感覚がした。


 「お……お前……」


 「……これで……仕上げだ……」


玄雄はこときれた。こいつ……どうしてこんなこと……さっきまでは本気で俺のこと殺そうと……

待て。仕上げ? 何でそんなこと言い残して逝きやがった? 何か意図があるはずだ。今までもずっとそうだった、こいつの行動は、めちゃくちゃに見えても必ず何か……

未来……運命……そういうことかよ。全部あいつの手の平の上か。だったら最後まで乗ってやろうじゃねえか。



 ファルコブースターの新たな力、俺は少し先の未来が視えた。それはつまり、俺以外が過去にいるってことじゃねえのか? ファルコブースターは俺が速くなるだけの能力だ、その力で時間を抜き去ったんだ。


自分より遅い奴のスピードに合わせるぐらい、可能に決まってるよな?


 「待ってろ、玄雄。今からお前を連れ戻す」


あのままカッコよく死なせてたまるか。俺をその気にさせた責任は取ってもらう。あの天井ぶっ壊して青空を取り戻すまでは、俺の相棒でいてもらうぞ。


 「運命の先を往け、ファルコブースター!」


天空に向け舞い上がる。まだ速すぎる、もっとだ。

過ぎ去った時間に追いつくならもっと遅く。

これじゃまだ追いついてこない。もっとだ。

帰って来い、嘘じゃないなら。

あの時間は、絶対嘘なんかじゃねえ!


 「玄雄ぉおおおおおお!! 戻って来ぉおおおおおおおい!!」




 「……優しいなぁ、お前は」


絞るように吐き出しながら、俺の後頭部にそっと翼を置くと、そのまま自分の胸に押し付けた。


そうはいくかよ。羽毛の柔らかい感覚が顔に押し付けられた。……鳥獣化は解除した。


 「え……隼人……?」

 「……無茶しやがって、このドアホが」

 「そうか、完成したんだ……」

 「命かけてまでやることかよ……」

 「かけてないよ。信じてたから」


……ったく、調子いいこと言いやがって。




 「おい、起きろ」

 「ふにゃ? ……ひぃっ!? ごめんなさいごめんなさい!」


そうだ、俺と玄雄が戦ってる間ずっと気絶していたんだ。目が覚めた涼音は玄雄の姿見ると、飛び跳ねて土下座した。……よっぽど怖かったんだなぁ……。玄雄は涼音を安心させるように優しい声で話しかける。


 「もう殺さないよ。大丈夫」

 「言い方物騒だな」


玄雄の優しい声を聴いた涼音は半泣きになりながら顔を上げた。こいつは気絶する前に気になることを言っていた。その真実を確かめなくては。


 「改造が俺達のためってどういうことだ?」

 「あ! そうですよ、それはですね……」


涼音の話によれば、鳳空飼いが俺達を改造したのは「白い雨」の被害から逃れることができるようにするため“だった”というのだ。最初の動機はそうであったが、度重なる実験の失敗、そしてチックの誕生で、心が壊れてしまったあいつは手段を選ばない、いや、選べないようになってしまった。にわかには信じられない話だ。玄雄は悲痛な顔でうつむいている。


 「それがお前らがガキどもをさらうこととそう関係があるんだ?」


 「空飼さん元に戻ったんですよ! 今の子ども達を改造することはできないから、せめて自分たちで保護しよう……って。それで私たち迎えに行ったんですよ!」


 「お前……あんな感じで来られたら迎えに来たとは思えないだろ……」

 「えっ!?」


しょうがない奴だな……。涼音が嘘をついているわけではなさそうだが、空飼が涼音に嘘をついている可能性は否定できない。


 「……どうやって証明する?」


玄雄は顔を上げた。射貫くような瞳で涼音に問いかける。涼音は一瞬硬直してから答えた。


 「えと……証拠になるか分からないんですけど……天道昇瀬さんの妹さんって人もそう言ってました!」


天道昇瀬……って確か、空飼が生き返らせようとしてるって人だよな? 俺にはよく分からないが、玄雄は「死んでも生き返らせない」と言っていた。


 「……だったら嘘じゃないな。あいつの昇瀬さんへの気持ちは本物だ。」


分からないが、玄雄がそう言うならそうなんだろう。……しかし空飼がなぁ……どうして素直に嫌われてくれねえのかなぁ……


 「隼人、なぜ俺を見る?」

 「……何でもねえよ」


 「そうか、それより涼音、その妹さんの名前って分かる?」

 「えーっと、何て言ってましたっけ……」


涼音はしばらく考え込んだ。俺達も沈黙して待った。しかし答えは出てこなかった。


 「……すみません、役立たずで……」


涼音は崖の先端に言ってしゃがみこんだ。危ないからやめろ。



 「あ……波……」

 「あ? そうだな、すげえ荒波だな……」

 「違います! 思い出しました! 波里さん、って言ってました!」


波里? 天道波里か……変わった名前だな。波里って苗字の人は一人知ってるけど……


 「そうか波里さんが……そういうことか……」

 「いや玄雄、俺達が知ってる波里は苗字だろ? 涼音が言ってるのとは……」


 「ああ、いえ! 腹違いだって言ってましたよ? 名前はえーと……」


な……それじゃあ、まさか……


 「あっ翠さん! 波里翠さんですよ!」


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