26羽 運命の先を往け
「隼人、お前の命貰うぜ」
玄雄の言っている意味が理解できない。足元には気を失った涼音が転がっている。……俺の命を? 帰ってきたと思ったらわけの分からねえこと言いやがって。
「おい、何物騒なこと言ってんだよ?」
「他の奴らを殺しに行くときお前にいちいち邪魔されたら面倒だろ?」
たちの悪い冗談だと思いたかった。だが玄雄の表情は真剣そのもの。…………何でだよ、皆を守れって俺に言ったのはお前じゃねえか。ひょっとしてこいつもまた別の玄雄なのか? 別の世界から来たのかも……だとしたらまだ納得できなくもない。
「お前、本当に俺の知ってる玄雄なのか?」
「ひどいな。俺はお前のこと相棒だと思ってたんだぜ?」
困ったように笑う玄雄を漆黒の羽根が覆い、三本足のカラスが姿を現す。胸の鏡の輝きを、俺は見たことがある。
「ちゃんと鏡は渡してくれたか? あれがある限り俺からは逃げられないからな」
「テメェ……まさか最初から……嘘だって言ってくれよ!」
「隼人、気持ちは分かる。だが真実から目を逸らすな」
運命って……お前までそんなこと言うのかよ、ふざけやがって……。思考ではなく情動が体を動かす。玄雄に突き立てたくちばしは、奴のくちばしに噛み止められていた。
「ぐがががが……」
「あー、それじゃ喋れないな。悪い」
薄笑いを浮かべながらくちばしを離すと、人間の姿に戻って左手で首を掴んでくる。
「なんか初めて会った時思い出すな」
「ふざけんな……この……」
「このままへし折ったらどうなんのかな?」
「なめんな、テメェ……!」
ファルコブースターを玄雄に向けて噴射させて吹き飛ばしつつ距離をとる。
「やるな! 強さと冷静さを併せ持って……この短期間で本当に強くなったな!」
「クソ……何が目的なんだよ! 本当のこと言ってくれよ!」
「さっきも言っただろ? お前意外に俺を止められる奴がいるかな?」
こいつ、ニヤつきやがって……何だ? 体が……熱い……! 俺の体は真っ黒な炎に包まれていた。これは……
「お前……本気で……」
「そのまま燃え尽きな」
このままやられてたまるか……! 俺がいなくなったら、誰が皆を守るんだよ!
「ぅああああああああっ!!」
「おぉ?」
我慢比べだ! お前も一緒に燃やしてやる!
「抱き着くなよ。セクハラだぞ?」
「クソ……この……」
何で平気なんだよ? こいつは何も感じねえのかよ? どうすれば勝てる? ここからどうすれば……
「くっついてるだけか? もう打つ手なしか?」
「このぐらい……気合で……」
「どうにもならないよ。やっぱりお前には荷が重いか」
片手で面倒そうに引きはがすと大きくため息をついた。こんなところで……終わってたまるか……
もういないよ。あの白い雨に吸われてしまった
悲劇はお話の中だけでたくさん……
理屈は分からんが、俺が止めねばならない。……友達だからな
……偽物は、消えるのか? 誰にも……誰からも忘れられて……
俺達は作られた命なんだよね!
エンターテイメントは平和な世界にしか存在しえないと、改めて実感しましたよ
少年の笑顔を守るのがヒーローの役目だからな
私もともとそういう薄汚いやつだから
私どうすればいいの……もう分かんない……
どうして引き裂かれないといけないの……
お前が助けてくれたんだろ? ありがとな
翠ちゃん、私信じるよ
カリンさんの代わりにこの子達を守らないといけないの
でも……やっぱりちょっと……寂しいな……
「こんな悲しい運命……終わりにしようぜ」
「……へえ」
自分でも何が起こったか分からないが、俺を焼き尽くさんとしていた黒い焔はきれいさっぱり消えてしまっていた。
“完成したか、だったら……!”
“言いながら玄雄は右手を前に出す。”
“突き出された右手が白く輝くと俺の体は再び黒い焔に包まれた。”
……何だこのビジョンは? でもそういうことなら……!
「何!?」
右手をくちばしで掴んでそのまま飛び立つと、玄雄は初めて余裕そうな表情を崩した。……やっぱり未来が視えている……! 自覚した瞬間俺の翼は姿を変えた。
「ぐぅ……まるで時計だな」
玄雄の評した通り、右の翼は短針に、左の翼は長針のような形に変化する。これは……ファルコブースターの新たな力か?
「光を超えたか……!」
“玄雄は再度鳥獣化して足の鉤爪を俺の腹に突き刺す。”
「させるか!」
「グォッ!」
鳥獣化した瞬間、すかさず足に羽根を撃ち込む。怯んだ隙をついて、こっちが顔面に蹴りを食らわせてやる。
「やるな、この……」
そのまま顔に爪を食いこませて体ごと地面に叩きつける。この距離なら確実に仕留められる。このままこいつを……
夕陽! 無事だったか!
……しばらくお前の家泊まっていいか?
隼人。お前がみんなを守るんだ。
持ち味を生かせ、お前の強みは何だ?
夕陽が作ったものなら消し炭でも食えると思うけどなぁ……
だって俺、最強じゃん?
はっはっは! このツンデレ不良娘め!
俺とお前が力合わせたら無敵なんだよ。
夕陽の髪、切ってやってくれないか?
お前はこの銃で撃ち抜かないと意味がない。
どっちもお前だ。自分と向き合え。
あんなもん俺達がぶち壊してやりますよ。な、隼人?
俺、別の世界から来たんだ
虫のいいこと言ってるのは分かってる! でも俺は俺で信じてくれないか?
胸に突き刺そうとしたくちばしが寸前のところで静止する。……こいつを、本当に……
「……優しいなぁ、お前は」
絞るように吐き出しながら、俺の後頭部にそっと翼を置くと、そのまま自分の胸に押し付けた。くちばしが固いものを貫いた感覚がした。
「お……お前……」
「……これで……仕上げだ……」
玄雄はこときれた。こいつ……どうしてこんなこと……さっきまでは本気で俺のこと殺そうと……
…………待て。仕上げ? 何でそんなこと言い残して逝きやがった? 何か意図があるはずだ。今までもずっとそうだった、こいつの行動は、めちゃくちゃに見えても必ず何か……
未来……運命……そういうことかよ。全部あいつの手の平の上か。だったら最後まで、乗ってやろうじゃねえか。




