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25羽 命の重さ

 「それじゃあ契約も完了したことだし、俺行ってくるわ」

 『待て。行ってどうする? 答え次第だ』

 「保険まで掛けたくせに、慎重だなぁ」

 『当然だ』


 「俺一つ考えたんだけどさ……この前、半端に蝋化したやつを見たんだよ」


ノワールのことだ。なぜそうなったのか俺なりに考えていた。他の蝋化した人たちとノワールの違い、鳳雛の家で育った者たちの違い、決定的なものが一つだけある。ならば答えは一つだ。


 「バードロイドは多分、鳥の分だけ“命の量”が多いんだと思う」

 『……なるほど』



 「俺が狩るよ。結構足しになるんじゃないかな?」

 『お前は本気で……』


 「まずは涼音と隼人だな。力を取り戻してる奴らさえ潰せば後の仕事は楽になる」

 『……いいだろう、ならばお前に任せよう』






 「く……隼人、おかえり」

 小屋の扉を開けると夕陽が出迎えてくれる、後は俺の隣に「ただいま」と笑う玄雄がいればいつも通りなのに。短い間のことだったのにすごく恋しく感じる。……何だかんだ楽しかったんだな……。


 「ただいま、変わったことなかったか?」

 「うん……ねえ、隼人……本当のこと、教えて?」


夕陽がためらいながら尋ねてきた。うつむいてしまって見えにくいが、よく見ると目が赤く腫れている。……こいつ玄雄のこと……でも玄雄が、玄雄がやられたって知ったら……


 「……いいよ、なんとなく分かってたし、私だってそこまでニブくないし、玄雄の選んだことなら、それでも……」


夕陽はしゃがみこんで顔を膝にうずめた。……見えないけどきっと泣いている。


 「大丈夫だよ……どんな現実でもちゃんと受け入れるから……。でも……やっぱりちょっと……寂しいな……」


夕陽は言葉を詰まらせてしまう。情けねぇなぁ、やはり俺にはこの雨をやませる方法が分からない。……玄雄、お前はそれでいいのかよ? 夕陽がこんな顔してるのに、お前は放っておいていいのかよ?

 なあ、生きてんなら戻って来いよ。皆を守れなんて大役押し付けやがってよ、せめて夕陽一人分ぐらいお前が背負えよ。戻ってきてこの雨を晴らしてくれよ。……お前にしか、できねえことだろうが。


 「ごめん、隼人……みっともないこと見せちゃったね」


目の下を指先で拭いながら無理矢理口角を引っ張り上げる。……違うだろ、お前は何も悪くねえじゃねえか。俺が玄雄を守れなかったからだ。夕陽のせいでも、まして玄雄のせいでもない、俺の責任だ。


 「……俺が守るよ。俺じゃ頼りねえかもしれねえけど」

 「え……?」

 「玄雄が一番守りたかったのはお前だから」


そうだよな? 大丈夫さ、今更一人分ぐらい増えたってどうってことない。罪滅ぼしってわけじゃねえけど、いつかあいつが帰ってきたときのために、こいつのことを……



ドンドンドン! ドン!



そして誰かが突然ドアを叩く。…………まさか、玄雄!?


 「お前、今までどこに……」


 「隼人さん、こんにちは」

 「…………涼音?」


涼音はドアの隙間から恐る恐る小屋の中をのぞき込む。そしてホッと息をついて勝ち誇ったような表情を浮かべた。


 「玄雄さんはいないようですね!」

 「お前どの面下げて会いに来やがった?」

 「お話があります」


こいつどういうつもりだ。話があると言って連れてこられたのはサスペンスドラマのクライマックスで出てきそうな断崖絶壁だ。俺の罪を暴こうとでもいうのか? 別に隠してる罪なんかねえが。


 「話ってなんだよ?」

 「隼人さん、私たちに協力してください」


こいつは何を言ってやがる。こいつらに協力、ってガキどもさらうのを手伝えって言ってんのか?


 「するわけねえだろ。お前自分が何してるか分かってんのか?」

 「分かってないのは隼人さんの方です!」


俺の方が? どういうことだ。まだ何か俺の知らない情報があるのか?


 「私たちは子ども達を保護しに行っただけなんです!」

 「保護だと? 鳳空飼の命令でか?」

 「その通りです!」

 「お前な……あいつは俺達を改造した奴だぞ? そんな奴のことどうやって信じろって言うんだよ?」

 「隼人さんは本当のことを知らないんです! 最初の理由は違ったんですよ! それでも許されることじゃないかもしれないですけど……でも鳳雛の家を本当に大事にしてたんですよ!」


本当のこと? 不死鳥の遺伝子を完成させるためにバードロイドを作ってたんじゃなかったのか? あいつは俺達のこと実験台としか見てないようなこと幾つも言って……


 「どういうことだよ?」

 「空飼さんが私たちを改造したのは……」



 「不死鳥の餌にするためだ!」


……この声……嘘だろ? あいつ……生きてたのか……そうだよな、あのバカがあんな簡単にくたばるはずねえもんな……


 「玄雄……」

 「よう隼人」


軽いんだよ、どれだけ心配したと……涼音は「ひっ」と声を上げて俺の背中に隠れた。……そういえばこの間殺されかけてたもんな……


 「涼音、なぜ怯えているんだ?」

 「べべべ別に怯えてなんかないです!」


 「まあいいや。でも実に合理的だと思うよ、鳳空飼の実験は。お前たちを改造することで不死鳥の遺伝子の材料を探しつつ、蘇生能力を使うための効率的な餌にもする。上手いこと考えたよな」


 「違います! 勝手な想像……」

 「お前は黙ってろよ」


震えがりそうになるほど冷涼に涼音の言葉を遮る。玄雄は──いない? ……マズい!


 「隼人、何で邪魔するんだ?」

 「……いくら何でもやりすぎだろ!」


いつの間にか涼音の背後に立っていた玄雄は、今まさにその首に手刀を振り下ろそうとしてるところだった。鳥獣化して受け止めた俺の左翼はバッサリ切り落とされている。これ……首なんかに当たってたら死んでたぞ!

涼音は恐怖のあまり泡を吹いて倒れている。ガキどもをさらおうとしたのは許せねえが、それとこれとは別だ。こいつを殺す権利は誰にもない。


 「でも二人一緒にいてくれて助かったよ。手間が省ける」


 「……どういう意味だ」


 「隼人、仕上げだ。お前の命を貰う」


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