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23羽 光が刺す

 「私どうすればいいの……もう分かんない……」


 あれから波里さんのことがずっと引っ掛かっていた。どうして泣いていたんだ、なぜ苦しんでいるんだ。……俺にはどうしようもできない。俺はあの人に信じてもらってないから。


キーコ、キーコ


公園のブランコが寂しそうに泣きながら揺れている。今日は風なんか吹いてないのにおかしいな。まあ、どうでもいいか。


キィー! キィー!


ブランコの揺れる音が主張を強める。ははは、乱暴な風さんだな。


 「女の子が泣いてるのに何で無視するの!?」

 「……俺は少女の涙を拭うハンカチにはなれないんだよ」


俺が答えるとその少女は「えっ」と後ずさった。今の言い方キザッたらしすぎたな。……ていうかこいつ見たことあるな。こいつも鳳雛の家の……


 「お前ひょっとして……えーと、千切か?」

 「うん、……あ! 隼人だ!」


正解だったようだ。それにしても何故にこんなところで一人泣いていたのか。


 「ママが……うぅううう……」


……そうか。義母を殺されてしまった寂しさを紛らわせるために……いや、それ余計に寂しくならねえか?


 「パパとママは……すごく尊かったの……」

 「は?」

 「あんなに尊い夫婦がどうして引き裂かれないといけないの……」


……俺にはこいつの言っていることが理解できない。やはり俺は少女の涙を拭うハンカチにはなれないようだ。


 「……尊かったもん」

 「つまりどういうことだ」

 「尊い男女を一番近くで見つめていたいじゃない? そう思ったら娘になるしか……」


 「…………お前何言ってんの?」

 「伝わってない!?」

 「逆になぜ伝わると思った!?」


詳しく話を聞いてみると、パパとママというのは千切の里親のことではないらしい。千切は理想の夫婦を見つけてその二人の娘になるのが夢だったらしい。そして目星をつけていた夫婦の奥さんの方が白い雨に吸われて死んでしまったというわけだ。


 「お前……ヤバいな……」

 「どうして!?」


あっ、自覚症状がないんだ……可哀想に……。俺は精一杯の憐憫の眼を千切に向けてやった。


 「分かってくれたんだね……可哀想なんだよ……」

 「ああ、本当に可哀想だ」

 「妹までいなくなっちゃって……」

 「ちょっと待て。お前、その夫婦の娘のことを勝手に妹認定してるわけじゃないよな?」

 「…………ダメなの?」

 「可哀想に……」


彼女はもう手遅れのようだ。せめてこれ以上の苦しみを味わわせないためにも守ってやらないとな。


 「千切。過ぎたことはどうにもならない。だからこの鏡を……」




 『ちょーっと待った! その鏡は回収させてもらうわよ』


……誰だ!? 声の方に視線を向けると2羽の小鳥が羽ばたいていた。いや、俺はこの声を知っている。鏡界の中で聞いた声と同じだ。


 「彩さん、巌さん……もう玄雄はここにいない」

 『知ってるわ。でもその鏡はこの世界にとって異分子なの』

 『そういうことだ! ほら、こっちに渡しな?』


異分子だと? この鏡が、玄雄が俺に託してくれたものが? ……ちゃんちゃらおかしいぜ。たとえこの世界の人間じゃなかったとしても、あいつが俺の相棒だった事実は変わらない。


 「渡すわけにはいかない」

 『……あっそ。だったら力尽くで!』


彩さんがドスのきいた声で叫ぶと巌さんもろともその姿が消えた。消えたといっても逃げたわけではない。何らかの方法で俺からは認識できなくしているのだ。……あれを何とかしないと、どうすれば……


 「ファルコブースター!」

 『何よあいつ……ハエみたいに飛び回っちゃって』


これでいい! 空間を広く使え、不規則を意識しろ、動きを読ませるな、俺のスピードには誰も追いつけない! つまり奴らの攻撃は当たらない!


 『流石隼人、いい判断だ。……でも俺のこと舐めすぎじゃねえか?』


 「あぁ? ……うおっ!?」


辺り一帯を埋め尽くさんばかりの電撃が放たれる。マジかよ! あれだけの出力が……早くこの空間から離れなければ……


 「あ、ああ……」


千切の奴逃げてなかったのか……! ……クソッ!!


 「がぁああああああっ!」

 「……へ? ハヤブサ……」


痛ってえなぁ……! 千切に翼を覆いかぶせる形になる。どうやら無事だったようだ。……みんな守るって決めたもんな……投げ出すわけにはいかねえ。


 「……千切……お前、さっさと逃げろ……」

 「わ、分かった……何これぇ!」


千切に鏡を無理やり押し付けてこの場から逃げさせる。クソが、乱暴な真似しやがってよ! 体が痺れやがる。ああ、もう最悪だ。


 『やるじゃん、でも甘いんだよなぁ……巌!』


 『分かってるよ! ……ごっ……』

 「うひぃっ!?」



……俺だって分かってるよ。玄雄の鏡が狙いなら、千切に鏡を持たせとけばそっちを狙うだろうってのは。

 そこを狙った。千切の周りにまで範囲を限定できれば、俺の光速で網羅できる。


 「つまりあんたを捕らえられるってわけさ!」

 『ぐ……やるなぁ……』


鉤爪を巌さんに突き刺す。パキッと音がした。すると人間の姿に戻った巌さんはガクッと首を垂れた。


 「あ……あれ……ここは……俺、何やってんだ?」

 「巌さん! 正気に戻ったんですね!」

 「うぉっ!? 鳥が喋った!?」


ああ、いっけね! でも良かった、あとは彩さんだ。


 『はぁ~、マジ最悪、有りえない。ていうかあんたその子を囮に使ったの?』

 「違うね、これは俺の誓いだ!」


守るってのはそいつの傷全部に責任を背負うってことだ。俺はそんな重い責任背負うのなんかごめんだぜ。だから……


 「俺の仲間はもう誰一人傷つけさせない」

 『カッコつけてるけど私そっちじゃないわよ?』


……………………。……クソッ! 一体どこにいるんだ! ……! 巌さんの首に鳥の脚のような跡がついている。……まさか……!


 「何この感じ……? すごく痛い!」

 『傷つけさせないんだって? だったら取引ね。その鏡全部叩き割りな』


姿見えない敵相手に油断した俺の責任だ。いや、でも鏡は一枚でも残っていれば……上手く誤魔化してこいつを騙せれば……


 『姑息なこと考えるのよしなよ? その鏡と鏡界因子ミラージュファクターは共鳴して互いの存在を知らせる。誤魔化そうとしたって無駄なわけ。ほら、早くして?』


捨てるしかないのか……。でもこれは玄雄に託されたものだ……何か……何か……


 「隼人、よく分かんねえけど……俺のことなら気にしなくていいぞ?」

 「……へ?」


巌さんは何言ってんだ? ああ、見えてないし聞こえてないから自分が人質にされてるって気づいてないんだ。


 『さあ、選べ。友への約束か仲間への誓いk……』

 「お前なら何とかなるって! 俺の勘だけど!」

 『むぅ~……偉そうに啖呵切ったクセに、その誓いって奴捨てちゃうの? ダッサー!』


 『さあ』

 「どうした?」

 『捨てろ!』

 「大丈夫だよ」



 「俺は……どっちも捨てない」


 『はぁ? どっちもはないの! 二者択一なの!』

 「じゃあ痺れさせてやるよ」

 『意味不明なことを……へ?』


巌さんの首の横を、稲妻の如き速さで駆け抜ける。俺の翼が切り裂いた、巌さんの首じゃない。操られて言葉を失った悲しい小鳥を。


 『貴……様……何故……』


あんたが巌さんの首を捕まえてるって、俺に知られちまったのが運の尽きだぜ。そこにいる。そこにいるって分かってるなら、俺が光の速さで駆けつける。あんたが気付いた時には、もうそこにな! 人質取ったって無駄ってことさ。


 「名付けて、ファルコブースター……“ライトニングサンダー”」

 『この……後悔……するぞ……』


またもやパキッという音とともに、彩さんは人間の姿に戻った。急に彩さんが肩の上に現れたので、巌さんはビックリしてしまっている。……ああ、いっけね。


千切1章登場回:27,28話

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