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21羽 上手い生き方

 「あら、早間くんじゃない」

 「うげ」


 つい失礼な本音が漏れてしまう。銀子さんの友達の波里なみさとみどりさん。悪い人ではないと思うけどどうにも苦手だ。


 「うげ、とは何よ。失礼な子ね」

 「はは、すみません……。今日は銀子さんのところ行ってないんですか?」

 「私だってそうしたいわよ。でも自分の用事もしないといけないの」

 「ですよね……すみません……」


俺が失礼なことを言ってしまったからか、いちいち言い方がとげとげしい。さっさと切り上げて、俺も自分の用事をしよう。早くみんなに鏡を渡さなければ。


 「じゃあ、俺はこの辺で……」

 「待って。あなたかく公恵きみえって人、知ってる?」


知ってるも何も。今からちょうどその人の家に行こうとしていたところだ。でもどうして波里さんが公恵さんのことを? ……よく分からんが、二人を会わせてはいけない気がする。俺の直感がそう言っている。


 「いやぁ……連絡も取ってないんでどこにいるのやら……」

 「あっそう。じゃあやっぱり鳳雛の家の人なんだね」


上手く誤魔化せたみたいだな。さてと、それじゃあ行くか!




 「あの……何でついてくるんです?」

 「暇だから」


 参ったな。……あくまで俺の気のせいだし大丈夫かな……。うーん、一回別のところ行ってみよう。それでまだついてきたら、また考えよう! よし、これだ!



 「早間隼人と申します。応史郎くんは……」


予定変更して、武藤応史郎というやつの家にやってきた。波里さんはまだついてきている。一体何が目的なんだ……。暇潰しと言っていたが絶対違う。暇があれば銀子さんのところに行っているはずだ。この人は絶対そうだ。


 「はいはい、応史郎ですよっと……」

 「久しぶりだな、俺のこと憶えてるか?」

 「俺のこと憶えてるか? って、自分で名乗ってたじゃねえか。久しぶりだな、隼人」


軽い口調で再開の挨拶を交わす。相手の言葉を繰り返す癖はガキの頃から変わっていないな。


 「……ん? 隼人、そちらの女性は? ひょっとしてコレか?」


ニヤニヤしながら小指を立てる。そういうこと言うのマジで怖いからやめていただきたい。


 「応史郎、そういうのじゃ……」

 「ふざけたこと言ってると水平線の彼方に叩きこむわよ」


波里さんの照れ隠し……というはずはなく、本気で不快そうに言い放つ。応史郎は軽く震え上がった。


 「水平線の彼方に叩きこむわよ……って、おっかねえなー。ははは」

 「こっちの言葉繰り返すのも鬱陶しいからやめてくれない?」


初対面だよな? よくこんなにズケズケ言えるものだ。図々しいところはちょっとあいつに似てるかな……ああ、今は玄雄のことは関係ない。


 「やめてくれない? って言われましても、癖なもんで……」

 「だったらその癖直して」

 「この人怖い……」


分かる。




結局その後、鏡を渡してすぐに立ち去った。もうちょっと話したかったが応史郎が波里さんに怯えてどうしようもなかったので。……そしてまだついてきている。


 「波里さん、いいんですか?」

 「何? 私が一緒だと何か不都合?」

 「ああ、いや、そういうわけじゃ……」


やりづれぇ。……公恵さんのところ行くか。公恵さんも銀子さんと仲良かったし、意外と波里さんとも仲良くなれるかも。



 しかし俺の見通しが甘かった。波里さんは公恵さんが出て来るなり、玄関に組み倒して首をギュッとつかんだ。


 「ちょっと何やってんすか!?」

 「あんたが郭公恵ね」


俺の声は聞こえていないようだ。公恵さんはひたすらに戸惑っている。そりゃそうだ。


 「……いかにも……私が郭公恵だけど……ごほっ!」

 「2年前、銀子ちゃんを囮にして逃げたって話は本当かしら?」


波里さんは首を掴む右手にさらに力を籠める。……ていうかその話が本当なら俺も聞き捨てならない。


 「……まあ、半分本当って言うか……ゲべッ!」

 「あんた死にたいみたいね」

 「ゴバッ! ……あの……話を……」


事実なら許されざることだ、鳳雛の家の絆を利用したということになるのだから。しかし何か言い分がありそうだ。


 「波里さん、話だけでも聞いてあげたらどうです?」

 「ちっ……どれ、言い訳してごらんなさい」


床に叩きつけるようにしながら手を離す。乱暴だな……。公恵さんは体を起こして少し息を整える。波里さんの目が語っている「ここから先は慎重に言葉を選べ」と。


 「銀子ちゃんとバッタリ……うぐぐぁ……何で?」

 「なれなれしい」


再び公恵さんの首を捕まえる。……過激派かよ。


 「銀子さんとバッタリ会って……久しぶりだねー、って話してたら、白蝋守天ナイトキャンドルに襲われて……」

 「それで銀子ちゃんを囮に?」

 「違うんです、銀子さんの方から……私がひきつけるからその隙に逃げて、って……」

 「……なるほどね、銀子ちゃんらしいけど」


波里さんは一人で納得して手を緩めた。公恵さんの肩を軽く小突いて、しかめ面で立ち去っていく。波里さんは小声で「分かんない、分かんない」とぼやいていた。



 「……行っちゃった」

 「何だったのあの人……」

 「悪い人じゃないと思うんですけど……」


銀子さんが絡むとああなっちゃうのかな……俺もあの人のことは良く知らないけど……。公恵さんは安心してへたり込んでしまった。俺も鏡渡して帰るか……


 「隼人、あの人追いかけなくていいの?」

 「えっ? いや、たまたま一緒になっただけなんで」

 「でも、何か話したそうにしてたよ?」


波里さんが? 本当にそうだとしても俺に話したかったわけじゃないと思うけどな。そんなことを考えていると公恵さんにため息をつかれた。


 「……私ね、本当はあの時銀子ちゃんを囮にするつもりだったの」

 「は?」


何言ってんだこいつ、波里さんが聞いてたらマジで殺されてるぞ。ていうか何でそんなこと考えたんだよ。


 「何でですか?」

 「私もともとそういう薄汚いやつだから。……でも銀子ちゃんに先に言われちゃって。半分本当って言ったのそういう意味。全然意味分からなかった……ホントお人好しだよね、自分が嫌んなっちゃった。……あの人もその時の私と同じ顔してたよ」


波里さんが? あの人は自分のために他人を犠牲にするような人じゃないと思うけど……何か……気になるな……銀子さんの友達なら俺の仲間だ。玄雄ならきっと追いかける。


 「……あんたもお人好しだね。行ってあげなよ」

 「……そうっすね。これだけ渡しときます! じゃあ!」




 追いつくのにさほど時間はかからなかった。俺めっちゃ足速いから。


 「波里さん!」

 「……何よ?」


振り向きざまに強い口調でキッと睨み付けてくるが、目尻から一本筋が通っていた。……何でだ?


 「あの……どうかしたんですか?」

 「あなたに言っても分かんないわよ!」

 「でも……泣いてるのにほっとけないっすよ!」

 「ほっといて! これは私だけの問題なの!」


そう言われても分かんねえよ! 俺でダメなら他の誰でも信用できる人に聞いてもらえばいいだろ。


 「何でそんなこと言うんです? 相談すればいいじゃないですか、それこそ銀子さんとかに……」

 「バカ言わないで! 銀子ちゃんに言えるわけないじゃない!」


叫びながらまた波里さんが泣きそうになるのでそれ以上立ち入れなかった。……何を隠してる?


 「……分かりました。無理に言わなくていいです。……でも隠されるのは、きっと銀子さんだって寂しいですよ」


 「私どうすればいいの……もう分かんない……」


頭を抱える波里さんに何も声を掛けられなかった。……俺も結局口先だけか、あいつみたいにはいかねえな。


応史郎1章登場回:24話

公恵1章登場回:25話

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