19羽 鏡界線
「隼人よ、約束通り、俺について教えよう」
「おう、それはいいけどよ……」
こんな山奥に来る必要がどこにあるんだ。普段いる場所も似たようなもんだけどさ、だったらわざわざ移動する必要ないじゃん?
「えーっと、この辺に……ありゃ?」
「どうした?」
「ない……まあいいや。座ろうぜ」
「おう……」
倒れている木の幹の上にドカリと腰を下ろす。こいつは何を探していたのだろうか。……そんなこと今はどうでもいいか。
「……隼人、俺が今から変なこと言っても信じてくれるか?」
不安そうに横目で見つめてくる。こいつは今更何言ってんだよ。
「信じるよ。だからさっさと話せ」
「そうか! 驚かないでくれよ? ……俺、別の世界から来たんだ」
何だ、そんなことかよ。そうか、そうか。別の世界から…………
「え?」
「この世界の八田玄雄とは、別の八田玄雄なんだ」
意味が分からない。何だよ、またいつもの冗談かよ……うわ、すっごい真面目な顔。いや、でもよく考えたら……ありえなくは、ないのか? でも、もしこいつの話が本当だったら……
「じゃあ、玄雄はもう……」
「……この世界の俺と繋がれない。多分、お前の言う通りだ」
そうかよ。ひょっとして今目の前にいる玄雄が、何かの理由であの時助かってたんじゃないかって、そうか、俺の知ってる玄雄はもう死んでるんだな。
「隼人!」
「な、何だよ?」
ガッと肩を掴まれる。何だこいつ。
「なんかもう……虫のいいこと言ってるのは分かってるんだけど……俺は俺で信じてくれないか? 本当に助けたいんだ!」
……そんな話か。
「今更だろ。むしろ別世界の玄雄って聞いて安心したぜ。俺は幽霊が苦手だからな」
「……隼人……!」
本当はちょっとガッカリしたけどな。でも俺はこいつを信じてみることに決めた。今更曲げたりしない。
「で、別世界ってどういう……」
「ん、すぐ見せる」
は? 見せる? それはどういった……玄雄は俺の肩を掴んだまま羽根の形をした鏡をヒラつかせた。
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「……ここは……?」
何が起こったし。真っ暗な空間の中に大量の鏡が浮かんでいる。どこだここは。
「ここが鏡界、世界と世界の間のところだ!」
……すげぇな。なんかもう言葉が出てこない。ん? 変だな、鏡に映ってる俺と動きがリン
クしない。
「おい、玄雄……何かこの鏡変だぞ?」
「隼人……お前……やっぱりそうか……そこに映ってるのは別の世界のお前だ」
別の世界の俺……どいつもこいつも難しい顔してんなぁ、俺もこんな顔してんのかな。
「……お前はどの世界から来たんだ?」
「俺のは……ここだ!」
ここがこいつのいた世界。俺はトラックの上を軽快に走っていた。何で今更こんな……俺はもうとっくに走るのやめたのに。
「お前の世界の空は、青いのか?」
「……うん、確か青かったと思う」
「そうか、走ったら気持ちいいだろうな」
「うん、そうだな……ッ!?」
俺にもわかった。空気が途端にピリッとした。……何だこの感じは?
『よお玄雄』
『ここで始末させてもらうわよ』
鏡越しに声が聞こえるって言ってたのはこの感覚か。俺にも聞こえた。玄雄はまなじりを釣り上げながら肩をプルプル震わせている。
「お前……巌さんと彩さんを……」
「またあいつの仕業なのか?」
「間違いない……こんなことができるのはあいつしかいない」
この間の諏訪朗みたいに操られてるってことかよ。白牢の使者、あの野郎……
「隼人、戦えるか?」
「ああ? 何寝ぼけたこと聞いてんだよ?」
「……そうか。関係ないもんな」
玄雄はなぜか寂しそうに、操られている彩さんと巌さんのほうに向き直る。
「……真実を映せ、ヤタカガミ」
玄雄が厳かにつぶやくと、鏡界内の鏡が一斉に輝きだす。その真っ白な輝きを吸い込むようにして、三本足のカラスが顕現した。
「……お前、玄雄か?」
「当たり前だろ?」
どこか禍々しさを感じる姿をしている。あいつは……いや、見とれてる場合じゃない。俺も鳥獣化だ!
『あっははは! 筆舌尽くしてボコしてあげる』
彩さんは余裕そうに笑った。その余裕も今の内……姿が見えない! 巌さんもだ、一体どこに……?
「玄雄!」
「ハバタキを使って不可視化したか……隼人、神経とがらせろよ!」
厄介だな、この野郎。だがそうと分かれば! ファルコブースター・マッハ全開だ。気配感じたらすぐにブチ抜いてやる。
「ぐおっ!」
「玄雄!?」
いつの間に!? 玄雄は腹を押さえてうずくまっていた。血が流れてる。もう近くまで来てるのか。集中だ、意識を集中させろ、研ぎ澄ませ……
「あがぁっ!」
何だこれ、体がしびれる! 脳天だ、真上か、逃がすと思うなよ!
「何!?」
真上に全速で飛翔するが何もいない。逃げられるはずねえのに!
『隼人、これはさぁ、不可視とかそんなんじゃないの。あんたらは私たちのことを認識できない、存在してないのと同じなのよ』
はぁ!? 何だよそれ、そんなのどうやって……いや、諦めるな。なんかできるはずだ、何か……
『何もできねえよ、隼人』
「隼人!」
何かに頭を掴まれる感覚。瞬間、全身に強烈な電撃が走る。……体が……痺れえt……
『お前は……帰りなッ!』
な投げとbsされる抵抗できんい!
「玄雄! ……うっ」
俺は元いた森に倒れていた。玄雄はどうなった、無事なのか? ……まさか。いや、滅多なこと考えるもんじゃねえぜ! あいつの強さは異常だ、そんなやすやすとやられるわけがない。
……生きてんだよな? 入口になっていた鏡を握りしめる。何も感じない、この鏡何なんだよ、使えねぇ!
「玄雄! 生きてんなら返事しろよ!! おい!!」
返事はない。叫び声は木々の隙間を無意味にこだました。何でだよ、ようやく本当のお前がちょっと分かったと思ったのに……何で……




