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18羽 かたれない本音

 「……随分賑やかになったね」

 「そーね、あんたのとこの男どもが続々と厄介者押し付けてくれるお蔭で」


 私が鳳雛の家でヒバリの手伝いをするようになってからまだ数週間もたっていないのだが、次々と新たな仲間が増えていた。ヒバリは口ではこう言っているが、顔がにやけるのを抑えきれていない。まったく可愛いんだから。しかし一つ問題があった。



 「あの、洗濯……」

 「ああ、もう終わったよ。ありがとうね」


 「だったら、みんなと遊んであげようかな」

 「よーし皆! コンドルお兄さんを捕まえてみろ~!」


 「なら、掃除でもしようかな」

 「モッピー、モッピー、モップ掛け~ふんふんふふ~ん♪」


 「じゃあ花壇の手入れでも……」

 「夕陽お姉ちゃん! トギがやったよ! 褒めて褒めて!」


 「ヒバリ、なんか必要なものとか……」

 「うーん、買い出しなら昨日羽地さんが行ってくれたし……」



……あれ、私必要?




 「あれ? 夕陽、早かったな」


 今日はもうやることないから大丈夫だよ、とヒバリが言ってくれた。その気遣いが逆に苦しい。……玄雄と隼人に料理でも作ろう。正直自分の料理は可もなく不可もない無感動なものだと自覚はしている。それでも玄雄は、本当に心から嬉しそうに食べてくれるのだ。

 かなり強引だったけど、あの時私を連れだしてくれて、感謝している。それだけじゃなくて色々気遣ってくれて……恩人をこんな風に気休めに使おうとしてしまう自分に嫌気がさしてくる。玄雄はどうしてこんなにも私のことを気にかけてくれるのだろう、私は別に何もしていないのに。


 「俺に聞くなよ。直接聞けばいいじゃねえか」


 隼人に聞いたところでこんな感じの身も蓋もない答えが返ってくるだけだろうと予想はしていたが、まさか一字一句予想通りとは。ある意味予想外だ。……確かめたいな、玄雄の本当の気持ち。


 「まあ、でも、お前を守りたい、ってのは本当だと思うぜ。……多分な」

 「……どうしてそう思うの?」


 「確かにあいつは……何考えてんのか分かんねぇし、大事なことでも全然話してくれねぇし、ムカつかされてばっかりだし……ああ、なんか腹立ってきた」

 「あの……」


 「あ? ……ああ、悪い。つまりさ、夕陽を守りたいって気持ちまで嘘だったら、俺はあいつのこと信じられないと思う。そんだけだ」

 「……そっか。隼人も、玄雄の本当の気持ち知りたいんだね」

 「その言い方なんか嫌だからやめろ」




 「夕陽、出掛けよう!」


 ほら、またこうして突拍子もないこと言い始める。でも、いつもは隼人と一緒に出掛けるのに何で今日は私なんだろう。立ち上がろうとしていた隼人は「俺じゃねえのか」って感じでずっこけている。


 「おぉ、そうか、行ってこい行ってこい!」

 「隼人、ひょっとして寂しいのか?」

 「んなワケあるかぁ!」


急いで準備をしてついていく。玄雄と隼人が普段何してるのかも気になってたし……




 「玄雄、上機嫌だね」

 「え? そりゃあ、夕陽とのデートだからな!」

 「デートって……いつもこうして皆のところ回ってるの?」

 「うん、そうそう」


 「玄雄、親しき中にも礼儀ありって知ってる?」

 「前提おかしくない?」

 「……インターホンも押さないのに?」

 「あ。」

 「ダメだよ」

 「……気を付けます」



 そんなこんなで目的地にたどり着いたようだ、玄雄が一軒家の前で足を止めた。どこに行くかすら教えてくれないと隼人が愚痴っていたけど本当だった。……ここは誰の家だろう。無言で入ろうとする玄雄の襟を掴んでインターホンを押させる。


 「すいませーん、葵さんはいらっしゃいます……」

 「玄雄!? 玄雄なのね!?」


インターホンの音はそのままブツリと切れてしまった。葵の家かぁ……。それにしてもあの興奮しようはどうしたというのだろう。玄雄もなんだか落ち着かない……と言うか怯えているような様子だ。この二人何かあったのかな?


 「玄雄ぉ!!」


玄関から飛び出してきた葵は喜色満面といった様子だ。そしてそのまま玄雄に飛びつき、仰向けになった玄雄の眼球に舌を這わせた。……………………!?


 「離れてくれ。葵、親しき中にも礼儀ありって知ってるか? ていうかそこまで親しくないし」

 「もぉ、つれないんだから……」


玄雄は今しがた身に刻んだ知識を披露しながら、上に覆いかぶさる葵を押しのけて立ち上がった。何? 何が起こってるの? この二人一体どういう関係? 思考の整理が追い付かない。ていうか私何でこんなに焦ってるの?


 「あら、夕陽も来てたの? 何の用?」

 「え、あの、その……」


私と玄雄で全然態度違くない? いや、あんなことされても困るけど、やっぱり何かあるのかな……どうしよう、多分今すごい挙動不審になってる。


 「デートしてたら近く通ったから久し振りに会いたいな、って話になってさ」


玄雄がどもる私の肩に手を回しながら、流れるように嘘を吐く。そういうこと言って大丈夫なの? そういうことじゃないの? 耳元で私にだけ聞こえるように「大丈夫」とささやいてくれる。何が大丈夫なのかはよく分からないが、大丈夫なのだろう。


 「あ、これお土産。じゃあな!」


例の鏡を渡してさっさと立ち去ろうとするが、葵は呼び止めた。玄雄じゃなくて私を。


 「ちょっと夕陽と話してもいい?」


ちょっと怖いなぁ……。葵は早速「玄雄は聞いちゃダーメ」と釘を刺した。何言われるんだろう……


 「……どう、したの?」

 「ちょっと失礼」


頬を両の手の平で挟み込んで顔を近づけてくる。瞳がヒヤリとする感覚を覚える。え、待って、これは……


 「あんたの涙、結構いい味してるじゃない」

 「ええ!? な、何を……」

 「呼び止めてごめんね、もう行っていいよ。……せいぜいお幸せに」



 本当に何だったのだろう……。他人の涙をなめるのが彼女の趣味だとでもいうのだろうか? 玄雄は知っていたのだとすればあの怯えた様子にも納得できる。


 「あれはあいつの趣味だ」


玄雄が断言した。何と奇特な趣味だろう……


 「涙の味で相手の考えとか気持ちが分かるんだと」

 「へ、へぇー、それは随分……」


趣味と実益を兼ね備えた特技というわけだ。あれ? 考えや感情が分かる……確か葵、別れ際に……



 「せいぜいお幸せに」



…………いや、どういう意味!?





 「あ? まあ、葵は玄雄のこと好きだったからな」


 隼人は心なしか少し拗ねているように見える。隼人も行きたかったのかな……。それにしてもそんなこと全然知らなかった。


 「そうだったんだ……」

 「気づいてなかったのかよ……お前と玄雄が喋ってる時ずっと睨んでたぜ」

 「でも私そんなつもり……」

 「分かってるよ、あいつが一人でいたの心配してたんだろ?」


そういう隼人も昔よく玄雄に絡んでた気がするけど。……ああ、そっか、隼人も心配してたんだ。


 「……うん、隼人と同じ」

 「はぁ!? 俺は違ぇから! ただあいつの態度が気に入らなくてだな……」


明らかに狼狽えている。嘘が下手だなぁ……。そうこうしているうちに席を外していた玄雄が戻ってきた。


 「はいはい。玄雄帰ってきたよ」

 「な!?」

 「何何? 何の話してたんだ?」

 「何でもねえよ!」


楽しいな。……ずっとこうして、笑っていられたらいいな。

玄雄が連れてきてくれたこの場所で。


葵の1章登場回:18,19話

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