14羽 有情ハンティング
「なあ、大造。養ってくれる年上の美人欲しくね?」
「諏訪朗、お前は何を言っているんだ」
「やっぱり剣の道で食っていくのって大変なわけよ。パトロンが欲しいよなー、って」
「パトロンか……だがなぜ年上の美人である必要が?」
「分かってねえなぁ……ほら、励みになんだろ? 色々とさ」
「励み……俺の場合は何だろうな……」
「猟師だったら……ドラゴン狩りたいとかでいいんじゃね?」
「ドラゴンは実在しないぞ?」
「分かってるよ、冗談だって。固えなぁ」
「もうすぐ修行に入るのに、こんなことで俺は大丈夫だろうか……」
「ま、何とかなるっしょ。お互い一流になったらまた会おうぜ」
「……そうだな。また会おう、諏訪朗」
堅物の大造とお調子者の諏訪朗、性格のまったく違う二人であったが不思議と気があった。一つの道を極めんとする者同士響き合うところがあったのかもしれない。互いに成長した姿での再会を約し合い、大造は山籠もりの修業を開始した。諏訪朗とかわした約束が、厳しい野生の暮らしの中での大造の励みになっていた。
諏訪朗が……諏訪朗の体を借りているだけと言っていたが面倒臭いので諏訪朗といっておく。諏訪朗がくちばしにくわえた刀を横にして構え、玄雄と対峙する。助けに入れないのがもどかしい。
玄雄は先ほど足を貫かれていたが、出血はもう止まっている。バードロイドは回復力も高いとはいえ、少し速すぎる気が……
「鏡界因子か。やっぱり何か訳アリか?」
『黙れ、運命は俺が正す』
諏訪朗が正面から玄雄に切りかかる。玄雄が真上に跳んで回避するとそのまま姿を消した。……え?
「隼人、こっちだ」
「え、おい、何で……」
目の前に突然玄雄が現れた。何が起きてんだよ……。そのまま俺の翼を掴んで、さっき俺がはじかれた方向へ飛び込んだ。……ここさっきまで玄雄が立ってたところじゃねえか。
「おい、どうなってんだよ」
「隼人、これ持ってろ」
「これ……お前の羽根じゃねえか」
さっぱり状況が呑み込めない。攻撃をかわされた諏訪朗は目の前の木をぶった切ってそのまま方向転換した。
「隼人! 来るぞ!」
「ちっ……ファルコブースター!」
ファルコブースターを噴射させて回避しつつ、玄雄を吹き飛ばす。……何だ? あいつの通った空間がなくなっている?
「隼人、それ持っとけば切り裂かれた空間も通れるから!」
「は? 切り裂かれた空間……?」
じゃああれかよ、あいつの刀、空間ごと切ってるってのか? そんなのありかよ! とにかく、いくらバードロイドの体が頑丈とはいえ、あれだな、切られたら死ぬ!
『もう気付いたか……』
「ダテに2年も旅してないんだよ!」
……そうだ、あいつの狙いは玄雄だった。空間の裂け目をピュンピュン移動しながら切り合っている。俺完全に蚊帳の外じゃねえか。
「お前の目的は何だ!?」
『お前に言っても意味はない。大人しくこの刀の錆びになれ』
空間の裂け目から、玄雄の背後に諏訪朗が現れる。ヤベェ!
『……ほう。まさか撃たれるとはな』
諏訪朗のくちばしから硝煙が立ち上っていた。これって……
「諏訪朗、よくもまあそんなナマクラ持ってこれたな」
小屋の屋根で大造が猟銃を構えていた。あいつ、隠れてろって言ったのに……
「理屈は分からんがそのツバメが諏訪朗というなら、俺が止めねばならない。……友達だからな」
『……だから俺は諏訪朗の体を借りているだけだと……面倒だな』
消えた!? いや、裂け目に入ったのか。……あいつの狙いは!
「大造!」
「隼人!? 何を……」
上手いこと移動できたみたいだ!大造の体に覆いかぶさる。
『その程度で守れたつもりか?』
やっぱり来たか。邪魔者から先に潰そうってことかよ。そうはいかねえ……何!?諏訪朗の刀は俺の体をすり抜けて大造の体を裂いていた。
「どういうことだよ!?」
『安心しろ、命までは取らん』
俺の存在している空間を一度切り離したって言うのか!? ズルいだろそれ! 大造は体の正面に大きな切り傷を負って気絶していた。
『これで邪魔者はいなくなった』
「大造は関係ないだろ!」
『この体に刻まれた記憶が教えている。あいつの射撃技術を敵に回すと厄介だとな』
守れたつもりだったのに結局何の役にも立たなかったじゃねえか、クソが。それにあいつは俺のこと敵とすら認識してねえ。情けねえ、こんな……
「隼人!」
…………! 分かったよ、今は自分責めてる時間じゃねえ。これが必要なんだな。気絶している大造の銃を掴んで空間の裂け目に投げ入れる。
「サンキュー、隼人!」
『何のつもりだ?』
「お前はこの銃で撃ち抜かないと意味がない。大造と諏訪朗の友情を食い荒らすお前は」
わざわざ自分から縛り課しやがって。……あいつ猟銃使ったことあんのかな。
「これ初めて使うな……」
「無いのかよ!」
無茶苦茶言いやがって、仕方ねえな!
「お前は黙って撃ってろ! 俺が圧倒的超スピードで追い込んでやる!」
「隼人……! 分かった、一発だ!頼む!」
裂け目を使って移動するコツは掴んだ。これなら速さでは負けねえ!
『……お前は俺の敵ではない』
「あんまり俺をなめるなよ!」
なるべく玄雄の近く、もっと近くに! 素人のあいつでも確実に狙い撃てるところまで!
「玄雄、今だ!」
猟銃の発砲音が鳴り響く。
『……お前は甘い。一直線すぎる』
「隼人!」
突然背後から頭を掴まれる。このままじゃ俺に当たる……考えろ、このままじゃ役立たずだぞ!
「……一直線で……何が悪い!!」
背後から出てきたってことはそこに裂け目があるんだな!? ファルコブースターの噴射で諏訪朗ごと引きずり込む。
『ほう。だが外れたな』
「これからブツケんだよぉ!」
玄雄の撃った弾丸は空しく宙を走る。ここから全開で飛んで間に合うか……でもやるしかねえ! 全身に気合を入れるとファルコブースターの形状が変化し始める。これならいける!
『銃弾の行き先に回り込んだだと!?』
「食らいやがれぇ!」
進化したファルコブースターの勢いも乗せつつ、思いっ切り蹴り飛ばす。
『……この体は……もう戦えんか』
パキッと何かが割れた音がするのと同時に諏訪朗が人間の姿に戻った。
「……やった、のか?」
「隼人……やっぱりお前最高だな!」
「うるせえな」
「照れるなよ。そうだ、ファルコブースターが進化した記念に名前を付けてやろう」
「……カッコいいので頼むぜ」
「ファルコブースター……“マッハソニック”。やっぱりこれだな!」
「マッハソニックって……意味かぶってんじゃねえか!」
「なぜ気づいた!?」
「気づくわ! バカにすんなよ!?」
俺も少しは役に立てただろうか。こいつの相棒名乗るには、やっぱりまだ足りないような気がした。でも、いつか絶対追いついてやるからな。




